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第四十二話 装備探し


 騎士の宿舎にいる冒険者は多くいた。ここの冒険者全員が、依頼を受けた人たちになる。

 冒険者が宿舎を利用しているため、騎士はあまりいない。

 クラードはほっと息を吐いた。フィフィも変に意識することもないだろう。


 男女などは特に関係なく、宿の部屋は空いている場所から順に埋まっていく。

 ラニラーアとフィフィは同じ二人部屋で、クラードは余っていた一人部屋を借りた。


 朝になり、訓練場へと移動する。

 訓練場で、騎士たちが依頼について説明することになっている。

 クラードはフィフィと合流し、訓練場に到着する。


「ラニラーアはどうしたんだ?」

「騎士のほうに行った」

「……まあ、そうか」


 彼女はもう騎士として仕事を始めている。クラードは僅かな寂しさを覚えながら、訓練場を見回した。

 すでに冒険者がずらっと集まっていた。数は三十を超えるほどだ。


「こんなにいい仕事はねぇよな……。鬼魔さえでなけりゃ、宿と金がただでもらえるようなもんだもんな」

「ほんとだよなっ。頼むから、何も起こらないでくれよ……っ」


 冒険者の一人が両手を合わせている。クラードはそれに苦笑する。冒険者たちが言う通りだ。何も起きなければこれほど好条件の依頼はない。


 ただ、実際人が足りていないのは、鬼魔を実際に見てしまった人もいるからだ。

 もしも、万が一鬼魔に出会ってしまったら――。

 そう思考する冒険者も少なくはなく、依頼に人が集まらなかった。


 クラードはラニラーアから聞いた依頼内容を反芻していた。

 冒険者に任せる仕事は、昼間の巡回がほとんどになる。

 実力のある冒険者、あるいは人が足りない場合は、夜間になる場合もある。それでも、一番警戒するべき夜間は騎士が行う予定だ。


 冒険者たちは、騎士が休むためにいるようなものだ。

 フィフィがぺたりと座り込んだ。立っているのも苦しいようだ。


「大丈夫か? やっぱり、いきなり朝走るのはつらかったか?」

「だ、大丈夫。クラードに合わせる」

「……おう。けど無理もダメだからな? 自分の限界は自分できちんと把握してくれよ」

「……わかってる」 


 フィフィがこくりと頷く。

 クラードとフィフィは昨日の話どおり、朝のトレーニングを行っていた。

 剣の訓練も行ったため、フィフィはずっとだらんとしている。


 澄んだ空気である水の都は、走るにはちょうどよかった。フィフィはそれを楽しむ余裕が一切なかったが。

 クラードがフィフィを観察していると、訓練場がざわついた。


「お、おい……あれ本当にブレイブ様じゃねぇか!」

「街に来ているとは、聞いていたけど見たのは初めてだ……」

「いいなぁ、俺も騎士になりてぇなぁ」


 ブレイブは平民出身、おまけに冒険者学園にも通えなかった子だ。

 何でも、十二歳当時のときは、あまりにも才能がなかったらしい。

 それから、必死に剣を学び、十五歳のときに勇者スキルを与えられ、そこからは一気に駆け上がっていった。

 

 多くの平民にとって、彼のような出世は憧れだ。

 名前こそ変更されているが、絵本に似たような話もある。

 ブレイブが先頭を歩き、その後ろを騎士がついていく。

 

 クラードは見知った顔を見つけた。ロロとラニラーアだ。

 冒険者たちの一団から離れていたクラードは、彼らの話を聞くために近づく。

 ロロの視線があちこちにさまよっていた。クラードを見つけたところで、その目が思い切り見開いた。なぜここにいるんだ、という様子のロロにクラードは苦笑した。


 ロロは眉間に皺を刻んだ。

 ブレイブが冒険者たちの前に立った。


「私は騎士団長ブレイブだ。冒険者の方々に集まってもらったのは、現在水の都を脅かす影が存在しているからだっ! 我々騎士の力だけは足りないと思い、ギルドに依頼を出させてもらった!」


 魔物の雄たけびにも負けない鋭い声が響いた。まるで、全身を殴りつけられたような迫力だ。

 それまでざわついていた冒険者たちを、一瞬で黙らせる。


「詳しい話は他のものがすることになっている。ラニラーア、頼めるか」

「わかりましたわ」


 ラニラーアがブレイブの横まで歩いていく。そこで冒険者に対して一礼をした。

 冒険者たちが息をのんだ。これほど美しい人が他にいるのだろうか。そんな会話があちこちで飛び交っていた。


 ラニラーアはまだ騎士の装備は支給されていない動きやすい冒険者の格好だ。

 その服と、彼女の容姿は良く似合っている。

 

