Ⅰ-31:vs キングモービィ 3
……え?
慌てて海の中の流れを察知する。
何か大きいものが、私たちの真下から、正確に真上に向かって上昇している! キングモービィだ!
それを告げると、テタニは慌てて左へ逃げる。
数秒後、私達のいた場所からキングモービィが飛び出し、その巨体が空を舞い、海豚のようにくるっと回って海に飛び込む。
さらに、その時に嫌がらせのように鱗を飛ばして攻撃してくるのだ。
鱗だけではない。飛び出す時、そして飛び込む時の波も、容赦なく私たちに襲い掛かる。
しかも。
(……ダメだ! 水の流れが速すぎて、キングモービィの場所がわからない!)
「分かった、一旦空に逃げよう!」
しかし、空に上がったところで、キングモービィは海の中から正確に私たちをスナイプしてくる。
直前まで、その気配を消したまま。
完全なるヒット&アウェイ戦法。
レヴィアタンは、その鱗によってほとんどの攻撃を跳ね返すことができるにもかかわらず、そもそもの攻撃すら許可しない。
そして、敵を休ませる暇も与えぬまま、一方的な攻撃を行いつづけるのだ。
それが、レヴィアタンが最強と呼ばれる所以。
「うー! なんで向こうは片目潰したのにこっちの場所がわかるのさ! もう!」
「文句言ってないで回避に集中しろ! 私達が倒れたら、次はニシオギクボを攻撃するぞ!」
げっ。それはまずい。でも、どうしようもない。
「サーシャちゃん、アタシの杖に乗ってるだけなんだから暇でしょ! なんかアイツ見つける方法、思いつかない?」
(私だって鱗弾くので忙しいって!
それに、そんなの土の中に埋まってる石っころ探せって言ってるようなもんだぞ)
「土の、中……?」
そう言うと、サーシャは徐に海面に降りた。
「ありがとね、サーシャ。いいこと思いついちゃった。{反響定位}!
……見ぃつけたぁ! 行くよサーシャちゃん、{石弾連砲}」
掛け声に合わせて、私もテタニの魔力を増幅する。
そして彼女は、大量の岩石を、暗い海の中に打ち込んだ。
「よし、当たったぁ!」
(でも、効いてないみたい)
テタニが何をしたかと言えば、蝙蝠のように超音波でキングモービィを見つけたのだという。
それを聞いて拾う音波の周波数域を広げてみれば、私は興味深いことに気づいた。
キングモービィも、同じことをしている。なら、その音を出してやれば今度はキングモービィが私たちを見つけられなくなるのではないだろうか?
キングモービィが使っている周波数と同じ周波数の音を出すことはできる。
けれども、音色が、決定的に違う。私が出せるのは、純音波だけ。
でも、フーリエ変換という手法がある。いくつかの周波数の異なる音を足していけば、同じ音色を作ることは、理論上は可能だ。
一度音の組み合わせさえ作ってしまえば、あとは≪中心教義≫で足し算するだけ。
何度か音の組み合わせを試行錯誤し、できた偽音波を、適当な場所から流してみる。
すると、その場所からキングモービィが飛び出してきた!
(やった、成功だ!)
もうこうなってしまえば、波と鱗にだけ気をつければいい。
私たちはキングモービィの場所を知ることはできるけど、逆はできなくなった。
立場は、完全に逆転したのだ。
問題は、私たちに有効な攻撃手段が無い、という致命的なものただ一つとなった。
しかし、それも長くは続かなかった。
キングモービィの奴、使う音を変えてきたのだ。
ならば、こっちも新しい音を作るまで!
その、無限に続くかと思われたいたちごっこ。それもまた、キングモービィが行動を変えてきたのだ。
キングモービィは、海の中に居ながらにして、火を噴いた。
当然、周りの海水は蒸発し、対流して上へ向かう。急激な体積の増加を伴いながら。
その結果、発生するのは……水蒸気爆発!
海面の高さすら誤認させていたので、多少威力は弱まったとは思うけれども、その威力は絶大だった。
私たちは、またもや上空へと吹き飛ばされることになったのだ。
しかも、今回は爆発の衝撃付きである。その結果として……、
テタニの杖から、外れてしまった。そして、体の向きが悪かったのだ。
面が下を向いていれば、音波の力で空中に浮ける。しかし、今の私は、頂点が下を向いていた。そして。
海の中に、落ちる。
視界が、急に暗転する。
ここは、どこだ? というか、息ができない。
カビとはいえ、所詮私も生物なので、呼吸をしなければ生きていけない。
でもここは、海の中。酸素なんて、ない。
あぁ、そのうち、息苦しくなって、折角見つけた、この世界での希望も、潰えてしまうのか……。
……あれ?
いつまでたっても、息苦しくなんてならない。
そういえば、前もこんなことがあったな……?
もしかして、この体、呼吸するのに酸素が必要ないのでは?
確か、細菌か何かに酸素無しで呼吸する生物がいたはず。
今の私って、そういう生物?
わからない。けど、生きている。
とりあえず、海面に出よう。流れを操って、上へ上へと進む。
……? え? 天井? なんで?
ちょっと待てよ? この壁の向こうに、視点を置いて、自分自身の方を見れば……。
そこには、キングモービィがいた。と、いうことは。
私は今、キングモービィの口の中にいる!




