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【短編】たぬきですが、うっかり魔女になったら王子さまに溺愛されました  作者: 天田 れおぽん @初書籍発売中


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8/10

第8話 たぬきは乱暴者が嫌いです

 レナードが出かけたり、出かけなかったりする生活がしばらく続きました。その間に春が来て、夏が来て、冬が来て。また春が来ました。春はいいですね。ウキウキします。食べる物には困らないし、森はいい匂いで包まれるし、風も優しいし、とにかくいいですね。ウキウキします。


 でも乱暴者の乱入は、いついかなる時もお断りです。


「僕が王子だと知っての狼藉か⁉」

 

 なのにわたしの目の前では、レナードが叫びながら、乱暴者が黙って振り下ろす刃を剣を使って払いのけています。


 天気のよい春の昼下がり。レナードとわたしはお散歩がてら、食材を探しつつ森を歩いていました。そこに黒づくめの男たちが襲い掛かってきたのです。なんて無礼者。いきなり刃物を振り回すとか、失礼ですね。森で刃物を使っていいのは獲物を狩る時だけですよ?


「レナード王子! あなたの存在は邪魔なのです!」

「そうです! 王国の脅威となりえます」

「大人しくオレたちの手にかかって死んでください」


 うーむ。黒づくめの男たちの言動を見るに、レナードを狩ろうとしているようです。王国とか王族とか面倒なんですね。たぬき、関係なくてよかったです。


「アディ、危ないっ!」


 あ、ヤバい。黒ずくめの男のひとりが、わたしに刃を向けてきましたよ。しかも長いものではなくて、短いナイフのような刃物です。失礼ですね。わたしはそこまで弱くはありませんよ? ねぇ、魔法の杖。などと呑気に構えていたら、レナードがわたしを助けようと、刃とわたしの間にパッと入ってきました。いけません。危ないです。


「レナード⁉」


 血の匂い。レナードの服が赤く染まる。足元には茶色く染みが出来ていく。雨が降ったあとみたいに。


「ギャアアアア! レナードォォォォッ!」


 彼はうめきながらうずくまる。ああ、なんてことでしょう。レナードがピンチです。わたしなんかを助けるために、命を懸ける必要なんてないのに。だってわたし、自分の身は自分で守れますから。


「大丈夫、アディ。僕は大丈夫だから」


 レナードは弱々しい声で、わたしをなだめようとしています。わたしの喉奥からは、クククとかカカカとか唸るような興奮時の声が昇ってきています。無理です。今のわたしは、なだめられませんよ? カカカカッとという音が喉から上がってきてしまったら、両親でもわたしを止めることはできないのです。


 わたしは魔法の杖を掴むと、思いつく限りの攻撃魔法を次から次へと繰り出しました。グゲッとかウガッとか聞いたことのない声が上がっても知りません。木々の倒れる音や、何かがぶつかり合う音がします。わたしたちの周囲に酷く鋭い風が取り巻いて、わたしの頬をかすめただけで血が出たようですが、そんなことはどうでもいいです。今はそんなことに構っている暇などないのです。レナードがケガをしました。血がいっぱい出ています。レナードを傷つけたヤツは容赦しません。たぬきは仲間意識が強いのです。仲間を傷つけたヤツなんて、どうなろうと知ったことではありませんよ。とことん懲らしめてやります。二度とレナードに手出しができないように。二度と……二度と……。


「……アディ! アディ! 落ち着いて、アディ!」


 おかしいですね。レナードの声が右耳のすぐ近くから聞こえますよ。

 

 わたしはハッとして右側を見ました。そこにはレナードの顔がドーンとありました。間近で見ても綺麗ですね、レナードは。


「ああ、よかった。アディ。まるで鬼神のようになってしまって……変になってしまったのかと思ったよ」


 わたしはいつものわたしですよ? レナードったら変なことを言いますね。


「襲撃者はもういないよ。大丈夫。大丈夫だから、アディ」


 レナードはわたしをギュッと抱きしめました。傷は……ああ、治っていますね。無意識のうちにわたしは魔法の杖で治癒魔法をレナードに向かって放っていたようです。よかった、よかった。……なのに、レナードがなだめるようにわたしの背中をトントンしていますよ? 変ですね。


 わたしは視線を上げてギョッとしました。周囲には何もなくなっていたからです。わたしたちは森を歩いていたはずですが、何もない大地の上に立っています。草原ですらありません。地面はただの土くれが露出していて、ところどころで顔を出している岩がゴツゴツしています。なんですかコレは。


「アディが攻撃魔法を打ち続けるから、襲撃者ごと森がなくなったよ」


 レナードが苦笑を浮かべて事情を説明しました。うんうん。理解、理解。……って、ええっ⁉ わたしってば、こんなに強いのですか? こんなに強いならブチギレせずに、冷静沈着かつ冷酷に襲撃者をとっちめてやればよかったですね。……ん? なんですか、レナード? そのこわばった表情は? いいんですよ、まだギュッとしていても。なぜにコチラをしっかり見たまま後ずさりしているのですか? まるで怯えているかのようではないですか。失礼ですね。わたしはたぬきですけれど、レナードを引っかいたりしませんよ?

 


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