仲間が増えまして
「そういえば……《《アレ》》は結局なにをやっていたんだ?」
さっちゃんが仲間になったので、俺は気になっていた疑問を投げてみることにした。
「アレって?」
「ほら、業魔に力を混ぜてどうこうってやつ」
業魔や天魔はカルマレイドの原作にも存在したが、あれほど変質した敵はいなかった。
今後はディザイアの力が混ざった特殊な業魔にも注意を払わねばならないため、あらかじめ対策を練っておきたかったのだ。
「ああ、アレのこと。あれはね……」
俺の問いに対し意気揚々と答えようとしたところで、さっちゃんが突然フリーズした。
斜め45度のチョップでもかました方がいいだろうか。
「……あれ? アタシ、どうやったんだっけ」
「手の内は明かせない、とかそういう話か?」
俺が尋ねると、彼女は慌てたようにブンブンと首を横に振る。
そんなに焦らなくても取って食ったりしないのに。
まるで横暴な上司に怯える部下のような振る舞いをされると、おじさん悲しくなってしまうよ。
どうしてそんな対応をするの?
『自覚がないというのは実に恐ろしいな』
「えっと、違うの。仲間になるっていうのは本心だし、隠さず話したいとは思ってる。だけど……思い出せないの。ねえ、グランギニョル。アタシ、どうやってあれを?」
さっちゃんはパニックになりかけながら、抱えたハンマーにすがるように語りかける。
『あ゛ー……。あ゛ー……? どうやったんだっけな。なんか気づいたら使役できていたんだが』
グランも唸るように考え込むが、まったく覚えていない様子だった。
……ふむ、これはとぼけているのか、本気で記憶がないのか。
物語でよくある「こいつは嘘をついているようには見えない」という場面だが、残念ながら俺にはそれを見抜く目など持ち合わせていない。
嘘をつき慣れている人間は、自分すらも騙して真実と思い込むことがあるため、見破るのは思いのほか難解なのだ。
「どう思う、マキナ」
『グランギニョルの単純な性格的に、そんな高度な嘘がつけるとは思えんが……』
まあ、俺もそれには同意する。
「本当に分からないの。確かにアタシがやったと思っていたけど……あれは本当にアタシが……? アタシ、アタ、アタ――」
頭を抱えてブルブルと震え出したさっちゃんを、俺は慌てて制止した。
「分かった! 信じる、信じるからストップだ!」
これ以上追及すれば確実にやばいと直感し、彼女の両頬を軽くパチンと挟み込んで、強制的にこちらを向かせる。
さすがにこれほどの怯えを演技と断じるほど、俺も野暮ではない。
これで演技だったらアカデミー賞ものである。
「俺を見ろ。俺はお前の味方だ」
「ヒッ、あ、ぐ……」
目に涙を浮かべ過呼吸気味になっているさっちゃんに対し、頭を優しく撫でながら語りかける。
「ほら、深呼吸しろ。ゆっくり深く吸って……吐いて……」
「スゥー……ハァー……」
かつては紙袋を口に当てるペーパーバッグ法が主流だったが、現在は酸素不足や窒息の危険があるため推奨されていない。
こうして落ち着いて深呼吸をさせるのが一番なのだ。
「落ち着いたか?」
「……うん、ありがとう」
まだ若干呼吸は乱れているが、先ほどよりは幾分か冷静さを取り戻したようだ。
取り乱した恥ずかしさからか、彼女の頬がほんのりと朱に染まっている。
「いいか? 俺たちは今日から仲間だ。お前が困っていれば俺が助ける。ムカつくことがあれば一緒に怒ってやる。だから困ったことがあればいつでも連絡してこい。いいな?」
俺がそう言い聞かせると、彼女はこくりと頷いた。
それにしても……どうやら俺の想定以上にきな臭い事態になりつつあるようだ。
「リライター……どうして、敵だったアタシにここまで親身になってくれるの?」
「変身していない時は宵でいいよ。俺の名前は明星 宵。魔法少女の時は正体を隠すためにリライターと名乗っているだけだから」
「分かった……じゃあ、改めて。なんでアタシなんかにそこまでしてくれるの?」
どうして、か。
俺にとって魔法少女とは、漏れなくすべて愛すべき尊い存在なのだ。
MAHOも、民間も……そして違法も、すべてを平等に愛している。
「愛しているからさ」
「愛!?」
