07.悪役令嬢たるもの
「えええええーーーーーーーーー!!!?」
私がゲームのラスボスだという陽炎の発言を聞き、大声を出したのはめぐみだった。
「なにそれ、陽炎さん、そんなこと言ってなかったじゃないですか!」
「だって、龍臣の通常エンドとハーレムエンドには、関係ないからさぁ」
「……陽炎、頼むから王太子殿下を呼び捨てにするな」
「大丈夫、大丈夫。外では言わないし」
「お前の大丈夫はあてにならんだろうが」
ぐったりとした声で朧が言う。
(これは、相当苦労させられてきたわね)
私の視線に気づいたのか、彼は気まずそうに咳払いをした。
「冬野宮様、愚弟が失礼した。転生はひとまず事実としても、それ以外の話についてはあまり――」
「何よ、兄さん。まだ信じないっていうの?」
「ゲームだの敵だの、突拍子がなさすぎるだろう。大体、なんだその〝らすぼす〟っていうのは」
「うーん、正確にはラスボスって言うか裏ボス? 龍臣の真エンドでだけ出てくるのよね」
「だから……」
言いかけて、朧は諦めたように肩を落とす。確かにゲームの概念がない人にとっては、理解するのは難しい話だろう。
「朧様、確かに突拍子がなく感じられるかもしれませんが、我々にとってはそこまで馴染みのない話でもございませんので」
「そうなのか?」
雪斗の一言で朧は周りを見回した。そして自分以外の全員がある程度共通の認識をもって、陽炎の話をきいていることを理解したのか深く嘆息する。
「分かった。では俺は口を挟まない」
声には疲れの色が滲んでいた。本当はこの場から立ち去りたいのだろう。しかし、陽炎だけを残すのが不安なのか、腰を上げる気配はない。
「それでは、陽炎様、そのお話を詳しく聞かせていただけますか」
「いや、でもねぇ。あんたの主人、なんか平然と話きいてるし、やっぱり信じられないっていうか」
「あら、わたくしなりに動揺はしているのですけど。常日頃から貴族として恥ずかしくない立ち居振る舞いを心がけるようにという教育を受けてきたものですから」
動揺したのは本当だ。ただ、その動揺を上回る茶番が繰り広げられたせいで、ちょっと冷静になってしまっただけ。
「ふーん、随分こっちに馴染んでるのね? 貴族としてどうこうなんて前時代的なこと言うほうが、よっぽど恥ずかしくない?」
(……殴りたい)
挑発的な態度を取る陽炎に向けて氷の塊を作りそうになるが、ぐっと我慢する。冬野宮と春原でやり合うなんてスキャンダルを起こすわけにはいかない。
「かげ――」
「確かに馴染んではいらっしゃいますが、椿様が動揺していないように見えるのは、以前よりご自身が悪役である可能性を考えておられたために、心の準備ができていたからではないかと」
さすがに見かねた朧が隣に座る弟を睨みつけながら口を開くのと同時に、雪斗が真剣な眼差しで陽炎に訴えた。その言葉に細められていた陽炎の碧眼が見開かれる。
一瞬の沈黙。
「えええええーーーーーー!!?」
部屋には再び、めぐみの大声が響き渡った。




