Ⅰ-22:ママ
ニシオギクボに連れられた先。そこには、よく見知った三つの顔と、ロセがいた。
おそらく、三人とロセが冒険者同士話をしていたのだろう。その中に、ニシオギクボが割り込んだ、のだと思う。
うん、どうしてこうなった?
「お、おいサーシャ。お前部屋から出てきて、鍵はどうした? それに、その娘は誰だ?」
(文句はこの娘に言ってくれ。私は巻き込まれただけなんだ)
こうやってきちんと疑問を投げかけているトシフなんてまだいい方で、テタニなんか「ロセさんの……娘さん!?」と完全に混乱してしまっている。
無理もないだろう。
それに……、ニシオギクボが『ママ』と呼んだその存在。それは、ロセだった。
と、いうことは、ロセも私と同じ世界を歩く者なのだろうか?
まぁ、それは置いといて、だ。
(あの、ニシオギクボちゃん? 四人で話してる中に割り込んじゃダメだよね?)
(静かだった。から、問題ない)
いやそれ絶対気まずい雰囲気だったやつだよね?
そう心の中で突っ込んでいると、ロセが徐に口を開いた。
「落ち着け、お前ら。そしてニシオギクボ。後で、お説教だ」
(えー)
ニシオギクボはそう答えると、露骨に嫌な顔をした。
うん、ここだけを見れば、完全に母娘のやり取りだ。
でも、ロセとニシオギクボは血が繋がっているようには見えない。
だいたい、髪の色だってロセが深い海のような青色なのに対し、ニシオギクボは美しい金糸雀のような黄色だ。
そもそも、ニシオギクボは船霊だし。
そう考えていると、ずっとうつむいたままだったローレンスが口を開いた。
「ロセさん、ご結婚なさってたのですか? およびいただければ、祝福に駆け付けましたのに」
「違うわ。この子は船霊でね、私はただの名付け親よ。それでも、ママと呼んで慕ってくれるのはいいんだがな……」
そう言うと彼女は柔和な笑みを浮かべた。まんざらでもなさそうである。
「それで、ニシオギクボ。どうしてこの子を連れてきたんだい?」
(はなす、動く、空を飛ぶ。それに、ワタシの名前を、不思議な響きって)
「わかった、ありがとう。後は私が判断するから、その子を放してあげてくれ」
するとニシオギクボは私をコトリと机に置いて、どこかへ消えていった。
「……すまんな。あの子は気になったことがあるとすぐ報告したがるのだ。しかし、それで助かってる部分もあるゆえ、一概に強くも言えんのだよ」
「いいんじゃない? 船に穴とか開いてるの見逃したら、シャレにならないでしょ?」
あまりにも直球なテタニの返事に、まぁ、そうなんだがな、と苦々しく答えるロセ。
うん、これはテタニが悪い。
「それにしても、確かにニシオギクボって不思議な響きよねー」
「そうか? 別に予め決めておいたルールに従ってつけたゆえ、私は特に不思議にも思わなかったが」
そりゃ名付け親は不思議に思ったらそんな名前つけないでしょうよ。
それに……、いま、ロセは予め決めておいたルールと言った。
うん、きっとそうだ。ならば、念のため。
(へー。じゃあそのうち、『チノ』とか『カミスワ』とかも?)
「はは、さすがにそこまで行くのは相当、先、に……」
やっぱりだ。これで、あの推測は、正しかったと確信を持って言える。
即ち、ロセが世界を歩く者だと。
だって、ニシオギクボにキチジョージ――いや、西荻窪と吉祥寺――は、前の世界の、中央線の駅名。
そこに私が同じく中央線の駅名の茅野、上諏訪をぶつけてみれば、向こうもそれを知っていた。間違いは無いだろう。
そして、ロセも私がそうである、と気づいたようだ。
「……なるほどな。そうだとすれば、全て説明がつく。悪いがトシフ。サーシャを少し借りるぞ」
「えっ? それはどういう……」
驚いた様子でトシフが言う。
「お前らとてそれなりの上級冒険者だ。そんなお前らが対応を決めかねる存在とあれば、私も興味が出たまでよ。それに、ニシオギクボがここに連れてきた、と言う点でもな。では……、三人とも、さっき言ったことを、肝に銘じておくように」
そう言うとロセは私を抱え上げ、立ち上がった。
彼女は、三人が慌てて立ち上がって「相談に乗っていただき、ありがとうございました」と頭を下げるのを見届けてから、私を連れて談話室から退出した。
やっぱり、私の意見は無視ですか。




