08.聖なる獣と救国の巫女
「……で? 結局、何から聞きたいの?」
お互いの前世をひとしきり話した後で、話の内容から私たちを転生者だと認めたらしい陽炎が、めんどくさそうに尋ねてくる。
「そうですわね。まずは大まかなストーリーなどを」
「ストーリーは、結構分岐があるんだけど、ざっくりいうと復活した魔獣を巫女と攻略対象のイケメンたちで力を合わせて倒す話ね」
「陽炎さんはねー、かなりやりこんでたんですって!」
「激務の中の癒しよ、癒し。ホストと違って二次元のイケメンは裏切らないし」
前世を知った陽炎のチクリとした一言に、雪斗は余裕の微笑みを返した。
「誠実なホストもいますよ。陽炎様と前世でお会いできていたら、きっと実感いただけたでしょうに、口惜しい限りです」
(いたとしても、あんたは絶対に誠実じゃない方のホストでしょ)
そう言いたい気持ちを抑えて、話を進める。
「ちなみに、なんていうゲームなんですの?」
「『聖なる獣と救国の巫女』、乙女ゲーム界隈ではそこそこメジャーだったと思うんだけど、聞いたこともないの?」
(うーん、知らないわね)
静かに首をふると、めぐみも同意した。
「やっぱり私もわかんないです。でも、もしかしたらSNSの広告でちらっと見たことはあるかも?」
「まぁ、そういうゲームは溢れていましたからね」
「あっそ」
面白くなさそうに鼻を鳴らした陽炎は大げさにため息をついてみせる。
「っていうか、こういうのってこの世界知ってる! ってなるのが定番じゃないの?あんたら、ゲーム知らないくせにほいほいこの世界に来てんじゃないわよ!」
「まぁ、陽炎様、言いがかりという言葉はご存知でして?」
無茶苦茶なことを言い出した陽炎を牽制してみるが、それは彼を更にヒートアップさせただけだった。
「だいたいねー、なんで私がイケメンの方に転生してんのよ! せめて女だったら、推しキャラといい感じになれたかもしれないのに! あんたらどうせ知らないんだから私と交代しなさいよ!」
「無理に決まってるでしょう」
「陽炎さん、落ち着いてください~。私と交換しても意味ないんですよ。すぐ帰るんだから」
「そういうこといってるんじゃないのよ! あー、もうこの姿じゃ時雨様に会っても抱きついたりできないし! なんで私だけ男なわけ!?」
どうやら、不機嫌の一番の要因はそこだったようだ。ひとしきり不満を並べる陽炎を眺めていた雪斗が、こっそりと私に耳打ちしてくる。
「時雨様って、秋峠家のご子息っすかね?」
「そうかもね」
その卓越した技術力で国を支える四家の一角――秋峠家。一族の中でも魔道具製造に屈指の腕前を持つ秋峠 時雨は線が細く中性的な美貌をもった青年だったはずだ。おそらく、彼が陽炎の推しなのだろう。
そこまで考えたところで、前世の話にまったくついてこられず「仕事に戻る」と席を外していた朧が戻ってきた。出ていった時と同じような困惑した顔つきで私たちをゆっくりと見回して口を開く。
「……まだ、終わらないのか?」
彼の表情は何よりも雄弁に「もう帰って欲しい」と語っていた。




