01.招集
あれから数ヶ月。敷地内の森で魔獣の痕跡が見つかることもなければ、ゲームのようなイベントが起こることもなく、私は再びこれと言って大きな変化のない日々を過ごしていた。
私と雪斗、そしてめぐみと陽炎は情報交換という名目で交流を続けているものの、最近ではただのお茶飲み友達と化している気がする。
ちなみにあんなに早く帰りたがっていためぐみは「雑誌のお仕事の日はとっくに過ぎちゃったんで、もう帰るのが遅くなっても別にいいかな」などといい、こちらでの生活を楽しみ始めているようだ。
そして私には、世界の危機とは全く関係のない試練が迫っていた。
*
「魔法行使にあたって留意する法律はこのあたりを覚えておけば――でもまだ範囲が広いわね。もう少し絞らないとだめか」
夕暮れ時、机にいくつもの資料を並べてひとりブツブツと呟く。考えては紙に書き留め、それをまた見直すという作業をもうかれこれ数時間は続けていた。そんな倦んだ空気に支配された部屋にノックの音と共に雪斗が現れる。
「失礼します。椿様宛に手紙が――って随分、散らかしましたね。何してるんですか?」
机の周りに散乱する書き損じや積まれた本をみて呆れ声を出す雪斗に視線を向け、大きくため息をついた私は、持っていたペンを投げ置いて答えた。
「もうすぐ試験だから、出そうなところヤマはってんのよ」
「どんな心境の変化っすか? いつもその場しのぎの勉強なんて意味ないとか言って、試験範囲全部網羅してるのに」
「そうよ。身にならない試験のためだけの暗記なんて意味ないわよ」
「さすがです。それでこそ椿様! 意識高い系令嬢!」
茶化す雪斗を相手にする気力もなく、私は机に突っ伏して言う。
「でも、あの子に範囲全部勉強させるなんて無理っ!」
「あーなるほど、めぐみちゃんのためのメニューでしたか」
納得したように言いながら、散乱した紙を拾い集めていく雪斗。
「でも別に椿様がそこまでしなくていいんじゃないですか? 結果が悪くてもあの子気にしないでしょうし」
「殿下からサポート頼まれてんのよ? 良い点とは言わずとも、平均くらいは取ってくれないと」
「殿下もそんなこと気にしないと思いますけど」
「そういう問題じゃないの!」
癇癪を起こした子どものように机をバンと叩く私を見て、雪斗はやれやれといった顔をする。
「はいはい、とりあえず、お茶と甘いもの持ってきますね。あ、あとこれ、陽炎様から手紙です」
「わざわざ手紙? ありがと」
差し出された手紙を受け取り封を開ける。中には手紙と共に魔道具と思しきカードが二枚入っていた。
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椿へ
魔獣と巫女について調査するチームを立ち上げることになったから、あんたと雪斗メンバーってことでよろしくね。とりあえず、チームの拠点はうちの管轄の閉架書庫。同封したカードが入館証になってるから紛失しないように
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いきなりすぎる内容が、陽炎らしいといえばらしい。でもそんなことよりも。
(閉架書庫に自由に出入りできるってこと?)
そこには普通では手に入らない資料や文献があるはずだ。入館許可がそう簡単には下りない場所への思わぬ招待に私は心を踊らせた。
(俄然、やる気出るわね)
再びペンを握り作業を再開する。鼻歌交じりに情報を書き出していると、雪斗がお茶の道具を乗せた台車と共に戻ってくる。彼は「いや、怖い。いきなり機嫌良くなってるし、情緒不安定すぎません?」と失礼なことを呟きながら、淹れたお茶を差し出してきた。