 柔らかな微笑を浮かべると、どこかのご令嬢なのではないかと錯覚するほどだ。一瞬にして、訓練場の注目を集めた。


 ラニラーアは、紙を取り出す。それから、依頼内容を話していった。

 冒険者たちは、騎士と協力して、巡回を行い、街の治安を守るというもの。

 本来、騎士が二名から三名の複数で巡回を行う。

 その騎士の数を減らし、そこに冒険者が同行するというものだ。


 この巡回では、実力に関してそこまで問うこともない。監視の目が増えればそれでいい。

 危険、異常を発見するために、人の数を増やすのが目的だ。


「また、何か事件が発生した場合の活躍に応じて、追加報酬も支払う予定ですわ」


 ラニラーアの言葉に、冒険者が小さな声をあげる。


「……滅茶苦茶頑張れば、騎士にスカウトされるかもしれないんだよな」

「……らしいな。ブレイブ様だって、確か一緒に騎士と仕事をしたのがきっかけだったって話だよな?」

「よし、頑張らねぇとなっ」


 冒険者たちがやる気をみせる。クラードも彼らと同じ気持ちだ。やれるだけのことはやってやる。

 ラニラーアが話を終え、ブレイブが後を引き継ぐ。


「これから、冒険者の人たちにはどれだけ巡回に参加できるかを聞いていくことになる。週に三日以上という条件は話しているが、万が一都合の悪い日があれば騎士に伝えておいてくれ」


 ブレイブはそこで言葉を区切り、頭をさげる。


「ここに集まってくれたことに感謝する。ありがとう」


 ブレイブがそう締めると、冒険者たちが拍手をした。

 訓練場にいた騎士たちが、メモを持って横に並ぶ。

 

「それじゃあ、予定について聞いていくから、騎士のいる場所に並んでくれ。空いている場所から、どんどん来てくれ」


 男の騎士がそういうと、冒険者たちが並んでいく。

 集まった冒険者は男女ともにがいたが、明らかに男性のほうが多い。

 その男性たちは、ロロやラニラーアにばかり並んでいる。


「おいっ、列が固まらないようにしろ!」


 一番不人気の騎士が叫ぶと、他の騎士がからかうように笑った。

 それで列は緩和された。

 

 クラードは一番近くにいたロロの場所に並ぶ。

 やがてクラードの番になる。クラードを見たロロはため息をついた。


「クラード、どうしているんだ?」

「ラニラーアに誘われたんだよ。宿代も浮くし、報酬も支払われるんだし最高だと思ってさ」

「ふん、これだから貧乏人は……それで? 週にどれだけ入るつもりだ?」

「三日か四日程度でいいか?」

「わかった。そっちの少女はどうするんだ?」

「俺と一緒なら、参加させたいんだけど……」

「構わない。こちらも、数が多いほうがいいからな」


 ロロが手元の紙にペンを走らせる。


「人、足りないんだな」

「聖都のほうも忙しいからな」

「まあ、あっちはそうだよな。聖都って普通に犯罪も多いもんな」

「……まあな。貴族を狙う輩が多いんだ。まったく、だから平民は嫌なんだ」


 話はそれで終わりだ。

 

「明日から仕事をする人は、さっき伝えたとおりだ。この場に残ってくれ、詳しい予定を話していく。それ以外は解散してかまわない」


 クラードたちは、そのまま訓練場を後にした。  

 宿舎を移動しながらクラードは肩を回し、体をほぐしていく。難しい話ばかりで、肩が凝ってしまったのだ。


「思ったよりも時間余ってるし、これからウンディーネ迷宮に行くか?」

「うん、頑張る」


 フィフィはゆっくりと歩いていく。無理させすぎてはいけないが、無理をさせないのも駄目だ。どのくらいまでを彼女にさせるか……クラードはその配分に悩んでいた。フィフィはまだ完全に回復したわけではないようだった。

 

「ひとまずは、水の都の店を回るぞ」

「あっ、クラードの武器とか手に入れるために?」

「ああ、だからまだ宿舎のほうで休んでてもいいぜ?」


 アイテムボックスに制限があるとはいえ、武器はまだまだ所持できる。

 この都でどれだけの武器やアクセサリーを確保できるかが、自分の強化に繋がることになる。


「ううん、わたしもいく」

「そうか……それじゃあ無理しないでくれよ」

「無理じゃないよ。クラードと一緒にいるほうが楽しいから」


 えへへ、と素直に笑ったフィフィの頭を軽くぽんぽんと叩く。

 それから、水の都の店めぐりに向かった。



 ○



 結果だけを見れば、悪くはなかった。

 店を大量に回っていったことで、使い物にならない武器から高数値の武器をいくつか見つけることができた。


 一度騎士の宿舎に移動する。


「色々あったね」

「水の都、楽しかったか?」

「うんっ」


 明るい笑顔を浮かべたフィフィに、クラードも笑みをこぼす。

 部屋にたどりついたクラードは、装備品の確認を行っていく。

 

