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原作開始に介入したくて

【悲報】6話目なのにまだ主人公の名前が出ない

『で、これからどうするのだ?』


 お互いに自己紹介も済ませ、カップリングの尊さについても存分に説き伏せて落ち着いた頃、マキナがそう問いかけてきた。


『貴様は力を得た。望みも分かった。そのうえで、これからどうするのだ?』

「そうだな……」


 マキナに問われ、俺は腕組みしながら改めて考える。


「俺は、とある事情によりこの世界が辿るであろう歴史を大まかに知っている。だけど、俺の知らない要素が出てきた。それがマキナ、お前だ」


 DLCか続編かは分からないが、俺の知らない物語が始まっているのは間違いない。


「それに加えて、本来なら死んでしまうはずだった軍荼利焔華を俺は助けたわけだ。その結果、リ、改訂者《リライター》なる存在が誕生してしまった……」


 俺は当時の自分の痛い姿を思い出し、少しばかり羞恥心にまみれながらそう伝える。

 知らない原作設定の追加に加えて、本来の大筋をがっつり変えてしまったことによる弊害は、後々大きくなるだろう。

 元の本筋すら変わってしまう可能性すらある。


『待て待て。何をしれっと予知能力を持ってることをカミングアウトしているのだ。貴様は見る限り普通の人間の子供ではないか。精神性は異常だが』

「まぁ、そこはそういうもんだと思ってくれ。ただ、もはや俺の予知はアテにならないと思っていい。あくまで参考程度だ」


 実はこの世界は元はゲームの世界です、とか言っても信じてもらえないだろう。

 いや、マキナなら信じるかもしれないが、この事実を知っている存在は少なければ少ない方がいい。なんとなくだが、そんな気がするのだ。


「本来の流れを辿るなら、基本的に俺は出張らない。だけど、もし本筋から外れるようなこと……例えば、俺の知っている人物に必要以上の危険が迫っているようであれば助けてあげたい」

『なるほどな。ちなみに、貴様のほかに誰か協力者などは居ないのか?』

「居ないね。可能であれば力を借りたい……って人は居るけど、うまく説明できる気がしないし、気軽に会いに行ける人でもないんだよね」


 その人物の名前は松戸《まつど》 才媛《さいえん》。

 アーケインデバイスを現在の形に作り上げた天才研究者である。

 見た目の性別は女性だが、中身は男。

 兄が妹の身体を使っているという設定だけ聞けば完全なマッドサイエンティストなのだが、真実は全く異なる。

 実は兄妹共に優秀な研究者だったのだが、兄は元々病弱で身体が保たず死期が近かった。そんな折に、妹が実験の事故により脳死状態になってしまう。

 魔法少女のために尽力したい、もしもの時は自分の身体を兄に使ってほしいと以前から遺言を残していた妹の意志を継ぎ、妹の身体で生きていくことを決意した、すさまじい覚悟の人なのである。


 実際、才媛の貢献は大したもので、アーケインデバイスの力の源である協力者にも心を砕き、魔法少女たちを最優先して自身は二の次という徹底した善人ぶりなのだ。

 プレイヤーや読者から「君、マッドの才能無いよ」「悪事以外なんでもできる男」などと親しみを込めて呼ばれている。

 作中でも他のキャラから終始疑われていたり、「その見た目の胡散臭さから絶対裏切るだろう」とプレイヤーからも思われていたのに、実際は最後までただの善人を貫き通したというギャップにやられた層も多い。

