Ⅰ-21:相談
注意:多少人種差別的な発言があり、気を悪くされてしまう方がいらっしゃるかもしれません
「……それで、今朝サーシャは組合員証を受け取ったのです」
ニシオギクボの談話室。四人の男女が向かい合って座っていた。
Sランク冒険者、ロセ。Aランク冒険者、トシフ。Bランク冒険者、テタニ、ローレンスの四人である。
トシフ、テタニ、ローレンスの三人が、カチュアの森で出会った不思議な魔族について、冒険者の先輩でもあるロセに相談していたのだ。
「……ふむ。審査でBランクの逸材、それも通常Eランクーの魔導埃黴か。下手したら、本来の目的である魔導具以上に貴重なものを発掘したわけだ。で、私に相談に来たのは、その自慢だけじゃなかろう。さしずめ、突然現れた強力すぎる仲間に、どう接したらいいのかわからない、といったところか」
その声に、一斉にうつむく三人。どうやら図星のようだ。
ロセはため息をついてから、口を開いた。
「トシフ。そんなんじゃ、組合長は務まらんぞ」
「余計なお世話だ。まだ組合長になる気はねーよ。……ロセ。ハニー・トラップって、知ってるよな」
「知っている。あの非人道的な精製法しかない凶悪な毒だろう? それがどうかしたのか?」
最凶の毒、ハニー・トラップ。
元来、蜂蜜とは強力な消毒性能があるため、解毒薬として使用されることもしばしばある。
地域によっては、怪我に対して傷薬代わりに塗ることもあるくらいだ。
しかし、ごくまれに蜂蜜で食中毒になり、死に至ることがある。
なぜかはよくわからないが乳児に多いため、国によっては子供に蜂蜜を食べさせるのを禁止させているほどだ。
解毒薬であるはずの蜂蜜から生じる猛毒、それが蜂蜜の罠と呼ばれる所以なのだ。
しかもこの毒、そもそもの蜂蜜の中には入っていない。
そのためこの毒は、蜂蜜で毒死させた人間の腸から抽出する、という悪魔の所業でしか精製できないとされている。
「じゃ、渓谷蜘蛛に対してサーシャが出した毒がそれだ、と言ったら、信じるか?」
「……信じよう。確かに、魔導埃黴はそこまで名前を聞く魔物ではないが、森の中に入れば度々見かける。にもかかわらず、毒を出すと言う報告は聞いたことは無い。とすれば、そもそも種として毒を持っているわけではないだろう。ならば、サーシャが何らかのスキルを使っていると見るのが賢明だ。可能性を排除してはならん」
「……やはり俺と同じ結論にたどり着いたか。幸いにも俺達への敵対意識はなかったが、あったら即刻討伐対象だ」
「そう考えますと、サーシャさんが同行を願い出てくれたのは、監視の面でも都合がよかったd」
「待て、ローレンス」
ロセはローレンスの言葉を遮り、椅子から立ち上がった。
三人はそんなロセをまじまじと見つめる。
「今ので、話は読めた。
お前らは、サーシャに対して恐れをなしているのだろう。
されど、話を聞く限りサーシャがお前達に害をなしたわけでも、そのような素振りがある訳でも無かろう。
この二点で、対応を決めかねている。そうだろう?」
ロセの言葉に、力なく頷く三人を見て、ロセは言葉を続ける。
「サーシャが危険な力を持っていることは事実だ。だけれども、それは私たちとて同じことよ。サーシャの毒が人を殺せるのと同じように、テタニだって人を殺せる毒を作れる。それにローレンス、お前の作る武器も、トシフ、お前の振るう剣も殺せるのだ。このことは、上級の組合員として自覚していないとは言わせんよ。そして、サーシャも入りたてとはいえ、立派な組合員だ。自覚がないならともかく、テタニが言ったらその毒を控えようと自分から言い出したのだろう? その時点で、サーシャは自分の力が危険であることを自覚した。ならば、サーシャを同じ組合員の強力な仲間だと思って接すればいい」
「ですがロセさん、魔導埃黴にしてあれだけの力を持っているとすると……」
「ローレンス、気づけ。お前のサーシャへの恐怖心、それと嫉みの感情が、不当な抑圧をサーシャに向けようとしている。それは慎重なのではない、臆病と言う。今のお前の考え方は総連の、いや、根源はお前の親を殺めたお前の忌み嫌う人種の奴らと同じだ。私達は、連合の仲間だろう? 思い出せ、『臆病であるな、慎重であれ。無謀であるな、勇敢であれ』、だ。いいか、恐怖心を持つことについては否定しないが、恐怖心に行動を支配されたのならば、その時点で冒険者失格だ」
三人ともに思い当たる節があったのだろう。だれも、口を開くことはできなかった。
「ちょっと、説教臭くなってしまったな。まあ、納得できぬというのなら、この航海中に私もサーシャを見極めるとしよう。……ところでテタニ。サーシャは、食事に同行しない理由について、何と言っていたのか?」
突然質問を投げかけられたテタニは、一瞬きょとんとした後、慌てて口を開いた。
「おいしそうな匂いは感じられるのに、私は食べる能力がなくてお預けだから生き地獄だ、って言ってた。確かに、その状況を考えると、アタシだって行きたくないなー」
「うーん。私にはどうもその点が引っかかるのだがな」
ロセのその言葉の後、談話室に何度目かもわからぬ静寂が訪れる。
その重苦しい空気を打開したのは、音もなく、突如現れた小さな女の子だった。
(ママ、変なの見つけた)
「ん? どうした、ニシオギクボ。変なのって……」
その言葉に、四人とも来訪者に目を向け……、彼女の抱える琥珀色の三角錐に全ての視線が吸い寄せられた。
「「「「……サーシャ?」」」」
この世界でも、乳児に蜂蜜はご法度です。




