質問はすでに尋問に変わっているんだっ
「で、プーちゃんよ」
「誰がプーちゃんよ!」
だって、主演って長いし……。
「アタシには滅城 サリエって名前があるのよっ」
「じゃあ、さっちゃんか」
「ンギギギギギギッ!」
呼び名が気に食わないのか、プーちゃん改め、さっちゃんは顔を真っ赤にして、行き場のない怒りを納めるように手をワキワキと振るわせている。
現在俺たちがいるのは、とある廃ビルの屋上だ。
ちなみに学校には「体調不良で休みます」と連絡してある。
本来なら保護者に連絡がいけば即座に嘘と露見するのだが、俺の場合は連絡の行く親が存在しないため問題ない。
こういう時、両親不在という設定は非常に都合が良い。
どうして居ないのかという理由は謎のままだが。
「そんなに怒るとお肌に悪いぞ」
「誰のせいだと思ってるのよ! ……つーか、アンタ誰なのよ。男の知り合いなんてアタシには居ないんだけど」
さっちゃんはキッと鋭い視線で俺を睨みつける。
……ああ、そうか。変身を解いた姿だから認識できないのか。
手元のマキナを見れば察しがつきそうなものだが、性別が変わっているせいで同一人物だと結びつかないのかもしれない。
俺はそう考えると、マキナを握り直してリライターへと変身を遂げた。
「これでどうかな、お嬢さん」
変身すると、どうしてもこの芝居がかった口調になってしまうのは諦めた。
そういうキャラクターとして自分の中で受け入れ、一貫させていこうと思う。
「あ、あんた……リライターとかいう変態じゃない。どうして……」
目の前で変身した俺を目撃し、さっちゃんは驚愕の表情を浮かべる。
「まあ、事情があってね。普段の姿は男なんだ。女性の姿でなければ魔法を扱えないため、この姿を借りているに過ぎないのさ」
『おいおい、馬鹿姉貴よぉ。使い手が居ねぇからって、ついに男にまで手を出したのか。ははっ、落ちるところまで落ちたなぁ!』
相手が俺だと理解したからか、沈黙を守っていたグランギニョル(ピコピコハンマーの姿)が煽り立てる。
『仕方ないだろう。我を扱える素養を持った者が、たまたま男だったのだからな。……まあ、お前はそんな男に負けたわけだが。ププッ』
『ぐああああああ‼ ムカつくムカつくムカつくぅぅぅ!』
返り討ちの煽りを食らったグランギニョルが叫ぶ。
わかるぞ、マキナのその独特な物言いは本当に人をイラつかせるからな。
「アンタたち、主従揃って人をおちょくるのが得意なのね。お似合いだわ」
「『いやぁ、それほどでも』」
「褒めてないわよ!」
綺麗にハモった俺とマキナのセリフに、さっちゃんが「ウガーッ」と吠える。
まったく、怒りんぼうガールだ。
だからこそ、憤怒の妄念具であるグランギニョルに選ばれてしまったのかもしれないが。
「……まあいいわ。あんたの正体は分かったわよ。で、なんでアタシの素顔が分かったのよ。言っておくけど、魔法少女の時とは見た目も違うし、グランギニョルも隠していたはずよ」
「何でって……俺が一度目にした魔法少女を見間違えるはずがないだろう?」
変身を解除し、曇りなき眼でそう答えると、さっちゃんは何故か「ヒッ」と黒い悪魔でも見たかのように引きつった顔で怯え始めた。
築年数の経った建物だしな、Gでも見つけたのだろうか。
『こやつの妄言はスルーしておけ。相手にするだけ無駄だ。……同じディザイアであれば、近くに寄れば互いに感知できる。姿を偽っていようと、魔力の痕跡までは隠しきれん』
「そうなの、グランギニョル?」
マキナの説明を受け、さっちゃんが手に持ったピコピコハンマーに問いかける。
なんでピコピコハンマーなんだろうね。可愛いね。
『ああ、だから俺もあいつが近くに居るのは分かってた。ぶつかってきた相手が男だったから、センサーが壊れたのかと思ったんだよ』
「なあ、グっさん」
『グッさん!? お前、マジでふざけてんのか!?』
だって、グランギニョルだと長いし。(本日二度目)
「じゃあ、グランでどうだ?」
『……それならまだマシだ』
「グラン、お前はどうしてそんなにマキナを憎んでいるんだ?」
これは以前から気になっていた疑問だ。
マキナもそうだが、俺が予想していた以上にお互いを敵視している。
俺としては極力魔法少女と争いたくないため、和解の道があるなら探りたいところなのだ。
『……』
しかし、グランは黙り込んだままだ。
答えようとしないというよりは、答えられないのかもしれなかった。
『我らは《《そういう風に造られている》》のだ。そこに理屈など存在しない』
淡々と補足するマキナ自身も、深い理由は理解していないようだった。
最後の一体になるまで共食いを強いられる蟲毒のようなシステムなのだろうか。
そうなると裏で糸を引く黒幕がいそうだが、生憎と俺はカルマレイドの無印版のストーリーしか知らないため、これ以上の対策の立てようがない。
「ディザイアの性質については理解したよ。……さっちゃんは、どうしてあんな事件を起こしたんだ?」
「……っ。あんたには関係ないでしょ」
