ソワソワとムラムラが止まらない
一限の放課、ピエロが声をかけてきた。
「君、すごいよ。あれって古代のゼノキア語なのに、よくペラペラしゃべれたよね。それに先生とゼノキア語で会話してて、びっくりしちゃったよ」
「ゼノキア語で、俺が先生と話していた?」
「うん、流暢にしゃべっていたよ。それも先生よりもうまかった」
何を言ってるんだ?こいつ。
お前と話している言葉と同じ言葉でしゃべっていたじゃね~かよ。
まあ、ピエロだしな。
適当なことでもいっているんだろうな、とタクは思った。
「でね、その~」ピエロは胸の前で指をもてあそぶ。「昨日話の続きなんだけど・・・」
「ん?昨日の話の続き?何だったけ?」
ピエロは目を泳がせたのち、何かを決意したかのように、
上目遣いに、ほんのりと頬を赤らめ、タクをじっと見つめた。
その目は、恋する男の子のそれだった。
ま、ま、ま、まさか、お前。
俺のことを・・・。
「いやいやいや、ぜ~たい無理。俺にはそっちの趣味はない」
「ん?そっち?」
「だ、か、ら、俺たち、男だろ。俺は男はちょっと・・・だからさ、俺以外の男を狙ってくれ。アイツなんて、ムチムチで俺よりもいい体格をしている。きっとお前を優しく抱いてくれるさ。あのぶっとい腕っぷしで」
「はあ?何を言っているのさ。違うよ。変な勘違いをしないでよ」
違う?ピエロ、お前はぶっといのが好きなんじゃないのか?
ぶっとければぶっといほど、いいんじゃないのか?
「この前、約束してくれたじゃないか。彼女との接点を作ってくれるって」
「彼女?彼女って誰のことだよ」
「だから、その彼女は・・・」
その時、声が聞こえて来た。
いつも、怒鳴り散らす。アイツの声だ。
がさつで、そぼうで、自分勝手で、恥じらいのない、
名前を言ってはいけないあの女の子。
名前の最初は『ル』のあの女だ。
「ねえ、タク、あんた、ちょっと来なさいよ」
ほら、呼んでいるよ。呼んでいるよ。
プンプンして。
「へいへい」と言い、タクはピエロを見ると、固まっていた。
表情がカチッと固まって動かない。
体も強張らしている。
顔は真っ赤。今にも火を噴きそうだ。
そのピエロの姿を見て、タクはピンとくる。
彼女。俺に紹介してほしい彼女。
ピエロのこの緊張した表情。
そういえば、ルルも一応は女だったな。
一応は。
「なんだよ、お前。まさか、ゴミと共に生きているようなルルのことが好きなのか?」
「ちょっと、ちょっと、声が大きいよ」
こいつ、マジでルルのことが好きなのかよ。
やべ~よ。
「で、あいつのどこが好きなんだ?」
「・・・顔とスタイル」
「はあ?顔とスタイル?お前、きつい系の顔に、幼児顔負けのぺっちゃんこが好きなの?」
「な、なんだよ。いけないのかよ。好みなんて十人十色だろ。僕にとっては、彼女、すごく魅力的なんだよ。あの顔なんて、今にも壊れそうっていうか・・・そう、ガラス細工のような繊細さを感じるんだ」
タクは、自分の席に座っているルルーシカをそっと見る。
鬼のような形相で、こちらを睨んでいる。
いやいや、ガラス細工というか、猛獣だろ。
それも、肉食系の。
「なにしてんのよ、早く来なさいよ!ご主人様であるあたしが呼んでいるのよ」
ルルーシカの怒鳴り声が響いてくる。
「まあ、鬼がお怒りのようだし、行ってくるわ」
「ねえ、お願いだよ。僕、本当に彼女が好きなんだよ。ソワソワとムラムラが止まらないんだ」
「・・・それなら、しゃ~ね~な。どうなるかわからないけど、変に期待しすぎるなよ」
「あ、ありがとう」
ピエロはタクの手を握り、何度も何度も頭を下げた。
「で、俺に何の用だったんだ?」
「遅い、グズ、ボケ、ウスノロ」
タクはルルーシカに罵声を浴びせられる。
「で、どうして、遅かったのよ。理由を10文字以内で述べなさいよ」
「あいつと話てた」
タクはピエロを指さした。すると、ルルーシカは、
「誰よあいつ、知らない奴ね。編入生?それに何よ、あのにやけた顔・・・気持ち悪いこと、この上ないわ」
・・・これは先が長そうだぞピエロ。
心折れることなく、頑張れよ。