 まさか最後まで普通に良い人だったとは、初見で誰が予想できるというのか。


 彼女《彼》の助力が得られればかなり心強くはあるのだが、MAHOの中枢から基本的に出てこないので、会うのはかなり難しい。

 マキナの力を借りれば会いに行くこと自体はできるだろうが、信用させる自信が無いのだ。


「そんなわけで、今後は高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応していく。これが俺の方針だ」

『それはつまり、行き当たりばったりというやつなのでは……?』


 ソンナコトナイヨー。


 もしも目があれば間違いなく懐疑的な目で見ているであろうマキナから目を逸らしながら、俺は無理やり話を締めくくるのだった。


 ◆


 それからは驚くほどに平和だった。

 業魔自体は相も変わらずちょいちょい出現するが、それは現役の魔法少女たちによってあっさりと処理される。

 ディザイア関係で何かあるかとも思ったが、それすらもない。

 おそらくは、原作が始まるまでは何もないんだろう。

 あの時の天魔も、戦闘力がトップクラスの姉さんが負ける理由付けの為に登場したようなものだしな。


 なので、俺は来年までは平和だと決め打ちし、目的の学校に入るための試験勉強にいそしむことにした。


 国立魔導育成学園──通称『魔学』。

 日本でも有数の、魔法少女を育成するための魔法少女学科が存在する学校だ。

 ここで主人公である久遠くんと、ヒロインである見習い魔法少女『妙覚《みょうかく》 みろく』が出会うのだ。

 ちなみに姉さんも先輩として魔学に通っている。

 他にも魔法少女関連の科がいくつかあり、そのどれもが魔法少女をサポートするための知識、技術を学ぶ場となっている。


 ヒロインの名前が妙にごつい気がするが、ネーミングの元ネタがだいたい仏教関連になっているから仕方ないといえる。

 ネーミングに関しては開発陣の趣味だともっぱらの噂だ。


 名前についてはさておいて、主人公とヒロインについてだが、みろくの方はアーケインデバイスと適合したことによりMAHOで魔法少女として働きつつ学園に通う。

 ある日、現れた業魔に一人で対処しなければならず、まだ未熟であったみろくは苦戦を強いられる。

 そこへ久遠くんがばったりその戦いの場に遭遇。女の子が困っていれば助けに入るというのが信条の、THE・主人公な久遠くんは自身の危険を顧みず助けに入り、あわや殺される──というところで力が覚醒する。

 みろくと力を合わせて業魔を撃破し、その後、男でありながら魔法少女としての力があることが分かった久遠くんは特別にMAHOに所属。魔法少女たちの指揮官《バッファー》として一緒に戦うことになるのだ。


 そんな久遠くんとヒロインたちの戦いを生で見られると考えただけで垂涎ものである。

 この世界に転生できて本当に良かったと思う。


 そして、そんなこんなで時は流れ──努力の甲斐あって、俺は無事魔学に入学することができた。

 姉さんの後輩になるというのももちろんうれしいが、主人公たちと同学年というのが俺のテンションをぶち上げる。


「うおっほ、生の魔学校舎だ。まるでテーマパークに来たみたいだ、テンション上がるなぁ」


 目の前には、ファンタジー世界に迷い込んだかのようなレンガ調の荘厳な校舎がそびえ立っている。

 そして、魔法生物と思しき小型のドラゴンのようなものも飛び交っていた。

 魔法少女の中には魔法生物を生み出す力を持っている子も居るらしいので、その類だろう。

 魔学の校舎を生で見られただけで、俺はもう感無量である。


『いつになくテンションが高いな。そんなに嬉しいのか?』


 俺がテンションをぶち上げていると、小型化したマキナが話しかけてくる。

 さすがにあの大剣サイズのままだと、魔法少女以外が所持していれば銃刀法違反で取っ捕まるので、小型化させて学生鞄につけているのだ。

 見た目は完全に、観光地で売っている小学生が大好きな剣のキーホルダーである。      

 家に置いてきてもいいのだが、万が一の場合にすぐ対応できるようにしておかないといけないしな。


「そりゃテンションも上がるよ。長年、夢見ていた場所だからな」


 オタクの中には、舞台となった現実の地へ赴く聖地巡礼を行う者もいる。

 残念ながら魔学は元になった現実の地が無く完全オリジナルだったゆえに、前世では聖地巡礼が叶わなかった。

 だからこそ、こうして本物にお目にかかれたというのは一生分の幸運を使い切ったといっても過言ではない。


 俺がそう力説するも、マキナは『ほーん?』と興味なさげに小さく呟く。

 こいつはほんとに……っ!


 あまりのテンションの低さに憤りを覚えていると、そちらに気を取られていたせいで誰かにぶつかってしまった。


「あたっ⁉」

「あ、す、すみません!」


 目の前の男子生徒がよろけるのが見え、俺は慌てて謝りながら彼を支える。


「大丈夫ですか? すみません、よそ見をしてしまってて……」

「あぁ、だいじょぶだいじょぶ! ちょっと驚いただけだから。俺も魔学の校舎に圧倒されてたし、仕方ないって」


 俺が謝ると、男子生徒は振り返りニカッと笑う。

 短く切り揃えた黒髪に、やや平凡ではあるがイケメンの部類には入るのではないかという顔立ち。まだ幼さを残しているが、凛としており人好きのする笑顔。


「久遠《くおん》……実成《みつなり》……くん?」


 そう。そこには誰あろう、我らが主人公。献身の化身──久遠実成が立っていた。


「えぁ? あぁ、確かに俺は久遠だけど……どこかで会ったことあるか?」


 突然名前を呼ばれたことで困惑しながらも、久遠くんはそう尋ねてくる。


 久遠くんが目の前に……?

 カルマレイドの主人公が?

 俺に話しかけてる?


「…………ふぅ」

「ファッ⁉」


 突然のオーバーフローな状況に俺の思考回路は完全にショートし、驚く久遠くんをよそに、俺は白目を剥いて意識を手放すのだった。


 教訓。

 不意打ちの推し(主人公)は心臓に悪い。


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