俺の問いかけに対し、さっちゃんはプイッと顔を背ける。
だが、そこで「そうですか」と引き下がるわけにはいかない。
「関係は大有りさ。なにせ、またあんな騒ぎを起こされたら困るからね。俺はシナリオの破綻を許さない。相手が魔法少女であってもだ。いいかい、《《魔法少女》》であってもだ」
これは半分ハッタリだ。
俺が《《魔法少女を傷つけられない》》という弱点を悟られるわけにはいかないため、あえて高圧的な態度をとる。
「いいかい? これはお願いじゃない。勝者から敗者へ投げかける尋問だ。君に拒否権はないよ」
「……っ」
俺の圧迫が効いたのか、彼女は悔しそうに何かを噛み殺すような表情をした後、ぽつりと口を開いた。
「……学校でいじめられてたの。アタシの学校は私服登校なんだけど……この服がおかしいってみんなで笑うの。先生も……親も、アタシの方がおかしいって、誰も認めてくれない……」
「――だから、世界を滅ぼそうと?」
俺が静かに尋ねると、さっちゃんはバッと顔を上げた。
「ち、違う……! いや、確かに世界なんか滅びちゃえばいいって思ったことはあるけど、あそこまで酷いことをするつもりじゃなくて……変身したら、怒りが抑えきれなくなって、それで……」
ふむ……これはきな臭くなってきたな。
彼女の精神の変調には思い当たる節がある。
まさに、俺自身が体験している現象だ。
変身すると気分が高揚し、口調が変化し、まるで万能の存在になったかのような感覚に包まれる。
「なあ、マキナ」
『な、なんだ……』
俺の醸し出す雰囲気を察したのか、マキナが露骨にバツの悪そうな声を出す。
「俺さ、前にも聞いたよな? 精神に干渉していないかって」
ミシミシとマキナを握りしめる手に力を込める。
彼女の刀身を地面に突き立て、じわじわと圧力をかけて曲げていく。
「あの時は上手く誤魔化されたけれど……やっぱり干渉しているよな?」
そうでなければ、俺やさっちゃんの精神の激しい変貌に説明がつかない。
『待て待て待て! 違う違う! 誓って《《意図的に》》やっておるわけではない!』
「意図的には?」
『言ったであろう。我らは大罪を原動力として造られたと。これは不可避の副作用のようなものだ。傲慢のディザイアであればより不遜に、憤怒であればより狂暴に怒りを燃やし続ける。我ら自身にも制御できんのだ!』
どうやら嘘をついている様子はない。
俺は柄にかける力を緩めてやる。
「使い続けた場合、人格は完全に変わるか?」
『それに関しては一切ない。変身を解除すれば後遺症も残らんだろう? 精神構造の変化は変身中の副次的な影響に過ぎん。特定の感情が増幅されるだけで、本人の根底にある人格や目的が書き換わるわけではないのだ』
「で、でも、アタシはあそこまで暴れるつもりは……」
さっちゃんがすかさず異を唱える。
『貴様の心の奥底に、それだけの破壊願望が潜在していたということだ。人間は普段、理性で暴走を抑えている。我らを行使する際、その理性のタガが緩むというだけに過ぎん』
聞けば聞くほど「こいつらは封印した方が良いのでは?」と思えてくる。
だが今ここで封印してしまえば、今後出現するであろう他のディザイアに対抗する手段が失われてしまう。
ここは甘んじてリスクを受け入れるしかないのだろう。
そもそも、封印する方法自体分からないのだが。
「どうする? 君が恐怖を感じるなら、グランギニョルは俺が預かるけれど」
俺にできる解決策は、ディザイアを自分の元に集めることだ。
今のところ俺には破壊願望はなく、純粋に「魔法少女を支援したい」という願いがあるのみ。
《《傲慢》》な考えかもしれないが、俺がまとめて回収するのが一番安全だろう。
……そう考えること自体、マキナの影響なのかもしれないが、まぁいいだろう。
「え、で、でも……これがないと……」
俺の申し出を聞き、さっちゃんはグランをぎゅっと抱きしめた。
手放したくはない、けれど変身すれば再び破壊衝動に飲まれてしまう。
その狭間で葛藤しているのだろう。
「……なら、俺の仲間になるかい?」
自分一人では制御できないという不安があるのなら、仲間がいればいい。
暴走しそうになれば、近くにいる俺が止めれば済む話だ。
それに、味方がいるということは精神的な支えになる。
『MAHOへ引き渡したりはしないのか?』
それも頭をよぎりはした。
あれだけの大規模な事件を引き起こしたのだ、本来なら相応の処罰を受けるべきだろう。
しかし、成り行きとはいえ彼女に俺の正体を知られてしまっているため、MAHOに突き出せば俺の正体まで露呈する危険性がある。
俺自身、無許可で魔法を行使する違法魔法少女である自覚はあるため、立場上は立派な不審者なのだ。
それを考えると口封じという選択肢も浮かぶが、そんな後味の悪い真似は絶対にしたくない。
かといって、彼女を放置するわけにもいかない。
ならば、自分の目の届く範囲に囲い込んで仲間にしてしまうのがベストな選択だ。
「……なる」
しばらく葛藤した末に、さっちゃんは静かにそう頷くのだった。




