君の存在がまぶしくて
目が覚めると、まず真っ白な天井が目に入った。
『知らん天井だな』
……いや、お前がそれ言うんかい。
そこは転生者である俺が言うべき定番のセリフやろがい。
とりあえず転生のお約束を平然と奪いくさったマキナを力任せに握り締め、怨念を存分に送り込んでおく。
脳内で響き渡る悲鳴を完全に無視しながら起き上がると、どうやらここは校内の保健室らしかった。
ベッドの上に寝かされており、カバンなどの手荷物はすぐ横の椅子に置かれていた。
「なんで俺、こんなところに……?」
憧れの校舎を目にして一人で感動していたところまでは覚えているのだが、それ以降の記憶がさっぱり思い出せない。
なんだか凄まじくラッキーな出来事があったような気がするのだが。
『ぜぇ……はぁ……覚えておらんのか? 久遠某とかいう人間に出会った途端、貴様は急に泡を吹いて気を失い倒れたんだぞ。あれから周囲が大騒ぎになり、教師の一人が貴様をここまで運んだのだ』
そうだ、思い出した。
不意の推し接近により、俺の脳内が完全にオーバーフローを起こしたのだった。
俺は魔法少女たちも大好きだが、原作主人公である彼もまた大好きなのだ……つまりは箱推しである。
そんな尊すぎる推しの一人が至近距離に急接近してきたのだから、卒倒するのも無理はない。
軍荼利姉さんの時は、そもそも改訂者を演じていてテンションが振り切れていたのもあるが、こちらから意図して近づいたのが良かったのだ。
向こうから不意打ちで接近されたら、俺の心臓が到底もちそうにない。
というか久遠くんですらこれなら、もしメインヒロインたち含めた団体で押し寄せられたら俺……ショック死するのでは?
そんな恐ろしい事実に気が付いて一人で慄いていると、誰かがガラガラとドアを開けて入ってくる気配を感じた。
保健の先生かとも思ったが、その予想は即座に裏切られることになる。
「あ、起きたみたいだね。急に倒れたから心配してたんだよ。大丈夫だった?」
そう、入ってきたのは俺を保健室送り(言いがかり)にした張本人、久遠くんであった。
ぐああああああ、眩しい! 圧倒的な陽の光が俺を焼き尽くす!
馬鹿な、これが主人公の持つ光の力だというのか!
『闇属性のラスボスか何かか貴様は?』
俺が主人公の放つ眩しすぎる光に目を焼かれていると、マキナが脳内で呆れたようにツッコミを入れてくる。
「ぐっ」
「だ、大丈夫⁉」
俺が主人公の直撃を受けて思わず胸を押さえると、久遠くんは慌てた様子でこちらへ駆け寄ってきた。
あぁ、こんな初対面の怪しい変人相手にも心底心配そうな表情を浮かべるなんて、本当に根が良い奴なんだな君は。
だからこそ、俺のような日陰者のモブにはその光が強すぎるんだよ。
「だ、大丈夫。ちょっと眩しかっただけ……だから」
「眩しい……?」
バクバクと暴れる心臓を必死に抑えながら、俺はなんとか彼との距離を取る。
これ以上そばに居られたら、比喩ではなく命に関わる。
「心配かけてすまない……だけど、もう大丈夫だから。俺は、これで」
「あっ」
俺は心配そうに寄り添おうとする久遠くんを余所に、ベッドから飛び降りると荷物を引っ掴んで保健室から脱出を試みる。
「な、名前! 君の名前は!」
「……明星 宵。それじゃあね、久遠くん」
なんとかそれだけ呟くと、俺は今度こそ振り返らずに保健室を飛び出すのだった。
◆
──明星 宵。
彼はそう名乗り、まるで何かに追われるように逃げる足取りでその場から立ち去ってしまった。
初めて会った時から嵐のように激しい彼の行動に、俺はただただ翻弄されっぱなしであった。
茶色がかった髪の毛は肩のあたりで綺麗に切り揃えられており、長めの前髪で目は隠れ気味だ。
体つきも華奢で、顔立ちも声もどこか中性的。
もし私服で外で会っていたなら、女の子と勘違いしてしまっていたかもしれない。
「あ、しまった。どうして彼が俺の名前を知っていたのか、聞きそびれてしまったな……」
目の前で急に倒れたこともそうだが、なぜ初対面であるはずの自分の名前を知っていたのかも大きな謎だった。
保健室に運ばれたと聞いたので見舞いがてら様子を見に来てみれば、先ほどよりもさらに体調が悪そうに苦しんでいた。
何か彼に対して不快にさせるようなことでもしてしまったのかと不安になるほどの拒絶っぷりではあったが、彼の言葉や態度から悪意のようなものは一切感じられなかったので、ますます謎が深まるばかりだ。
その後、気になって明星くんの情報を校内で軽く集めてみた。
校舎前で派手に気絶したことや、そのまま入学式を欠席したことも手伝って、彼は一部でかなり有名になっていたらしい。
伝聞によると、彼は重度の魔法少女オタク。
魔法少女のファン自体は世間に数多く存在するが、その界隈の中でも彼の名はかなり知れ渡っていたらしい。
幼少のころに魔法少女に命を救われて以来、事あるごとに魔法少女が戦う現場へ赴き、その戦いを観戦。
たまにマナーの悪い厄介ファンが危険区域に立ち入るなどのルールを破ろうとすれば烈火のごとく怒り狂い、大の大人が中学生の彼に正論で圧倒されるという珍場面が多発していたという。
特に、日本の魔法少女の中でも現在トップと言われている軍荼利 焔華さんの熱狂的な大ファンだったそうだ。
だけど、ある日──強い業魔が現れ、軍荼利さんがそれを撃破してからは少し様子が変わったらしく、なんというか、長年の悲願や目的を達成したかのような満足げな表情を浮かべるようになったらしい。
同じ中学出身という人にも詳しく話を聞いてみたが、魔法少女ファンという点を除けば、普段はクラスメイトと一定の距離を取っているごく普通の人間だと話していた。
聞けば聞くほど「少し変わった普通の学生」という証拠しか出てこず、俺との個人的な接点も見つけられない。
彼という存在の謎は、深まるばかりだった。
【TIPS】
リライターになっていなければ軍荼利相手でも目を焼かれる。




