06.もうひとりの転生者
自宅でめぐみのとぼけた発言を聞いた数時間後、私と雪斗はめぐみが滞在している春原家の客間にいた。迎えてくれたのは青髪碧眼の青年二人。片方は短髪で片方は肩ほどまでに伸ばした髪をゆるく束ねている。冬野宮と同格で四家の一角である春原家の兄弟。お互い存在は知ってはいたが、こうして直接会うのは初めてだ。ふたりともどこか知性を感じさせる顔立ちをしていると思うのは、春原が知識や禁忌の管理を任務とする家であると知っているがゆえの先入観だろうか。
「……で、冬野宮様も転生者だったと」
苦虫を噛み潰したような顔で言葉を吐き出したのは短髪の青年――朧。彼は長男で次期当主となる予定の人物だ。
「はい! 従者の雪斗さんもだそうです」
「えぇ? そんな偶然あるわけー?」
無邪気に答えるめぐみに朧の弟である長髪の青年――陽炎が大げさに首を傾げる。
「椿ちゃんは本物ですよ! グラビアのこと知ってたんですから!」
目の前で力強く主張するめぐみに向かって、陽炎はこれみよがしのため息をついてみせた。
「それより、めぐみ。あんた慎重にって言ったのになんでこうなるのよ」
「だって~、まず自分から本音でぶつかるのが人間関係を良くするコツだって社長が」
「相手によるでしょうが!」
信じられないとばかりに声を荒げる陽炎。長身の美男子から放たれる違和感のある言葉遣いは、彼の前世が女性と聞いてはいても、なかなかに強烈だ。でも今はそんなことを気にしている場合でもない。私は目の前で繰り広げられるふたりのやりとりを遮るべく、少し大きな声で尋ねた。
「それで、原作を知ってるのが、陽炎様なんですね?」
「そうだけど?」
陽炎が不機嫌そうにこちらを見る。値踏みするように私を見据えてくる碧眼は、こちらに気を遣うつもりなど毛頭なさそうで、挑発的ですらあった。
こんな集まりでさえなければ、礼儀というものを教えてやるのにと怒りを抑えて微笑む私の代わりに、後ろに控えていた雪斗が口を開く。
「差し支えなければ、今後のために内容を詳しくお伺いできないでしょうか」
「嫌よ」
「椿様はめぐみ様に協力したいとおっしゃられておりますので、どうかお願いいたします」
冬野宮と肩を並べる貴族令息が相手だからか、雪斗の物腰は丁寧で、いつものことながらその変わり身には感心してしまう。
陽炎は先ほどと同じ測るような目で今度は雪斗を見た。
「信用できない。あんたも転生者ってご主人様に話を合わせてるだけじゃないの?」
「いえ、そのようなことは。必要であれば、私の前世もお話しいたしますが……」
「あ、それは興味ある!」
雪斗の言葉に陽炎は少しだけ身を乗り出す。
(これ、黙って聞いてたらどんどん脱線しそうね)
「あの……」
「どうやら、転生というのは、陽炎の妄言ではないようだな」
私が口を挟もうとしたその時、目の前で苦虫を噛み潰したような顔のまま黙っていた朧が口を開いた。
深く、まるで自らに言い聞かせるかのように紡がれた言葉に、今度は陽炎が渋い顔をする。
「え? ちょっと兄さん、まさかこれまでの私の話を信じてなかったとか言うわけ?」
「信じろという方が、無理がある」
「今まで私のこと何だと思ってたのよ! ひどすぎない!?」
「わかった、わかった。もう信じたからそんなに騒ぐな」
朧は心底うんざりした様子で、陽炎をあしらうと姿勢を正してこちらを見た。
「あまり事情が飲み込めておらず申し訳ない。それで、冬野宮様が詳しく知りたいのはめぐみ嬢が帰る方法ということで間違いないか?」
「ええ、まぁ。でもそれだけではなく、ゲーム全体のことも教えていただきたくて」
「……承知した。陽炎、話して差し上げろ」
まだ納得はできていないのか、苦悩するような表情を見せながらも朧が陽炎を促した。それを受けた陽炎は視線を明後日の方に向けて、束ねた毛先をくるくると指で弄びながら言う。
「そこまでしてあげる義理ないんだけど」
「お前な、俺には尋いてもいないのに、嬉々として話していただろうが」
「兄さんとは違うでしょ。冬野宮 椿は、敵なんだから」
ふんと鼻を鳴らした陽炎が口にしたその言葉に私は目眩を覚えた。
「それは……めぐみ様の恋敵的な?」
「いや、そのままの意味。ゲームのラスボスね」
僅かな望みをかけて、恐る恐る尋ねた私にあっさりと返ってきた答え。それは、予想通りで最悪のものだった。




