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Ⅰ-24:その名前は

「妹は一夜にして千人の命を奪った。一緒に妹も死んだ。だから、一番上の姉である私がその十字架を背負うことにした。それを償うだけの力と体が、(この世界)の私にはある」


 沈黙が、訪れた。どう言葉を返すべきか、わからなかった。


「……すまんな。重い話をしてしまって。ところで、最終的に、と言ったな? と言うことは、君は他にも目的があるのか?」


 正直、伝えるべきかは迷った。でも、ロセは私と違って、場数を踏んでいる。何か探す手段をくれるかもしれない。

 だから、話してみることにした。古屋敷のバス停から、この世界に来るまでの事を。


「……そうか。それは……いや、サーシャ。君も、妹のことを大切に思っているのなら、一つ方法がある」


 そう言うとロセは私を目の高さまで持ち上げ、真剣な目つきで続けた。


「君の妹さんがこの世界で名を得ているか、それならば、知る方法がある。ただ……これは、とても残酷なこと。そして、元の世界に戻ることが難しいと言える、最大の理由。それでも、聞きたいか?」

(それが、妹を探す手立てになるのなら)

「あぁ、わかった。サーシャ。君の前の世界でのご両親の氏名は思い出せるな?」


 忘れるわけがないじゃないか。父が石神井茂、母が石神井美穂だ。


「じゃあサーシャ。君の、名前は? そして、妹さんの、名前は?」


 ……? ロセは、一体何を言っているんだ?

 私は、サーシャ・タカトオ・ナガノ・ニホン……って、そうじゃない。

 私の前の世界での名前は、名前は……名前は?


 なんだっけ?


 どうして? なんで、自分の名前を思い出せないんだ?

 じゃあ、妹の名前は?

 叫んでいたじゃないか、あの山で、追いかけながら。

 なのに、どうして。どうして、どうして!


 思い出すことが、できないのだろう……?


「……落ち着いたか、サーシャ」


 ごめん。みっともないところを見せちゃったね……


「無理もない。私とて、かつてはそうなったのだから。それで、妹さんの名前は、思い出せたのか?」


 いや、それが……全く、思い出せなかった。

 名前も、姿もわからないのに、どうやって探したらいいものか。


「……そうか。だが、よかったな、サーシャ。妹さんは、この世界での名を得ている」

(……どういうこと?)

「我々世界を歩く者ディメンジョン・ウォーカーは、この世界での名を持たされると同時に、前の世界での名を捨てさせられるのだよ。でも、そうしなければ我々は世界の圧力に押しつぶされる。この世界に来てしまった時点で、魂か、名か。そのどちらかしか残ることはできない。多くの世界を歩く者ディメンジョン・ウォーカーと情報共有をしてきたが、少なくとも七百年前以降にこの世界に来た者においては、これは反例の全くない事実だ。」

(つまり、名前を思い出せないということは、名前をつけて、保護した人がいるってことか)


 逆に、名前を覚えていたら、この世界の名を与えられていないということ。

 つまりミーシャの言葉が正しいなら、妹はもういなくなっていたということだ。


「そういうことだ。それに、探す手段は一つだけ残されている。このシステムは、ふざけたシステムだが、きちんとできているシステムなのは認めざるを得ない。……サーシャ、今のお前の名は何だ」

(サーシャ・タカトオ・ナガノ・ニホン……! そういうことか!)


 ギブンネームの後ろの出身地。これは、私も妹も同じ病院で生まれたのだから、変わっているわけがない。

 そう、タカトオ・ナガノ・ニホンの名を持つものを探せばいいのだ。


「あぁ。姿かたちがいくら変わろうと、名を偽ることはできん。それに、来る時にお互いにしっかり手を掴んだ、と言ったな? ならば、妹さんだって君がこの世界に来ているんじゃないかと、うすうすながらにして感づいているだろう。会うことができる可能性があるならば、会いに行ってあげるべきだ」


 そうだ、ね。地道に情報を集めて、必ずや見つけ出すんだ、妹を。

 よし。まずは、トシフたちについていってオウォッキャンまで行こう。

 それと、ハニー・トラップに頼らない自衛の手段も持たなくては。


(ありがとう、ロセ。これからどうすればいいのか、なんとなく見えてきたよ)

「いいんだ。久しぶりに、同郷の者と出会えたのが、正直私も少しうれしくもあるからな」

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