Ⅰ-26:暴発
「……あれ?」
(トシフ、何したの)
「いや、対象の重量を一時的に増やす魔法を使えば剣も持ち上げられるようになると思ったんだが……」
その結果、私の体が自重で崩壊して潰れたようだ。
そりゃだって、私の体って基本不定形の流体だもん。≪中心教義≫のおかげで多少皮の水分抜いたり硬い成分あつめて皮を硬くしたりはできるようになったけど、流石に限界がある。
(っていうかトシフ、いい加減魔法止めてくれ)
≪中心教義≫で作った外側の硬めにした部分が壊れたから、まるでアツアツのフライパンの上に置かれたバターみたいに体が広がっていく。
かといって、新しく作ったところですぐ崩壊するのが目に見えてるので、もうどうしようもない。
「……あ、すまん。完全に見とれてた」
(……私のこの姿がそんなに珍しい?)
そもそも、普段は三角錐になってるけどこっちの方が本来の姿だ。でも、確かにここまで平面状になったのは、旅に出てからは初めてかもしれない。大概は三角錐か、土に潜っていたからね。
思い出せば、ミーシャの家だとこれがデフォルトだったんだけどなぁ。
久しぶりに、この本来の姿で過ごすのもいいかもしれない。
「いや、なんというか……。思ったよりでかかったんだなお前。」
(そりゃ、体積同じで薄くなったら広くなるでしょ)
そんな呑気な事を言いながら、体に力を入れて、広がりすぎた体をまとめる。不思議なことに、この体はまとまるときに一様に縮まってくるのではなく、必ず一度迷路状の物(脈、と私は呼んでいる)が残る。森にいたころはミーシャと一緒に面白がって観察していたっけ。
それをトシフに告げれば、彼も興味深そうに観察を始めた。
「で、サーシャ。その脈、っていうのは、突然光ったりするものなのかい?」
(……え?)
何その現象。
言われてみれば、確かに光っている、ような気がする。体が平面状でよく見えなかったので、すかさず視覚を≪水属性魔術≫によるものに切り替えれば、トシフの掌程度の領域の脈が光っているのが確認できた。
と同時に。その場所から、上方向に向けて、渦状の水が飛び出した。
何が起きているのかわからない。とりあえず、船が沈むとまずいため、出てきた水は≪多次元収納≫送りにする。けれども、その水は、止まらない!
私が混乱している中、我に返ったトシフが光っている脈に剣を落とせば、ようやく水の渦が出るのが止まった。
(なんだったんだ? 今の)
「……お前≪魔導埃黴≫だろ? 魔法陣じゃないのか?」
……え? どういうこと?
しかし、それをトシフに聞くことはできなかった。
体が、ズンと重くなったのだ。これは、どこかで経験したような感触。
確か、アレだ。吊り橋をリフォームした後の。つまり……マナ切れ。でも、その時ほどは強くはなく、体も動かそうと思えば動くし、何より感覚を遮断せずに済んでいる。
【アカシック・セカンドが告知します。
個体名:サーシャ・タカトオ・ナガノ・ニホンが、以下の技能を獲得しました。
{|渦水流≪アクアヴォーテクス≫}
以上です。】
あー。≪水属性魔術≫で技能を習得したからマナが切れたのか。
(……おい、サーシャ。聞こえてるか?)
(うん、大丈夫。ちょっとマナ切れ起こしかけてるけど)
(ならよかった。……部屋まで運ぼう。三角錐状になれるか?)
そりゃ、この不定形じゃ運びにくいよな……。
≪中心教義≫を使っていつもの三角錐になる。うん、まだ大丈夫だ。
(びっくりした……)
(それは俺が言いたいわ。ってか、サーシャ。もしかして、あの魔法陣って狙って出したわけじゃないよな?)
んなわけあるかい。それができたら、ハニー・トラップ以外の自衛手段になるわ。
……まぁ、今ので技能を獲得したからその手段ができたわけだけど。
(そもそも、なんで私ぺちゃんこにされたんだっけ?)
(悪かったって。ってことは、あの魔法陣ができたのは偶然って訳か……)
この時私は、普通にしてたら偶然魔法陣が暴発するのは、自分ながらにして流石に怖すぎると思った。
(でも、よかった。これで毒に頼らなくて済む)
(それ自体は喜ばしいことだが……)
そして私は、部屋に戻るなりすぐベッドで眠ってしまった。




