第7話 たぬきの生活に王子さまが必須とは困りましたね
今日はレナードがいません。わたしはレナードが作ってくれたベッドの上に寝そべって、ゴロンゴロンと右に左にと転がってみました。ベッドは快適ですが、レナードがいないと何となく寂しいです。お腹は空いてないですよ? おかしいですね。でもお腹が空いている時と同じくらい、寂しいです。お腹が空いていないのに、ですよ? そもそもお腹が空いたら食べられる物は、レナードが用意していってくれました。冷めていても美味しく食べられるサンドイッチです。だから……もしもお腹が空いてしまっても、困ることはありません。掃除も行き届いていて部屋のなかは快適ですし、困ることはないはずです。でもなんだか……妙な気分です。
レナードは、黒幕がどうのこうのと言いながら出かけていきました。知らない人が情報を持ってレナードの所へやってくることには慣れましたが、レナードが出かけてしまうことは慣れません。
「ちょっと探りを入れてくるけど、危ないことはしないから心配しないで」
レナードはそう言って出かけていきました。
爽やかな笑顔を浮かべて、金髪をキラキラさせて家を出ていくレナードのことを心配しているつもりはありません。彼は強いです。屋根も直せますし、ベッドも作れるのです。彼は強いです。
では。わたしの心に引っかかっているのは、なんなのでしょうか?
お天気はよくて、心地の良い風が吹いています。雨が降っているわけでもなく、寒いわけでもなく、ビョービョー音を立てて風が吹いてるわけでもないのに。わたしの心には、何が引っかかっているのでしょう。風がないからイイ感じの枝でも引っかかってるのでしょうかね。
わたしは空中を漂っている魔法の杖へと視線を向けました。なんだか自由気ままな気がします。ただのイイ感じの枝のくせして生意気ですね。後でぶん回しておきましょうか。……いえ、魔法の杖は、ぶん回されたら喜んでしまうことでしょう。八つ当たりも出来なくて悔しいです。チッ。
「ただいま、アディ……って、もしかして、ずっとベッドの上にいたの?」
金髪をキラキラさせながら帰ってきた王子さまに、わたしはただうなずきました。
レナードが戻ってきました。ほっとした気分。これはなんでしょうか?
「もう、アディは……ひとりにしとくと、本当に何もしないから……」
苦笑を浮かべたレナードは、ぶつぶつ言いながら台所へと向かいました。少しして火の匂いがしたと思ったら、あっという間に部屋の中はシチューのいい匂いでいっぱいになりました。
「おいで、アディ。一緒にご飯を食べよう」
笑顔のレナードがテーブルの前に立ち、わたしを誘っています。わたしはコクリとうなずくと、ベッドからおりてレナードのもとへと行きました。ふたりでご飯を食べましょう。ふたりです。ひとりではなく、ふたりです。
たぬきの生活に王子さまが必須になってしまったら困ったことになると思うのですが。これは……困りましたね。




