授業を受けまして
リアと別れ、教室にやってくる。
「流石に久遠くんとみろくちゃんは居ないか」
教室内を見渡すと、もうすぐ始業開始のチャイムが鳴る時間にもかかわらず、2人の姿はない。
ゲームでは確か、男なのに魔法が使えるということでMAHOに召喚され、色々と質問されたり検査されたりしていた。
みろくちゃんも当事者として、一緒に聴取されているはずだ。
ゲーム内でも久遠くんが魔法を使える理由は後半になって明かされるのだが……まぁ、今は良いだろう。
2人が居ないのは寂しいが、同じクラスで心臓が常にバクバクしていたので、たまには休ませてやるのもいいだろう。
『心臓を休ませたら死ぬのでは……? いや、お前なら心臓止めても生きてそうだけど』
比喩だよ、分かれよ。
「おーす、お前ら座れー」
マキナにツッコミを入れながら席に座ると、ちょうど先生が入ってくる。
白衣に身を包み、綺麗な黒髪を後ろにまとめてポニーテールにしている女性……曼荼羅 智慧30歳。
数年前までオフィシャルの魔法少女をやっており、現在はここで戦闘学を教えている。
魔法少女に戦い方を教えるのも勿論だが、一般市民にも自衛としてある程度教えているのだ。
自衛は突き詰めると『危険なことに近づかない』に集約されるが、業魔や天魔はそんな事情などおかまいなしだ。
やむを得ず巻き込まれてしまった場合の対処法、魔法少女が駆け付けるまでの時間稼ぎの意味合いが強い。
どうあがいても一般人じゃ業魔達には勝てないから焼け石に水ではあるが、無いよりはましだ。
国としても「やることはやった」という建前が必要なのだ。
まぁ、俺は戦闘学の授業好きだけどね。
イリーガルとはいえ魔法少女になったのだから、戦い方は学んでおきたい。
マキナの力は強い。中盤以降に登場するはずの業魔でさえあっさり倒せるレベルではあるが、それはあくまで業魔が相手だから。
もし、ディザイアの所有者と戦いになったら技術があるほうが勝つだろう。
そういう時のために備えておいた方がいいはずだ。
「えーと、今日の欠席は妙覚と……久遠だな。昨日、久遠が業魔の戦いに巻き込まれたらしいので、その事情聴取だそうだ」
先生のその言葉にクラスがざわつく。
さすがに久遠くんが魔法を使えた、という情報まで回ってはいないが、それでも衝撃的な情報だ。
現実に当てはめると、街中でヒグマに襲われたとかそんなレベルなのでざわつきもするだろう。
「あの、久遠は無事なんですか」
「ああ……妙覚が無事に撃退したから大丈夫だ。2人にケガはない」
クラスの一人が質問すると、先生がそう答える。
ふむ、この感じだとリライターの事も伏せられているか。
いや……MAHOから聞いてはいるが、先生が伏せている可能性もあるか。
どっちにしろ、リライターの事や久遠くんの事はあまり言いふらすべきではないだろうな。
国法や民法並に強いイリーガルの魔法少女に、男なのに魔法が使える少年。
どちらも刺激が強すぎる。
余談だが、魔法少女がらみで休む場合、出席日数などは免除される。
社会人の場合は、休んだ日の給料は国から補填される。
そうでなければ、魔法少女側にメリットがないからな。
命がけで戦っている人たちに少しでも還元しようという国なりの誠意だ。
だからこそ、世界中で魔法少女が受け入れられ人気なのである。
その後もHRは滞りなく進んでいき、何事もなく終わる。
「今日の一限目は戦闘学だ。全員準備して第二グラウンドに集まれ」
先生がそう言うと、「げー」や「朝からしんどー」など悲喜こもごもである。
俺も戦闘学は好きだが、確かに一限目からはちょっとしんどい。
やるけど。
更衣室でジャージに着替えると、他の生徒と共に第二グラウンドへと向かう。
ちなみにこのジャージ、防刃、防弾性に優れており、その割に見た目や動きやすさは普通のジャージと変わらないという謎技術がふんだんに使われている。
まぁ、想定している相手が相手なので、最低限でもこれくらいは必要なのだ。
あ、当然ながらマキナは教室に置いてきた。
さすがに剣のキーホルダーを持ち歩くのは恥ずかしい。
あいつはぶう垂れていたが、全力で無視してやった。
「あ、宵じゃーん。やほー」
第二グラウンドに向かって歩いていると、同じくジャージに着替えたリアが声をかけてくる。
戦闘学は基本的に他のクラスと合同で行われる。
今回は、リアのクラスとだ。
「意外だな、リアは戦闘学さぼりそうなのに」
「まー、私としても本当はサボりたいんだけどねぇ。ただ、もしもの時の為に鍛えておいた方がいいかなって」
と、あくびを噛み殺しながらリアは言う。
まぁ、その精神は大事だな。
やることもやらないで死んでしまったら、悔いが残る。
どうせ死ぬにしてもやることをすべてやって死にたいものだ。
ん……?
