Ⅰ-10:報告
前二話の別視点と、ちょっとした世界観の補足です。
悪魔王の日記。かつて、栄華を極めた古代文明における、最強の一角たる悪魔王スペルビアの残した日記。
未だに解析・解読は始まったばかりではあるが、そこには謎に包まれていた古代文明の姿が、ありのままに描かれていた。
魔導具の出現。開発競争。そして、行き過ぎた競争の結果として訪れた、文明の終焉。
しかし、それらの記述は断片的なものでしかなく、更なる調査を必要とさせた。
『タオ・ターミナル』の町の組合長、ハラモも、魔導具の調査が必要と考える一人だった。
彼は古い地層の露出し、度々魔導具の発掘されている地溝、悲しみの爪痕の調査を極秘に命じた。
ハラモは、組合長室に腰掛ける。その向かいには、三人の男女が座っていた。
昨日帰投した、調査チームだ。
防御力に優れるローレンス・ヒジャーズ。細かい異変にすぐに気づく男で、武器や防具のメンテナンスもピカイチ。
魔法知識に優れ、チームの目となるテタニ・リジューン。薬学にも優れる、チームの生存率の要。
そして、三人をまとめ上げるトシフ・ミッパラ。学者でもある博識な剣士。
彼らの調査の結果、いくつかの魔導具やその欠片を発掘できたものの、古代文明の核心にせまる事実は認められなかった、とのことだ。
ローレンスが、発掘された魔導具を机に置く。
剣、スコップ。そしてこれは……鋏、だろうか? ローレンスが並べられた六つの魔導具の出土場所を、そしてテタニが簡易的な解析結果を報告する。残念ながら私は魔導具は鑑定できないので、見ても何もわからないのだがな。
数と発掘箇所からして、確かに多少出土件数は多いだろうが、決定的なほど多くはない。……ふむ。
「ではトシフ。確かお前の知り合いがオウォッキャンで研究をしているんだったな」
「はい、俺の幼なじみです」
「よし、そいつにこの魔導具の鑑定を頼もう。オウォッキャンまでの輸送も、引き続きお前らに頼めるか?」
「わかりました」
ローレンスに魔導具を片付けさせる。
……さて。調査の件はかたづいた。だが、昨日受けた簡易な報告の中に、非常に興味深いものがあった。曰く、意思疎通可能なカビの魔族を発見したとか。
「ところでだな、昨日の報告の中にあった、俄かには信じがたい件なのだが……」
「あぁ、それについては俺も未だに信じられん。だが、事実だ」
「詳しく話を聞こうじゃないか」
そう言うと彼らは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「何か、あるのかね?」
「いや、その……」
言葉の詰まったトシフの代わりに、テタニが口を開いた。
「その子なら、今ここに連れてきちゃってます」
「……ほう? ここは極秘任務の報告の場であるが?」
「聴覚がなく、また連合への加入を希望しているとのことなので、問題ないと判断しました」
「それを判断するのは私だ。お前らではない。
確かに、今言ったことが真実であるならば、連合へ引き込めるのなら問題はないがな。それで、件のカビはどこにいる?」
そう聞くと、テタニが徐に杖の先の宝玉を外し、机の上に置いた。
「……まさかとは思うが、これがそうだとは言わぬだろうな?」
「それが、まさかなんですよ……。話しかけても無意味ですが、≪念話≫系統が通用します」
トシフの報告は疑わしいが、ここにいる以上、実際に試してみることにした。
驚くべきことに、報告は真実であった。
カビの名はサーシャ・タカトオ。エルダー・カチュアの生まれとは言っているが、名前からして世界を歩く者だろう。
「それで、キミたち三人が推薦する、という形でいいのかね?」
「問題ありません」
その言葉を聞き審査に移る。状況報告、そして観測できる魔力量、行動に対する本人の認識。面接中に負荷をかけて、反応を見るのも忘れない。
見た目の魔力量は大したことは無いが、負荷をかけた時でも変化が無い。
毒耐性と強靭な筋力を持ち合わせたAランクの渓谷蜘蛛の動きを、完全に止められる毒を生成する能力を持ち合わせながら、それを大事だとも認識していない。
詳細な試験を省いているので誤差範囲は大きいが、それなのに最低でもCランク程度の実力は認められるだろうか。本来はE-であることを考えると、二つ上は十分な外れ値だ
流石に魔族であるから総連に入ってしまうことはなかろうが、他勢力に入られるよりも早くに連合に引き込んでしまいたい人材だ。
だが、システムがそれを許さなかった。
規約上は意思疎通ができれば加入資格はある。しかし、実運用上は組合員証の携帯ができなければ、加入即紛失ペナルティ過多からの除名が待っている。
そしてサーシャは、現状組合員証の携帯が不可能と認められる。
頭の痛い問題だ。そもそも、今までこのような問題が発生したことは、少なくとも私が加入申請を受け付けた中には無かったのだ。
「トシフ、テタニ、ローレンス。残念だが、サーシャは加入保留だ」
それを告げると、三人の顔はみるみる青くなる。この一言で気づくことができるのなら、連れてくるかどうかも慎重に判断してほしかったが……。
「ここで加入させられなかったので、お前らに処分を言い渡す。
無償活動処分だ。サーシャが組合員証の携帯が可能となり、加入するまで情報漏洩することのないように監視しろ。以上だ」
三人に処分内容を告げ、組合長室に一人残った私は、連合本部へ報告書を書くのであった。