 レッドリーソード

 筋力20 防御20 速度55 魔法力15

 暗闇(A)状態 部分石化(A)状態 確率眠り(B)状態


 レッドリーソードは呪いの武器と安値で購入したものだ。刀身は赤く、人間の血を啜ったとかなんとか店主が話していた。暗闇は、装備したもののの視力悪化と、目に闇が覆うような感じになる。


 部分石化は、戦闘中に稀に部分的に石になるというものだ。

 麻痺に似ているが必ずどこかしらが石化状態となるため、人によっては麻痺以上に厄介ともいう。

 確率眠り状態は、戦闘中に突然眠くなるスキルだ。


 どれも、装備品としての価値はなく、観賞用で使うくらいだ。 

 軽く剣を振ってから、しまった。


 グランドソード

 筋力-30 防御60 速度60 魔法力0

 重量アップ(A)


 数値がマイナスになっている装備だ。

 クラードの場合、魔法力をマイナスにしてしまえば、意味のないものとなる。


 魔法力はスキルの威力に関係している。クラードは何度も装備操作を使っているが、数値の上下で変化を感じたことはなかった。


 ウンディーネリング

 筋力30 防御30 速度30 魔法力30

 混乱 魔力消費アップ 体力消費アップ スキル封印


 綺麗な青い石がついた指輪だ。フィフィが気に入っていたので、戦闘のとき以外は彼女がつけている。

 フィフィには、装備操作ができないため、ステータスの上昇自体はしない。それでもアクセサリとしては十分だ。


 パワーリスト

 筋力15 防御15 速度15 魔法力15

 呪い(B)状態


 これはこの中でもっとも厄介なスキルがついている。装備すれば、呪いの効果によって、様々な悪影響を与える。

 魔女のような店主から聞いた話だ。これを装備した人間が街中で暴れまわったことがあったらしい。


 そこまでステータスの良い装備ではなかったが、クラードが買ったのにも理由がある。所持していない悪いスキルがほしいから購入した。


 装備操作を使い、相手に不利な状態異常を無理やり押し付けたいというものだ。

 五つの装備を購入し、例のごとく投げナイフに悪いスキルのすべてをつける。

 その投げナイフは、腰につけたベルトからさげたホルスターにしまっておく。

 

 装備に関しては、剣を二本ずつ左右の腰に下げた。

 そして、長い剣は背中にくくりつける。


 ノームネックレスと、ウンディーネリング、パワーリストを身に着ける。同時に持つのは、これがちょうどいい数だ。必要があれば、戦闘中にアイテムボックスから装備を取り出せばいい。


 クラードはステータス画面を開き、状態を確認する。


 ランクG

 筋力18(18)

 防御17(17)

 速度17(17)

 魔法力14(14)

 スキル 『装備操作』


 これがクラードの現在の能力だ。ここから装備した場合の上乗せがある。

 現在所持している装備で、ステータスの恩恵の値が高いものは、ブレイドソード、グラディラス、レッドリーソード、グランドソード、ウンディーネリング、パワーリスト、ノームネックレス

の七つだ。


 ステータスに影響のある合計数値は、660だ。自由に割り振れる数値が660あれば、ランクGでは勝てない相手でも渡り合うことは可能だ。


 さすがに、重量はあったが、それらの装備のおかげでステータスは大幅に上昇した。

 あとは、ウンディーネ迷宮で武器を強奪し、それらを限界突破用に確保すればいい。

 体力、魔力回復用のポーションを五本ずつ、合計十本新たに調達した。

 アイテムボックスは、荷物などを合わせて、残り五つだ。


「だいぶ、やるべきことがわかってきたよな」

「クラード、そんなに装備して重たくないの?」

「重たいけど、俺が強くなるための方法だしな」

「クラードが装備している武器って、どのくらいの範囲まで届くの?」

「結構……だな」


 装備しているものは、アイテムボックスにあっては効果がない。

 だが、外に出ていれば効果は出る。フィフィが訊ねたのは、その効果が出る範囲がどこまでなのかだ。


「それなら、わたしが持っていても効果あるの?」

「……そうだな。そのくらいならあるな」

「それなら、わたしも一つもっておく。これで、クラードがもっと強くなれる」

「……フィフィ、ありがとな。それじゃあ一番軽い剣を渡しておくな」


 クラードはグラディラスを手渡す。

 土の都で買った短剣だ。フィフィが短剣を持つと、ちょうどよかった。

 フィフィが軽く剣を振る。まだまだ、剣に振られるという感じだ。


「そんなに無理して振り回さなくても大丈夫だからな」

「う、うん……」


 フィフィに剣を教えつつ、それを準備運動代わりにしておく。

 しばらく時間が経ってから、ウンディーネ迷宮に向かった。


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