「あれ、リア。そんな人形持ってたっけ?」
彼女のポケットから道化師のような人形がちょこんと出ているのが見える。
人形を持ち歩くようなタイプではなかったはずだ。
「あ、うん。ゲーセンの景品でゲットしたんだ。可愛いでしょ」
そう言って道化師の人形をこちらに向けてくる。
かわ……いい?
向けられた人形を改めてじっくりと見るが、どう贔屓目に見てもかわいくは見えない。
むしろ呪われそうだ。
まぁ、感性は人それぞれだしとやかくは言うまい。
「それは良いけど、授業の邪魔にならない?」
智慧先生は特にそういうのはうるさく言わないけど、戦闘の邪魔にはなりそうだ。
「だいじょぶだいじょぶ。これくらい平気だって」
俺の問いに対し、リアはヘラヘラと笑いながら答えるのだった。
◆
その後、戦闘学の授業が始まる。
俺たちは入学したばかりなので本格的なことはまだせず、型の練習や軽い手合わせ程度だ。
もう少し経験を積むと武器も扱うようになっていく。
「よーし、練習はそこまで。軽く手合わせをしていくぞ。近くにいる者と2人一組になれ」
2人一組……う、頭が……っ。
悪魔のワードに謎のトラウマが蘇り頭を抱える。
「宵、一緒に組もうぜぇ」
俺が勝手にトラウマを発動していると、大天使リアエルが声をかけてくる。
君は俺のメシアだ。
「もちろんだよ」
ありがたい申し出に俺は間髪入れずに返事をする。
「ケガしない程度になぁ。はじめ!」
智慧先生がパンッと手を打つと、手合わせが始まる。
まず俺が牽制がてら拳を放つ。
それほど速度は出ていないが、リアはそれをヌルリと避け俺の関節をそのまま極めようとしてくる。
「クッ……」
すぐに腕を引き抜き、重心を低く落としてリアの懐へと足を踏み出す。
本気の打ち合いではないとはいえ、彼女の脱力しきった動きはどこか掴みどころがない。まるで柳の枝を押しているかのような不気味さだ。
俺はすぐさま掌底を彼女の胸元へと繰り出したが、リアはだるそうにあくびを噛み殺すような顔のまま、ぬるりと首を傾けてそれをかわす。
そして、半身を翻すと同時に俺の手首を軽く叩き、その勢いを利用して背後に回ろうとしてきた。
おいおい、リアはこんな動けたのか?
俺は旋回する彼女の動きに合わせて軸足を旋回させ、間髪入れずに相手の体勢を崩すための払い腰を狙う。
だが、リアはポケットに突っ込んだ道化師の人形を落とさないよう片手で軽く押さえつつ、フワリと重力を感じさせない身軽さで俺の脚をすり抜けた。
互いに軽く往復するような拳と捌きの応酬。
本気を出していないはずなのに、息を吐くようにこちらの攻撃の芯を外してくるリアの手応えに、俺は思わず冷や汗を流す。
「そこまで!」
智慧先生の言葉のもと、俺たちはぴたりと動きを止める。
「はぁはぁ……リア、お前結構動けたんだな」
「へへぇ、でしょう?」
汗をかいている俺に対し、一つも汗をかいていないリアは自慢げにそう笑う。
くそう、やはりこの世は女性の方が強いのか……。
マキナが居ないとこの程度なのかと軽くショックを受けつつ、俺は強くなろうと決意するのだった。




