04.巫女様はグラビアアイドル
「お願いします! 龍臣様を私に譲ってください!」
「っちょ、な、何を……」
自己紹介も終えないうちにそんな事を言いだした巫女、めぐみを前に私は慌てて周囲に視線を走らせる。案の定、そこかしこから好奇心に満ちた眼差しが私たちに向けられていた。
(ただでさえ注目されてるっていうのに、何を言い出すのよ! この小娘はっ!)
今は自分も同じ年なのだが、そんなことはどうでもいい。学園への登校時間でもあるこの時間帯は人が多く、付近にいる生徒の誰もがこのやりとりを見守っている。彼女が他の生徒たちに取り囲まれる前に挨拶がてら拉致、ではなく学園の案内に連れ出そうと、校門まで迎えに出たのが完全に裏目にでてしまっていた。
「私、自分の世界に帰りたいんです!」
(意味がわからない! 意味がっ!)
こちらの困惑にはお構いなしで、なおも食い下がってくるめぐみに、内心頭を抱えながらなんとか平静を装う。
「めぐみ様、その発言は不敬でしてよ。殿下はモノではありませんから」
「でも、婚約されてるのでしょう?」
「それは、お互いの意思のもと――と、いずれにしてもこのような場所でお話しする内容ではございませんわね」
やんわりと伝えて、移動を促すとめぐみは素直についてくる姿勢を見せた。黙らなかったら強制的に口を塞いでやろうかと思っていたが、その必要はなさそうでなによりだ。このまま人通りの少ない裏庭まで誘導して改めて話をきくことにしよう。
(それにしても、殿下狙いってことでいいのかしらね。これは)
さっきの行動を見る限り、めぐみはあまり思慮深いタイプには見えない。もし、巫女がヒロインで私が邪魔な存在になるのであれば、できるだけ、面倒なく平和に物語を終わらせよう。そのためには婚約破棄もやむなしくらいには思っていたのに、さすがにこれは潔く身を引くには不安すぎる。
(いや、これでもし、殿下にこの子を選ばれたら、私、めちゃくちゃ暴れるわよ。間違いなく)
あの龍臣がそんな判断をするはずがないと自分に言い聞かせつつ、移動した裏庭でめぐみに向き直る。ついでに周囲へ霧の壁を張り巡らせ、簡易的な防音環境を作り上げておいた。声を完全に遮断することはできないが、霧の中に人が入ってくればそれを察知することはできるので、知らない間に盗み聞きされる心配はないだろう。
「さて、まずはさっきの発言について説明してもらおうかしら」
「えーと、ごめんなさい。怒ってますよね?」
「あら、まったく空気が読めない子じゃなかったみたいで、少しだけ安心しましたわ」
にっこりと嫌味を投げかけるも、意に介した様子もなくめぐみは続ける。
「ごめんなさい。ついつい気持ちが先走っちゃって。あの、私、できるだけ早く自分の世界に帰りたいんです」
(それはさっきも聞いたし、説明が欲しいのはそっちじゃないのよ)
「お気持ちは理解できますわ。知らない世界に突然放り出されて、さぞご不安でしょう」
それでも一応寄り添った返答を返した私に対して、めぐみはちょっと小首を傾げてみせた。愛くるしい容姿にぴったりのその仕草。しかし、彼女の口から出てきた内容はそんなふんわりとした雰囲気にはそぐわない生々しいものだった。
「んー、というか雑誌のグラビアのお仕事がやっと決まったんで、それを飛ばすわけにはいかないんですよね。マネージャーさんにもこの仕事が今後を左右するって言われてますし」
「え? 貴女、タレントなの?」
この世界の人間にはわからないはずの単語をきいて、思わず口をついた言葉。しまったと思ったが、もう遅い。
めぐみはその大きな瞳をさらに見開いて、私を見た。
「ええー! もしかして、椿さんもこの世界の人じゃない!?」
(ああ、もう、なんだか余計に話が面倒になりそうな気がするんだけどっ)
頭痛がする。なにやら嬉しそうなめぐみを前に、私は今度こそ本当に頭を抱えた。