俺が真摯な想いを込めて答えると、さっちゃんは顔を真っ赤にして素っ頓狂な声を上げた。
「ああ、俺は(すべての魔法少女を)愛している。推していきたい。助けたい。そのためなら俺はどうなったって構わない」
俺の命を捧げることで魔法少女が救われるというのなら、俺は喜んで笑顔で死のう。
それだけの覚悟と愛を持ってオタクをやっているのだから。
「あ、う、わ、分かった……分かったからもう十分よ……」
プシューと顔から湯気を吹き出しそうな勢いで、さっちゃんはスススッと後ずさりして距離を取る。
いかんいかん。
好きな話になると早口で語り出してしまうのはオタクの悪い癖だ。
初対面――厳密には二度目だが――の少女に対して熱弁しすぎてしまった。
「と、とりあえず友達からで……っ」
「え? あ、うん」
勢いに引かれて拒絶されたかと思ったが、どうやら彼女なりに受け入れてくれたらしい。
第一印象は最悪だったが、あれは妄念具のせいだったと分かったし、案外うまくやっていけそうな気がする。
その後、互いに連絡先を交換し、その場は解散することとなった。
「そういえば、さっちゃんは今何歳なんだ? 学校とかは大丈夫なのか?」
「アタシは……今14歳。学校は……とりあえず、明日から行ってみる」
ということは、まさに中二の真っ最中というわけか。
年下であるならば、年上の俺が尚更サポートしてやらねばな。
「それがいい。ストレス発散ならいつでも付き合うからさ」
さっちゃんは小さく頷くと、どこか決意を秘めた様子で立ち去っていった。
『宵。あの子には随分と普通に接していたのだな。久遠や軍荼利とかいう奴の時は、すぐに気絶しておったというのに』
まあ、彼女は俺の知る原作に存在しないキャラクターだからな。
魔法少女として推しているし愛してもいるが、尊さにという意味では原作組に一歩劣る。
だからこそ、比較的フラットな態度で接することができたのだ。
――という趣旨の説明をマキナに説明する。
『うーむ、相変わらずお前の言っていることは理解不能だな』
相変わらず理解しようとしないマキナを無視し、俺はディザイアを取り巻く謎について思考を巡らせる。
十中八九、裏で糸を引く黒幕が存在する。
おそらくはディザイアを製造した元凶だ。
業魔の使役に関しても、その黒幕による仕込みと考えた方が辻褄が合う。
どういう意図でディザイアの所有者同士を戦わせているのかは不明だが、どうせロクでもない企みなのだろう。
現状、俺にできる動きは限られているが、ディザイアを回収し続けていれば、いずれその黒幕と相まみえる時が来るはずだ。
その時は遠慮なく叩き潰させてもらう。
魔法少女を不幸にする存在など、俺が絶対に許しはしないのだから。
◆
――あったかもしれない、もしもの話をしよう。
原作『カルマレイド』において、滅城サリエは本来《《命を落とすはずの存在》》であった。
彼女は主人公である久遠たちが最初に直面する強敵であり、死亡が確定している悲劇のキャラクターだったのだ。
ゲーム内には正気度(SAN値)というパラメータが存在し、ディザイアを行使する者、およびそれと対峙する者は戦闘を通じて正気度を削られていく。
元より精神的に追い詰められていたサリエは、戦闘のさなかに正気度を完全に失い、自身が使役していたはずの業魔に呑まれ――主人公である久遠たちの手によって討伐される運命にあった。
しかし、その惨劇の結末が訪れることはもうない。
いくつかのアクシデントと、予定にない介入があったからだ。
まず、宵――リライターの手によって、彼女が限界を迎える前に早々と決着がつけられたこと。
次に、操作された記憶を掘り起こそうとして狂気に陥りかけた際、宵の精神分析によって踏みとどまったこと。
そして何より……原作では孤独のまま果てた彼女に、絶対的な心の拠り所ができたこと。
それらの要素が重なり合い、この世界において彼女は死の運命を回避することとなった。
明星宵は図らずも、2人目の魔法少女の悲劇を書き換えたのだ。
運命は完全に改訂され、物語はもはや最初のシナリオから大きく脱線している。
――《《いいね、実に面白いわ》》
――《《さあ、これからどうなるのか、もっと見せて頂戴ね》》
宵のSAN値は0




