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Ⅰ-11:旧街道の吊り橋

 魔導特区ミグラ。ウィコット皇国にある、この世界の中でも有数の研究エリアらしい。

 そのなかのオウォッキャンという町にある研究所が、三人の次の目的地だという。

 私もついていっていいか聞いたところ、問題ないと言われたので一緒に行くことにした。


(困ったな。駅馬車に三人分まとまった空きがない)


 タオの町は街道沿いにあるため、王都への駅馬車の本数も多い。

 しかしながら、定員の多い大きな馬車の便は朝に全て出てしまい、これから出る便は定員の少ないもののみ。

 ならば明日の朝の便は……と情報を聞くも、既に予約がいっぱいで、三人空いている便は五日後まで無いとの事。

 そもそも、駅馬車というのは予め十何日か前に予約をとって、それに合わせたスケジューリングをするものであり、多くの冒険者のする飛び乗りはあまりお利口な用途ではない。

 ただ、配車の都合で出た空席に、少人数の冒険者が便乗している、というのが実情だ。


(エウルまで出れば、川を下る船があるけど、どーする?)

(エウルまで馬車で四時間ってことは、今出れば夜にはエウルには着けるか……)

(街道沿いではなく、森を突っ切る旧街道なら余裕をもって着けると思いますが)


 街道というのは急な斜面を避けて通される。そうしないと、馬車が坂を登れないからだ。

 つまり、人間だけの移動ならば街道よりも急な坂道を通れる。その時代に使われた道を、旧街道と呼ぶらしい。

 けれども、さっき言った通りタオの町は駅馬車が多いため、歩く人は今の私たちのように急な移動が必要になった冒険者や、駅馬車の運賃をケチった旅人、それに一部のもの好きだけだ。

 そして彼らも、よほどのことがない限りは整備の行き届いた、新しい街道をゆく。

 つまりそれは、旧街道はロクに整備されていない道であることを意味する。


(背に腹は代えられん。エウルまで歩くぞ。まあ何度か通ってる道だし大丈夫だろ)


./.././.././.././.././.././../


 タオを出て四時間。街道を外れ、蔦を切り進んで森の中を行く。

 テタニは魔術を用いて、全員の体の周りにちいさな風の渦をまとわせる。こうすることで、虫や毒草、ヒルなどから体を守るのだとか。

 その際杖を通じて私に魔力が流れてきてしまっているが、テタニの邪魔をしないようその流れを読んで、吸ってしまった分を補填する。

 ……うん、三人とも何も言ってないってことは特に問題は起きていないのだろう。

 馬で通れそうな広い道に出たかと思えば、広場に出たり、もうほとんど崖なんじゃないかと思うような急な坂道を下ったりと、バラエティーに富んだルートを進む。

 そして、渓谷に出た。上流側には、新しい街道のものらしい立派な吊り橋がかかっており、下流側を見ると渓谷の先に町が見える。


(見えてきたな。あの町が、山裾の町エウルだ)


 うん、町が見えるのはいい。いいんだけど……


(ねぇ、なんでここの吊り橋、落ちてるの?)


 旧街道の吊り橋は、真ん中で切れてぶら下がっていた。


(あー、駅馬車混んでたの、そういうことか……)

(どうしましょうか。崖沿いに降りて行きますか?)

(いや、こっち側には別の川が滝で流れ込んでたはずだから、それは厳しいと思うぞ?)


 渓谷は、幅も深さも木の高さほどもある。

 テタニの魔法でも、このサイズじゃ向こうまでいけるかどうか怪しいとのこと。


(せめて真ん中、いや三分の一くらいまで行けるのなら飛べると思うのだけれど……)


 吊り橋の残骸を見る。残骸は比較的きれいに残っているし、落ちたのも最近だろう。

 ……ん?

 そういえば、ここには吊り橋の材料が残されているわけだ。

 向こうまで届かなくとも、半分程度までの台を作ることができれば、テタニの魔法で向こうまで飛べる。


(あれ、サーシャちゃん、どこ行くの?)

(ここじゃ人もいないし、杖にいる必要もないでしょ?)


 杖の先から飛び降りて、崖の端まで行き、菌足を伸ばして下を見る。

 際に生えているこの頑丈そうな木、そしてこの岩の窪みは、なかなかに使えそうだ。

 支柱の長さは渓谷の幅の半分くらいはある。多分足りるだろう。

 こんな大きいものに使えるかどうかはわからない。でも、やってみよう。≪中心教義(セントラルドグマ)≫!

 イメージするのは、水泳プールの飛び込み板。二本の支柱のロープの先を結んでから、抜き取って横に倒して岩の窪みに足を置き、ロープを頑丈そうな木に引っかける。

 これで、岩の窪みとロープに支えられた支柱は、片持ち梁となる。

 そして残っていたはしご板を支柱の上に乗せる。強い風が吹けばすぐに落ちてしまうだろうが、この際問題はない。


(えぇ……。そんな、馬鹿なことがあるんですか)

(お、おい。サーシャ。これは、一体……?)

(私の、スキルだよ。あそこまで行けば、テタニさんの魔法で行けるでしょ)

(確かに行けるけど……。サーシャちゃん、あなた何者?)


 三人はドン引きしているが、知ったこっちゃない。

 ぶっちゃけ、こんな大きいものを組み立ててしまったからか、これ以上にない疲労感が襲ってきているのだ。

 非常におなかが空いてしまったので菌足を土の中に伸ばし食事をしてから、体が動くうちに再び三角錐状になってテタニの杖の先に戻る。

 意識はある。が、体が動かないのだ。


(早くしないと、風で落ちちゃうから……)


 そう呼びかけると、三人は何かを話し、そして恐る恐る梁の上に足を踏み入れた。

 そして、梁の先端に着いた後、テタニが何かを唱え、不思議な魔力の流れが私を襲う。

 杖に魔力を流して魔法を発動したのだろう。

 すると、浮遊感に襲われ、三人と私が宙に浮き、向こう岸へと進みはじめた。

 その間周りを見ることすら放棄して、テタニの魔法の魔力の流れを読む。

 そして、もうほとんど失われた意識を絞って、最低限やらなくちゃいけないことはする。

 大気中に流れている魔力の向きを変えての、私の体が吸ってしまった魔力の補填。

 ここで、彼女の魔術の邪魔をしたら、落ちてしまう! それだけは、避けないと。

 永遠とも思えた時間がたって――実際は十秒ほどだとは思うが――魔力の流れと共に浮遊感が消えた。

 それと共に、私の体の限界も訪れた。

 同時に何かが聞こえたような気もするが――気を失ってしまったのだ。


【アカシック・セカンドが告知します。

 個体名:サーシャ・タカトオ・ナガノ・ニホンが、スキルを――

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