どこかの誰かさんの浮気話
一限目は古代魔法言語の授業だった。
知らない言語かと思い身構えたタクだったが、
教科書を読むと、別段普段使っている言葉と何ら変わりなく
なにが、古代魔法言語なんだ、とタクは思った。
教科書、間違っているのか?
全然、古代魔法言語じゃないし。
教科書をパラパラとめくり、最初から最後まで目を走らせると、
どこにも、知らない言語は書かれていなかった。
「おい、タクや、タクや。わたしのタクや。23ページの3行目から読んでちょうだいな」
顎鬚の長いおじいちゃん先生がタクを当てる。
腰が曲がっており、鷲鼻からは鼻水が垂れていた。
花粉症なのだろうか。
「えっと~、今日は、すごく天気がいい。こういった日はアホみたいに女あさりがしたくなる。貴族のマメタケは愛人の家を後にしたのち、街に繰り出した・・・」
なんだ、この文章は・・・とタクは思った。
おじいちゃん先生は、うんうんと呻っている。
「いや~、今日は実にムラムラするな。そうだ。女の子をナンパしよう。『ねえ、ねえ、お嬢さん、一発、やらせてくれませんか』と声をかけると、私の顔面に鉄拳が飛んできた。いきのいい女だった」
大丈夫かよ。この話・・・とタクは思う。
おじいちゃん先生は、目をつぶって、腕を組み、頷いている。
何に、納得しているんだよ。
「さて、100人に声をかけ、100発の鉄拳をもらった私は、妻のもとに、帰った。『ただいま帰ったぞ』と家の扉を開き、顔を上げると、お出迎えをした妻が微笑んでいた。右手には刃渡り数メートルはある包丁を持って。
それを見た私は、短い人生の終焉を悟ったのである」
タクは読み終え、着席をすると、
「私のタクや、すばらしい」
おじいちゃん先生はパチパチパチと拍手をした。
「これほど、素晴らしい、古代ゼノギア語を聞いたことがない。流暢でかつ発音も完璧。私が師事したいくらいだ。実に勉学に励んでいるとよくわかる。みなもタクを見習うように」
クラスがざわつく。
タクは、おじいちゃん先生が何故、自分をほめたのかわからなかった。
普通に、クソみたいな内容の文章を読んだだけなのに。
俺をはめようとしているのか?
その後、授業では、どこかの誰かさんの浮気話をさんざん聞かされた。
クラスメイトはよくもまあ、こんなくだらない話を聞かされて嫌にならないなと思った。




