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第三十一話 化け物かよ


 装備の限界を無理やりに引きだす。

 剣は光りを放ち、カタカタと揺れる。

 限界突破を発動した武器は、おおよそ十秒程度しか持たない。


 破損すれば、その分のステータスはなくなる。

 だが、今だけは、先ほどの倍の力で攻撃を仕掛けられる。

 振りぬいた剣が、ゴーレムの右わき腹にめり込む。

 

 壁を爆発させたかのような音とともに、剣が砕け、ゴーレムの体がよろめく。

 まだだ。もっと攻撃力はあがる。

 攻撃の瞬間だけでも、ステータスの筋力に割り振る必要がある。


 ゴーレムが拳を振りぬく。

 即座に、ステータスの振り分けを行い、速度をあげてかわす。


 ステータスの振り分けがまだまだ遅い。

 何もない自分が、このゴーレムを破壊するには、一撃に特化しなければならない。


 落ちていた剣を拾いなおし、それの限界突破を行う。

 ゴーレムの周囲を回るようにし、その攻撃をかわしながら大きく跳躍する。

 速度を筋力へ、加速を剣に乗せて――。


 最速で振りぬいた突進による剣が、先ほどと同じ場所を捉える。

 剣が砕け散り、二度目の攻撃によってゴーレムの装甲をぶち抜いた。

 そこには空洞がある。そこから、魔力のようなものがあふれていく。


 ゴーレムの目が明滅する。

 焦り、だろうか。

 攻守が逆転した瞬間だった。


 ゴーレムは後退しながら、スキルを発動する。

 足元から土の手がのびてくるが、それを走って避ける。

 剣を振りぬいて、土の手を切り、ゴーレムへの距離をつめる。


 速度は十分だ。

 振り分けていた分を攻撃へと割く。


 落ちている剣を掴みなおし、限界突破を行う。

 一時的にステータスが上昇する。

 大きく開いた穴を広げるように、クラードは剣を振りぬく。

 

 ゴーレムが片足をあげて、のけぞった。

 もう一本の剣も限界突破を行い、ゴーレムに追撃を行う。

 ゴーレムが大きな音と砂を巻き上げながら、転がる。


 ゴーレムは即座に起き上がり、体の一部を引きちぎり、それを投げ飛ばしてくる。

 拾った剣で払いのけると、ゴーレムが突進を繰り出してきた。

 速くなっている。


 装甲が減ったことでか、ゴーレムの動きが加速した。

 それをかわすと、ゴーレムの拳が体を掠める。


 防御になんとか振り分けたが、完全には間に合っていない。

 痛みで意識が吹き飛びそうになる。

 全身を恐ろしいほどの衝撃が抜ける。

 クラードはそれでも、踏みとどまる。


 返す剣でゴーレムの胸を切りつける。

 伸びてきた腕をとんでかわし、その腕に着地する。

 足に力を入れ、一気にゴーレムの胸へと剣を叩きつける。


 剣を鈍器のように扱い、クラードはすぐにまた横へと飛ぶ。

 衝撃が、風圧とともに襲い掛かる。


 まるで弱い風魔法のように体を殴りつける。

 それを踏ん張って耐えて、クラードはにらみつける。


「……負けねぇ!」


 痛みで飛びそうな意識を、叫んで繋ぎとめる。

 ゴーレムへの屈辱を思い出す。

 ゴーレムだってそろそろ限界だろう。


 目にある赤の明滅は激しさを増し、振りぬく拳はがむしゃらだ。

 速度に振り分けながら、後退し、クラードはウォリアソードを掴む。

 もっともステータス補正の高いその剣を、限界突破する。


「俺は最強の冒険者になる。ここはまだ、通過点だっ!」


 叫ぶ。声を力に、自分の夢をそこへとぶつける。

 諦めてしまえば、絶対に叶うことはない。

 けれど、必死にあがいて、手を伸ばせば、その先にも届くと信じて。

 

 ゴーレムが拳を戻し、構えた。

 今まで一番早い動きだ。

 それを振りぬかれれば、こちらが攻撃するより先に届く。

 

