03.もしかして学園モノ
「もう耳に入っていると思うけど、もうすぐめぐみが学園に通うことになる」
「ええ、存じています。転入者なんて久しぶりですし、ましてや異世界からの巫女様となれば、噂の的ですわね」
向かい合わせでお茶会を始めたところで、龍臣が最初に出してきた話題は巫女──めぐみの学園への転入の件だった。
彼女は春原家預かりになるまでの間、一時的に王城に滞在していたため、龍臣をはじめとする王族とはすでに顔をあわせている。そして、今回の転入に関して王家の後押しがあったということも私は知っていた。
(学園モノって一番ありがちよね⋯⋯)
彼女の転入によって物語が進み始めるのではないかと思わずにはいられない。だから今一番気になる話題ではあるのだが、そうは見えないように平静を装い問いかける。
「でも、巫女様はまだこの世界に来たばかりですし、学園生活は大変なのでは?」
「そこなんだ。本当は家庭教師をつけるのが一番良いんだけど、本人が通いたいと強く希望していてね。春原家からも何度か上申があったから無下にもできないし」
「まぁ、そうだったんですか」
(あー、これは、本当にヒロイン説あるかも)
シナリオ強制力という単語が頭をよぎって、私は暗澹たる気持ちになる。
私や龍臣が通う王立学園は魔法と武術全般を専門的に教える国内唯一の教育機関で、入学には高水準の知識と能力が必要だ。この世界で誰も使うことのできない癒やしの能力を持つ巫女が特別な存在であることは認めるとしても、学園の授業についていけるとは、到底思えない。
(才能の塊みたいな私だって、それなりに努力して入ったんだからね)
今の私の立場で入学試験に落ちるなんてことは、世間的にもプライド的にも許されないため、前世の何倍も勉強漬けになった悪夢の日々。
(それを苦労せずして、あっさり転入なんてそんなの許されるわけ?)
なんだか怒りの論点がずれている気がしないでもないが、腹立たしいのは事実だ。もやもやした気持ちを抑えつつ、私は努めて冷静にお茶菓子を噛み砕いた。
「だから、椿には学園での彼女のサポートをお願いしたいんだ」
「ええ、そういうお話でしたらもちろん――ってわたくしがですか!?」
龍臣からの頼みを反射的に引き受けそうになったが、すんでのところでとどまる。思わず大声を出してしまった私を落ち着かせるように、龍臣はにっこりと笑いかけてきた。
「うん。椿なら安心して頼める」
百点満点のイケメンスマイル。しかし、そんなもので籠絡されるほど私は初心ではない。
「あの、わたくしと学園で関わっても、巫女様にあまり良い影響は期待できないと申しますか……そういうことはもっと人望のある方が適任だと思うのですが」
何を隠そう私は学園でわかりやすく同期生に距離を置かれている。入学して早々にすり寄ってきた貴族令嬢たちが私の名前を使っていじめのようなことをしていたので、少々お灸を据えたところ、意図せぬ噂がいくつか広まり恐れられてしまった。学園生活に不便がなければそれでいいと気にせず過ごしてはいるが、同じ学園に通っている龍臣がその現状を知らないとは思えない。
「噂のことなら、本当の椿はすごく優しくて面倒見が良いことを知っているからね」
「殿下……」
そう言ってもらえるのは、正直嬉しくはある。
ただ、恐らく龍臣は根も葉もない噂と思っているのだろうが、実際は多少の真実も混じっていたりするからちょっとうしろめたい。冬野宮の名前を汚すようなことをする輩に私が容赦するわけはないのに。もちろん、証拠を残すなんてヘマもしないけど。
「そのような過分な評価をいただいて恐縮ですわ。ですが、わたくしでは」
「僕としては正当な評価のつもりだけどね。本来、こういうことは僕がやるべきなんだけど、めぐみとはコースが分かれてしまっているし、キミという婚約者がいながら他の女性と親しくなるようなことはするべきじゃないとも思っていて」
それは、もっともな言い分だ。私としても何か変なフラグが立ったりしたら困る。
「いえ、殿下ご自身を煩わせる必要はないとわたくしも思うのですが……」
「椿を頼らせて欲しいんだ。どうにか引き受けて貰えないかな」
とどめとばかりに美しい金色の瞳に見つめられ、私は渋々頷いた。
「……かしこまりました。わたくしでよろしければお引き受けいたします」
「ありがとう。本当に助かるよ」
安心したような顔をする龍臣を私は複雑な心境で眺める。この後、自分の物語が大きく、しかも想定外の方向に動くことを、私はまだ知らなかった――。




