ルルーシカが欲しい
「あんた、今の状況がまったくわかっていないようね。私たちは閉じ込められたの。だから帰れないの」
「帰れない?なんで?」
「ああ、そうか。あんた、ずっと一緒にいなかったから・・・。
よく聞いて、私たちは今、外部と切り離された次元・・・う~んこういうのって孤立次元っていうんだけど、そこに閉じ込められちゃっているの。
出入り口には強力な魔法障壁が張られ、空間はバラバラのパズルをはめ込んだみたいに、ひっちゃかめっちゃかで、あんたが閉じ込められた孤立内部次元を探すのも大変だったんだから」
「はあ?」
孤立次元?魔法障壁?孤立内部次元?パズル?
まったく、理解が追い付かないのだが。
「だ、か、ら、私たちは、何者かによって、閉じ込められちゃったの」
「閉じ込められたって、誰に?」
「誰かなんて、知らないわよ。ただ、ガルバルディじゃないことは確かね」
「ガルバルディって、誰だよ」
「ああ、あのいけすかないキザ野郎よ。魔法基礎知識の教師。あんた、当てられたでしょ。スプレール現象について説明しろって・・・」
ああ、あの女たらしのことね。
運命の糸がなんちゃらって言っていたっけ。
「私、朝、職員室にお色気を呼びに行ったでしょ。その途中で、あいつが急に襲ってきたのよ。涎を垂らしながら、欲情した目をして、私の清純さを奪おうと息を荒げ、『ルルーシカが欲しい、ルルーシカが欲しい』って呟きながらよ」
「マジかよ。ガルバルディの奴、女なら誰でもよかったんじゃないのか。さすがに、ルルはないわ」
「それって、どういう意味よ」
「いや・・・何でもないです」
冗談なのに、マジで睨んでいるんじゃね~よ。
拳なんて握ってさ。
あぶなかった。こいつ、沸点が低いんだったな。
「で、大丈夫だったのか?一応、聞いておくが、清純は守れたのか?」
正直、ルルーシカの清純が守れたかどうかなんて、どうでもいいけどな。
つ~か、俺の前で恥じらいもなく裸を晒している時点で、
清純もクソもないよな。
「危なかったけど、守れたわ。ルル様の清純を奪おうとした不届き者は、カッチカッチの氷づけにしてやったわよ。あ、もしかして、あんた、私の心配をしてくれたの?」
「いや、ぜんぜ・・・まあ、ちょっとは・・・。
で、氷づけにして、大丈夫なのかよ。死なないのかよ」
「ルル様の清純を奪おうとして、殺されたのなら本望でしょ。
まあ、たぶん大丈夫だと思うけど・・・冬眠と同じ理屈よ。
そんなくだらないことよりも、どうやら敵はとんでもないやり手のようよ。魔法障壁でヘッドリッジ魔法学園を孤立させ、魔法学園内の空間を歪め、さらには、操作魔法で、生徒だけでなく教師ですら、操作していたんだもの」
「操作魔法って、ミゲルスティなのか?」
臓器を代償とする、禁止魔法の一つに分類されるミゲルスティしか、
タクは操作魔法を知らなかった。
「ミゲルスティなんてレベルじゃないわ。おそらく、それよりも上位の操作魔法よ。何十人も一度に操作できる操作魔法なんてあるのかしら」
ミゲルスティよりも上位の操作魔法って、
どんな代償を伴う操作魔法なんだよ。
「操作されていたガルバルディは、私にやられる直前にこう言っていたの。『俺様を倒したからって意味がないからな、くくくくく』と。実際、それからすぐに、アルトとテノールに襲われたわ。おそらくクラスメイトはもう・・・」
そんなことって・・・。
タクはクラスの朝の様子を思い出した。
皆、昨日とは違っていた。
昨日と同じ見た目をした人間がいるのに、違った人間と接しているような感覚。
同じ人間なのに、中身が違う。
まるで、糸に操られたマリオネットと接しているような違和感。
あの時感じた感覚を信じるのなら、
ルルーシカの言っていることは正しいように、タクには思えた。
「ねえ、あんた誰に、孤立内部次元・・・いえ、あのコンクリートの部屋に閉じ込められたのよ?」
「ん?ああ、ミアに・・・」
「ミア!?ミアって、私との決闘に怖じ気づいたあのアバズレのことよね。ミカンだったなんて言わないわよね」
他のミアがいるのなら、俺が教えて欲しいくらいだわ
「そうだけど」
「はは~ん。いろいろと見えきたわ。そうか、そうかミアが・・・。ちょっとというか、かなり違和感があるけど、今日のおかしすぎる出来事にミアが関わっていると・・・あいつなら、このルル様に恐れをなして、これくらいのことはやりかねないわね」
ルルーシカは、不気味に笑っていた。
レーラはルルーシカの話など耳を傾けることなく、ぼんやりとお墓を見つめていた。
お墓の周囲に散らばっている、色とりどりの石が、
霊の鎮魂をしているかのように、優しい輝きを放っていた。
「敵の姿は、かなり見えてきたけれど、現状は手詰まりね。
ねえ、人形、あんた、何か名案はないの?」
ルルーシカはレーラに訊く。
「・・・・・・」
レーラはルルーシカの言葉に、少しばかり遅れ、反応する。
お墓の先に見えた過去に、
思いをはせていたという表情をしている。
「・・・なあ、先生が助けてくれるとかないかな?」
「あまり期待できないわね。ガルバルディだって操られていたのよ。なら、他の先生も操られていると考えるのが妥当だわ」
「そうか・・・」
「レゲイラの門・・・」
レーラはポソリと呟いた。




