あんなことや、こんなこと
「え?」
椅子に座った女子生徒は腕と脚を組み、タクを睨んでいた。
不揃いの前髪から覗く、青い双眸はタクの顔をじっと見つめている。
カールした横髪が触れる赤い唇が、キッと真一文字に結ばれていた。
「な、なにか?」
タクはビクビクしながら訊いた。明らかに不機嫌な顔をしていたからだ。
「もう、タク、私、待っていたんだからね。何で昨日ほったらかしにしたのよ」
その女子生徒は怒りを滲ました表情から突如、悲しげな顔をする。
目尻には涙が溜まっていた。
タクは突然のことにどうしたらよいかわからず、
「ごめん」と反射的に謝った。
「・・・うん・・・いいよ」女子生徒は涙を指先で拭う。「でも、タクにとって、私ってその程度だったのね。すごくショックだったんだから・・・三時間も待ったんだよ」
タクは何の約束をしたのか、覚えていなかった。
「ごめん・・・俺、記憶がなくって、どんな約束したか覚えてないんだ」
タクはどう答えたらいいかわからず素直に答えた。
女子生徒は、一瞬、驚いたかのような表情をしたかと思うと、次の瞬間には、悲しげな表情をし、
「タク、私のこと・・・私という彼女のことを忘れちゃったというの?」
「か、彼女?君が、俺の?」
「そう」
女子生徒はコクリと頷く。
「お、俺たち・・・付き合っているの?」
「うん、もう、ずいぶん長いよ。・・・あんなことやこんなことも・・・したのに・・・タクにとってはその程度のものだったの?」
あんなことや・・・こんなことて・・・。
いったい、どんなこと?
タクはあんなことやこんあことを思い出そうと試みたが、昨日より先の記憶がどうしても出てこなかった。
すごく、あんなことやこんなことを思い出したいと思った。
何で、思い出せないんだよ。
すごく、大事なことだろ!!
この頭、この頭、バカ、バカ、バカ!!
「ふふふ、タクって、意外とエッチだったんだね」
女子生徒はタクの耳元で囁く。
女子生徒の息が、タクの耳をくすぐった。
「わ、わ、わ、わ!!」
タクは女子生徒から離れながら叫んだ。
その時――救いの主と言わんばかりに、奴の声が聞こえて来た。




