悲しき恋の物語
四限目は国語の授業だった。
『悲しき恋の物語』という、
かなり有名な悲しみに満ちた恋のお話を授業で扱っていた。
大きな黒縁眼鏡をした教師は、
この話は大昔の実話を題材にしていることや、
その話についての教師の考えなどを熱心に語り、
そこそこまともな授業を展開していた。
「想像してみてください」黒縁眼鏡先生は目をつぶる。「この話の二人のように、あなたにとって大切な誰かとあなた、どちらか二人しか救われない状況になったら、あなたはどうしますか?」
国語の教科書は、ページを開いたまま、
黒縁眼鏡先生の周囲を浮遊していた。
「かなえさん、あなたはどうしますか?」
黒縁眼鏡先生にあてられたかなえは、立ち上がり、しばらく何も答えない。
ん?なんで、何も答えないんだ?
適当に答えればいいのに。
「わたし、わたしは・・・」やっと言葉を発したかなえの声は、震えていた。「・・・すみません、ちょっと気分が・・・すみません・・・すみません」
かなえの顔は真っ青だった。
教師は心配そうに大丈夫かと訊いたが、
かなえは大丈夫と言って、ゆっくりと着席した。
真面目なんだな。
感受性が、ゆたかなのかな?
かなえの次に、黒縁眼鏡先生はルルーシカを当てた。
「もしも、私がその立場なら・・・二人で助かる道を探すわ。どちらか片方しか生きられないなんてあまりに辛すぎるもの」
ルルーシカの言葉には力がこもっていた。
「誰でも、そう願うのはわかります。それでもどちらかしか助からないなら、ルルーシカさん、あなたはどうしますか」
「さあ・・・」ルルーシカはタクをチラリと見る。「相手によるけど、まあ、まずは自分が助かる道を考えるでしょうね」
ははは、やっぱりな。お前はそういう奴だよ。
相手よりも、自分。
いや~、すがすがしいくらいに、女王様だ。
ルルーシカは着席した後、
かなえに小声で何かしゃべりかけていた。
かなえはなんか申し訳なさそうだった。
黒縁眼鏡先生は、生徒を当てることをやめ、持論を展開した。
タクは眠い目をこすりながら授業を聞いた。
授業の中程で、かなえが急に立ち上がり、
鞄を持って教室を出て行った。
早退だった。
欠伸を大きく一つしたタクは、
調子が悪そうだったから早退するのかな、
とかなえの早退について深く考えなかった。




