Ⅰ-30:vs キングモービィ 2
「{石弾連砲}!」
テタニの魔法がキングモービィの目を狙う。しかし、それが効いているようには見えない。
その間にロセはキングモービィに急接近する。どうやらあの人、接近戦を仕掛けるつもりらしい。
だが、キングモービィは、そんなこと関係ないとも言わんばかりに、大きく口を開け、炎を噴き出した。
……え? お前火噴くの?
周囲の海水が一気に蒸発する。
とっさに水の量を多めにした{渦水流}を体の周りに出して身を守る。
……が、炎による上昇気流の中、上方向への渦を出したのが悪かった。
私とテタニは、空高く打ち上げられてしまう。
完全にミスった。次があれば、渦の向きを変えよう。
(ごめん、テタニ。完全にミスった)
「平気平気、爆発で吹っ飛ばされることくらい、よくあることだよ!」
テタニは笑顔でそう言った。
本当にそれはよくあることなのか?
しかしテタニは、偶然得てしまった位置エネルギーを最大限活用し、上空からキングモービィに岩の楔を打ち付ける。
訂正、本当によくあることらしい。これは完全に場数を踏んだ戦法だ。
私もとっさに杖を経由して流れこんでくる魔力の流れを増幅し、手助けをする。
その楔たちは全て、キングモービィの右目を直撃した。
まさか私が真上にぶっ飛ばされたなどとは思わなかったのだろう。
予想外の方向からの攻撃に、狂いのたうち回るキングモービィ。いたそう
「サーシャちゃん、今何かした?」
風を起こして落下の衝撃を和らげながら、テタニがそう聞いてきた。
(杖からくる魔力を、ちょっと増幅しただけ)
「そっか、ありがと、サーシャちゃん」
テタニの風を強めて、静かに着水しながら答える。
だが、キングモービィは私たちの場所をもう見つけていたのだろう。再び口を大きく開けた。
しかし、キングモービィが再び火を噴くことは能わなかった。
それよりも早く、蒼い稲妻がその口の中に突き刺さったからだ。
(今のは?)
「ラジングルマ、ローレンスの持ってる魔導具よ」
ローレンス、とんでもないもの隠し持ってたんだな……。
でもありがたい。手数は、多いに越したことは無いのだから。
だが、それらの攻撃が、キングモービィに効果を発揮しているようには見えなかった。
右目には、相変わらずさっきの岩が刺さって、そこにロセの鎖鎌がそれに巻き付いているけど……
……え?
あなた、なぜそこにいるんです?
ロセはキングモービィが私たちの攻撃に気をとられている間に近寄り、彼女の身長ほどはあろうキングモービィの右目の前に立っていた。
そしてその鎖鎌で、キングモービィの目玉をほじくり返している。やり方がエグい。
もちろん、キングモービィも怒り狂っているが――気づくのが遅すぎた。
完全に懐に入られてしまっては、振りほどくしか無いのだろう。
しかしそれも、彼女が鎖を命綱のようにキングモービィの体に固定しているため、もはや無駄なあがきだった。
だけど、今度はキングモービィはロセに気をとられている。チャンスだ。
のたうち回っているキングモービィから発せられる逆巻く白波に注意しつつ、右側面に回る。
テタニ曰く、鰓に麻痺毒を打ち込むのだそうだ。鰓から血液に入ったら全身を周るもんね、発想がエグイなおい。
前の世界でも、大きな魚を捌く時、包丁を最初に入れるのは鰓だった。どうやら、鱗に覆われている魚にとって鰓が最大の弱点となるのはこの世界でも同じらしい。
でも、ここで一つ、疑問点がある。
レヴィアタンは確かに魚みたいな鱗を持っているが、じゃあ胸鰭や尾鰭のつき方はと言えば、完全に鯨。
鯨には鰓は無い。なら、レヴィアタンに鰓があるとは限らないのではないだろうか?
そう考えていると、テタニの落ち込んだ声が聞こえてきた。
「嘘……。鰓が、無い……」
やっぱり無いんだ、鰓。
と、その時。急に、キングモービィが海に潜りだした。
巨大な尾鰭の起こす波は、それこそシャレにならないので、一度空中に逃げ、波が収まったのを見届けてから水上に戻る。
「……済まんな、逃がしてしまった」
いつの間にかすぐそこにいたロセが謝ってくる。
どうやら海中に引きずり込まれるよりも前に脱出できたらしい。
「できれば直接脳髄までたたいておきたかったが、眼球だけで精いっぱいだった」
「まぁ、追い払えたんならいいんじゃないですか? ニシオギクボに、戻りましょー」
「……テタニ、何を言っている? 下からくるぞ、気をつけろ!」




