ベルベットとゲイル
いつの間に、女の子が・・・。
さっきまでいなかったのに・・・。
女の子はタクをじっと見つめていた。
可愛い女の子だった。
ランドセルが似合う、小学生低学年くらいの女の子だった。
タクは女の子に、微笑みかける。
女の子はびっくりして椅子の影に隠れる。
が、しばらくすると、タクが気になるらしく、
再び顔を出した。
「お兄ちゃん・・・どうしてここにいるの?」
「う~ん、どうしてかな。ここに閉じ込められちゃったんだ」
「閉じこめられたの?それって、ベルベットと同じだね」
「君、ベルベットって名前なの?」
「うん、私、ベルベット」
ベルベットという名の女の子は椅子からピョンと飛び降りた。
赤いリボンで結んだ髪がふわりとなびき、
白いドレスのスカートはふわりと膨らんだ。
「ぴょんぴょんぴょんぴょんぴょん」
ベルベットは跳ねるように歩き、
タクの前まで歩くと、ちょこんと床に座った。
タクに興味深々といった様子で、
両手を顎の下に置き、タクをジッと見つめる。
その瞳は、片方が赤で、片方が黒のオッドアイだった。
「どれくらい、この部屋にいるんだい?」
「ベルベットはわからないの。でも、ゲイルお兄ちゃんなら知っているかも?」
「ゲイル?ゲイルって誰のこと?」
「こら、ベルベット、お前、何でこいつに俺の存在を言うんだ」
ベルベットの声が突如、変化する。
先ほどまでの可愛らしい声ではなく、
その声は、酒に焼けた、しゃがれた男の声だった。
「だって、ゲイルお兄ちゃん、ベルベットね、ずっと寂しかったんだもん」
ベルベットは、可愛らしい女の子の声で言う。
なんで、急に声が変わるんだ?
一人二役を演じているのか?
「どうしたんだい?」
タクはベルベットに訊く。
「ううん、何でもないの?でも、ゲイルお兄ちゃんは何かを考えているみたい」
「こら、ベルベット!!俺の存在を言うなって。こいつは、お前にとって、いや、俺たちにとって、久しぶりの獲物なんだからな」
「ゲイルお兄ちゃん、それってどういうこと?」
「ベルベット、お前の底なしの寂しさを癒してくれるかもしれないってことさ」
なんだ?
この子、何かがおかしいぞ。
「な、何でさっきから一人で話しているの?」
タクは恐る恐るベルベットに訊く。
「へ?何を言ってるの?お兄ちゃん。さっきからず~と、ここに一緒にいるじゃない。私たち二人は」
な、何を言ってるんだ?
二人?
ベルベット一人しかいないけれど。
「ベルベット、それ以上、こいつに詳しく話すんじゃない」
「だっていいじゃない。ベルベット、しゃべりたかったんだもん」
「こいつは久しぶりの餌なんだぞ。お前の渇きを癒してくれるな」
「え?そうなの?このお兄ちゃんはベルベットの寂しさを癒してくれるの?」
「さっきからそう言っているだろ・・・ああそうさ、そうさ、だからさ・・・」
ベルベットは小声でぶつぶつと呟いた。
その声は、あまりに小さく、タクには聞き取れなかった。
「ああ、そうなんだ・・・そうか、そうか、そうしよう。そうしようよ。ゲイルお兄ちゃん」
ベルベットの表情は突如、変化した。
子供しい無邪気な笑顔は消え、
そこには、冷酷さとずる賢さが入り混じった歪んだ表情が浮かんでいた。
「どうしたんだい?」
ベルベットは、首を左右に振るも、
瞳はタクをジッと見据えていた。
瞬き一つせず、
上唇をペロリと舐める。
「ねえ、お兄ちゃん、私ね・・・お兄ちゃんを、殺しちゃうかも」
不意に、ベルベットの体が輝き、
ベルベットの背から、半透明色をした四本の手が現れた。
それの手は、掴み、引きちぎるモノを探すかのように、
タクに迫ってきた。