 回避する暇はない。回避に手間取れば、限界突破した武器が先に破損する。

 突っ込むしかない。

 ――敵の攻撃を弾き、突破する。


 最後の賭けだ。

 もう、体力などロクに残っていないのだからそれしかない。


「ゴーレム! こっちにもいるよ!」


 大きな声とともに、何かが投擲される。

 それは石ころだ。けれど、ゴーレムの意識を奪うには十分だった。


 クラードは笑みを浮かべ、足に力を込めた。


「ナイスコルロ!」


 精一杯に感謝の言葉を叫び、無防備となったゴーレムの懐へと突っ込む。

 全力の突撃が、ゴーレムの体に当たる。

 クラードの剣が砕け散った。


 その巨体を、迷宮を横切るように吹き飛ばす。

 ゴーレムの悲鳴が地鳴りのように響く。


 それは敗北を確信した、嘆きの叫びだ。

 クラードはその場で膝をつく。


「クラード!」


 コルロが駆け寄ってきて肩を貸してくれる。


「悪い、コルロ。……すげぇ疲れた」

「う、ううん……そんな私のせいでこんなことになって……」

「それは……関係ねぇよ。むしろ感謝してるって」


 少しだけ休憩して、息を整える。

 あまり長く十階層にとどまっているわけにもいかない。

 一定時間が経過すれば、ゴーレムが再び復活してしまう。


 九階層に繋がる扉を出れば、すぐに安全地帯がある。

 現在では、野生の魔物がほとんどいないためあまり使われることのなくなった結界を使った安全地帯だ。

 ゴーレムに挑むために、冒険者たちが用意したものだ。

 

 そこにいけば、ゆっくり休むこともできるだろう。


「クラード、フィフィは僕が運ぶから」

「そうか……まかせる」


 コルロがフィフィを担ぐ。

 その際に足に負担があったのか、一瞬顔を顰めた。

 助けようとしたが、コルロが首を振る。


「……このくらい、僕がやらないと」


 コルロが痛みをこらえるように笑い、クラードは彼女の決意を見届けた。

 ふらふらと九階層へと向かう。


 ゴーレムを、一人では倒せなかったが清々しい気分だった。

 

 今はその結果だけで嬉しかった。

 疲れていなければ、大声をあげて走り回っていたくらいだ。


 クラードは移動しながら、念のためにステータスを戻しておく。

 ウォリアソードを買った代金を嘆きながら、九階層の結界のほうへと歩いていく。


 あと少しだ。

 視界がかすんできた。気を抜けば、そのまま倒れそうになる。


 戦闘中はなんとか耐えられていた疲労が一気に襲い掛かる。

 もう歩くのも苦しい。

 指先を動かすことさえも億劫で、呼吸による肩の上下も苦しい。


 結界内に到着した。そのまま倒れて、クラードは目を閉じた。

 もうここで今日は休もう。

 クラードはゆっくりと瞼を下ろしていると、足音が聞こえてきた。


 こんな時間に、ゴーレムに挑む奴がいるのだろうか。

 自分たちに構わず駆け抜けてくれればそれが一番だ。

 だが、ちょっかいをかけてくる冒険者かもしれない。


 クラードは目を僅かにあけてそちらを見る。

 金色に輝く髪と、どこか気品さえ感じる表情。

 黙っていれば利発そうな美しい女性がそこにはいた。


 彼女は知っている人間だ、笑みをこぼし、クラードは体を起こす。


「ラニラーア、久しぶりだな」

「く、クラード?」


 お互いにぽかんと口をあける。

 ラニラーアの近くには他にも学園の生徒がいる。


「どうしておまえがここにいるんだ?」

「大穴におちた人間がいると、リリという方から聞きまして。そこに……学園の生徒が混ざっているとも情報がありましたの……第六階層の大穴は十六階層に繋がっているはずですわね。……いそいで救助に向かいましたわ」

「十六階層に繋がっているなんて、情報あったっけ?」


 クラードが首を捻ると、ラニラーアはいつもの勝気な笑みを浮かべて髪をかきあげる。


「移動が面倒で前に飛び降りたことがありますのよ」

「……化け物かよ」

「そんなことより、あなたこそどうしてここに――十六階層に落ちた人が三名いると聞きましたわ。風魔法を使えるものが、何名か穴から救助に向かったのですけれど……心当たりはありませんこと?」


 ラニラーアの言葉に、クラードはがくりと肩をおとした。

 リリとユユは、無事に学園に戻れたのだろう。

 彼女たちが万が一、途中で死んでいた場合、救助が来るまでもっと日にちはかかっていたはずだ。

 

 最悪を想定して、九階層を目指したが、どうやら一番最高の展開になっていたらしい。

 自分の判断が最悪だったことを嘆きながら、クラードは正直に話す。


「落ちた一人だっての。……悪い。細かい話はまた後だ。もう、疲れたから寝かせてくれ」

「く、クラードっ!」


 ラニラーアが飛びついてきたが、いつものように相手してやることはできない。

 ラニラーアが来てくれたのならば安心だ。

 クラードはすべて任せるように目を閉じた。



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