第9話 たぬきの生活から王子さまが消えました
レナードは問題解決のため、王都へ行ってしまいました。レナードがわたしの生活から消えてしまいましたよ。とはいえ依然のわたしとは違いますからね。料理もできるようになりましたし、お風呂にも入ります。井戸がありますから、お芋もちゃんと洗って食べますよ。だからジャリジャリはしません。掃除や片付けもね。教えてもらいましたからね。レナードが一日二日いないだけでは、小屋が汚れたりしませんし。……本当です。信じてください。
ただですね。レナードの不在が三日四日と増えていくごとに、わたしは彼のいない空間に慣れるどころか違和感を感じてしまうのです。おかしいですね。両親のもとから独り立ちした時の方が、もっとはやく1人に慣れましたよ? ちょっと変ですよね。
レナードは戻ってくると言いました。だから彼は戻ってくるのです。なのに、なんだか胸の中にぽっかりと大きな穴があるみたいで寂しいのです。ご飯は自分で作れますからひもじくなることはありません。雨漏りもしませんし、井戸もありますから水を汲みに行く手間もかかりません。お風呂に入ればリラックスもできるし、ベッドは寝心地がよくて横になればぐっすり眠れます。なのになぜ満たされないのでしょうか?
たぬきなのに、わたしは。なぜレナードがいない程度で、こんなに寂しいのでしょうか。不思議ですね。不思議、不思議。その理由を、じっくり考えてみたほうがいいのかもしれません。そうだとは思うのですが……。真面目に考えようと思うと、逆に眠たくなるのはなぜでしょうね? やっぱりアレですか。ベッドの上で考えるからですか。そうですか。でもアレですよ。起きているとレナードがいないことに切なくなってきちゃうので、眠れるなら寝てしまったほうが楽なのですよ。果報は寝て待て、ですよ。寝ているうちに、時間経って、目が覚めたら目の前にレナードがいたらいいのに。そう思うけれど、現れませんね。目覚めたとき眼前いっぱいに広がる美形の顔というのは、なかなか気分がよいものなのですけど。
というか、レナードは戻ってくるのでしょうか? 戻ってくると言っていたから戻ってくるのですよね? あれから季節が変わっていき、春はいつの間にか終わっていました。暑い暑い夏が来て、美味しいものがいっぱいの秋が来て、ブルブル震える冬が来ました。あぁ、レナードの顔を一年近く見ていません。アレ? 一年経っちゃったかな?
今はもう春。心躍る季節です。だけど今年のわたしの心は、ちっとも躍っていませんね。変なの。




