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【短編】たぬきですが、うっかり魔女になったら王子さまに溺愛されました  作者: 天田 れおぽん @初書籍発売中


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3/10

第3話 たぬきは森に落ちていた王子さまを拾いました

 わたしのベッドの上に男性が寝ている。


 血まみれの男性を拾い、なんとなぁ~く手当して、なんとなぁ~く休ませてみた。なんとなぁ~くすぎて、この先どうしていいかわからない。


「うぅ~ん。まだ目を覚まさないねぇ。治療はアレでよかったの? 魔法の杖」


 わたしに問われた魔法の杖は、空中でイイ感じにコクコクとうなずくように動いた。


「う~ん。それならいいけど……目、覚まさないね」


 この人がたぬきのベッドに寝るのなら、わたしはどこで寝たらいいんだろう?


 わたしはそんなことを考えながら、助けた男性をマジマジと見た。整った顔立ち。今は苦し気に閉じられている目には青い瞳がはまっている。髪の色は金色。浄化魔法で血を綺麗にしたからツヤツヤだ。白地の騎士服のようなものを着ているが、わたしは人間の文化に疎いからよくわからない。靴はブーツ。これは脱がせて、ベッドの脇に置いてある。あとは剣とか武器の類があったけれど、こっちもわたしにはよく分からない。


「兵隊さんかなぁ?」


 身分は高そうに見える。でも人間のことはよく分からないから、わたしには何とも言えない。ただ綺麗な男の人ということだけは分かる。


「よっこいしょっと」


 わたしはベッド脇へ置いた椅子に腰を下ろした。ギィと軋んだ音がする古い椅子だ。座った途端、案の定ギィィィィィィィィと音がした。人間が「うぅぅん」とうめくような声をあげた。でも小さい声だ。瞬間的にわたしはヤバいと思った。人間、たぬきにとっては脅威になったりならなかったりするので。だけど自分で彼をココに連れて来たんだったな、と思い出したので悲鳴を上げるのは我慢した。人間は小さく寝返りを打つと再び眠ってしまったようだ。少しすると軽い寝息が聞こえてきた。


「ん、ちゃんと治療はできたみたい。よかったね」


 わたしは魔法の杖に向かって言った。杖は同意するように何度も空中でコクコクとうなずくように動いた。まぁなんだ、この魔法の杖は自己主張が激しいから、問題があれば実力行使しちゃうんだろう。杖とわたし、どっちが魔法使いか分からないくらいに魔法の杖は自由だ。わたしはたぬきだから、自由というか呑気。


「この人は、どんな人なのかなぁ? ふふふ。たぬきの毛は茶色とグレーだから、金色の髪は珍しく見えるね。きつねと似た色だけど、アレとは違ってキラキラ。人間だったら普通なのかな? 綺麗でいいね、人間の毛」


 窓から入る光に照らされて光る金髪に、わたしはしばし見惚れた。そして気付く。


「ぁ……今晩、どこに寝よう」


 ベッドに寝ている金髪の人間は、ちょっと目覚めそうにない。わたしは室内を見回した。古い小屋はゴチャゴチャしていた。来た時から酷いありさまだったのだ。けっしてわたしのせいではない。そもそもたぬきは整理も、掃除も、得意では……アァ、主語が大きくなってしまいました。よそのたぬきに文句を言われてしまうかもしれません。でも小屋がもともと酷かったのは本当ですよ。朽ちかけたみたいな小屋は雨漏りも、ちょっびっとですけど、していましたし。物はゴチャゴチャで……なんか沢山あるのです。


 ベッドへ寝られる状態なのが奇跡。というか、わたしはたぬきなので細かいことは気にしません。クリーンの魔法が使えるようになったので、一応は綺麗にしたから人間も寝かせられるようになったというか、なんというか。


「でも……ソファあるからいいか」


 結論は簡単に出ましたね。うんうん。その晩は人間が起きる気配はなかったので、わたしはソファで寝ましたよ。すやぁ~。


 そして翌朝。わたしは目の前一杯に広がる美形の顔に迎えられて目を覚ましました。


「うわぁぁぁぁぁぁっ⁉」


 わたしは悲鳴を上げました。いや、わたしは小屋に美形がいるのを知っていましたからね。悲鳴を上げるとしたら、美形のほうじゃないですか? そっちのが正解じゃないですか? でも実際に悲鳴を上げたのは、たぬきのほうですよ。悲鳴を上げてしまったものは仕方ないですね。一度上げた声をなかったことにはできないですから、ここはいったん落ち着きましょう。わたしはコホンと誤魔化すように咳をして、ソファの上にキチンと座ると、美形としっかり視線を合わせました。


「目が覚めたようで、よかったです」


 わたしは人間に向かって言いました。表情はキチンとキリッとなっているでしょうか? 自分では確認できないので不安が残りますが、ここはキリッとした表情をしている、ということにして押し切りましょう。

 人間はちょっと困ったように笑うと、二、三回、口を開けたり閉じたりした後に話しだしました。


「その……僕は君に助けてもらったみたいだね。ありがとう」

「どういたしまして」

「僕は怪我をしていたと思うのだけど……」

「あ、怪我は魔法で治しましたよ。どこかまだ痛いですか?」


 なにせわたしは新米魔女ですからね。治癒の魔法がキチンと使えていなかったもしれません。骨の一本でも折れていたら痛いですからね。それは大変です。


「いや、大丈夫だ。でもこれは……僕は、どうしてここに?」

「運びました」

「えっ、君が?」

「はい。魔法で運びましたよ」


 わたし、なんか変なことを言っていますか? 人間がとっても変な表情を浮かべていますが、わたしには理由が分かりませんよ。たぬきですからね。


「そうか……迷惑をかけてすまない。僕はこの国の王子なのだが……」

「えっ⁉」


 王子さまだったのですか⁉ どうりで綺麗な人間だと思いましたよ。

 ……って、王子ってなんでしたっけ?

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