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48話 亡者対策大作戦、完遂〜だから私たちは最後に笑う〜

毎週金曜日の19時に定時更新中!


 冴子さんの剣舞は、本当に、この世のものではないと思えるほどの美しさだった。


 実際、リアルじゃありえない状態だったしね。

 なんせ、冴子さん、うっすら全身が光ってたもん。その状態で水がよどみなく流れるように舞うもんだからまるで光の羽衣でも羽織っているみたいに見える。もう完全天女様だよ。

 そんななかで小太刀が邪を切り裂くように銀色に瞬く。

 本当に神の奇跡って感じの光景だ。


 そんな冴子さんの舞に圧倒されたのか、動画でながれていたヤジや荒らしコメントが極端に少なくなる。

 みんな、画面に見入っているみたいだ。

 流れてくるコメントも


『この舞い、ヤバすぎない?なんか涙出てきたんだけど』

『美しすぎて息ができない…』

『CGにしてもすごすぎない?切れ目とかないし、これどうやってんの?』

『ゾンビたち、成仏してるんだけど!これ、マジで秘儀?』

『亡くなった人たち、安らかに成仏してほしい』


 てな感じて、みんなどこか神妙だ。

 

 静かになったのは視聴者たちだけではない。

 さっきまで殺気むんむんだった亡者たちが、一切暴れなくなってる。

 皆張り付けられたように立ち尽くし、一部など理性を取り戻したような眼をして、拝んでいる。

 そして、一様に、光の粒になって消えていく。


 この場のすべての存在が、冴子さんに魅入っている。

 それほどの力が、その舞にはあった。


 舞がクライマックスに差し掛かり、冴子さんが最後に強く祝詞を唱え、力強く刀を振り下ろすと、とたん、目も開けていられないような強い光が、ダンジョン内を包み込んだ。


「う、うわ!!」


 思わず一瞬、目をつぶる。反射的にカメラをかばったけど、大丈夫だったかな?視聴者さん、この光で健康被害とか起きていないよね?

 そんなことを思わず考えながら、恐る恐る目を開けていくと―――それまでダンジョンを埋め尽くすように湧き上がっていた亡者たちが全員姿を消していた。


「ご、ご覧ください!亡者たちが、あの悲しき震災の被害者たちがいなくなりました!無事、浄化ができたようです!今、帝都を覆っていた影が、冴子さんの手により解決されました!」


 私はそういってあたりをスマホで映していく。

 なんだかいろいろと起こりすぎて当初の目的を忘れそうになるけど、この動画、亡者が現実の帝都に湧かなくするためのものだからね。

 亡者の問題がこれで完全に解決したことをちゃんと強調しておかないといけない。


「このように、帝都に現れる怪異たちは、人知れぬ異界にて冴子さんをはじめとするこの時代の霊能力者たちによって、解決されているようですね!いやあ、図らずもすごい現場に居合わせちゃいました!

 IPOではこのような皆さんの知られていない世界の真実を、今後も追い続けます!この歴史的瞬間を一緒に体験した皆さん!チャンネル登録をお忘れなく!それでは、また別の動画でお会いしましょう!」


 私は適当にそうナレーションをすると、スマホの録画を切った。


 亡者対策大作戦、無事終了だ。


「よっしゃああ!!いろいろあったけど、ひとまず大成功!!!」


 私は勢いでそう叫んだあと、ダンジョンを解除した。

 スーッと空を遮る不自然な黒壁が消え、同時に天長節の喧騒が場を満たしていく。

 その場にへたり込んだ。

 はー。疲れた…。




* 




「陽菜さん、お疲れ様」


 私がぐったりしていると、衣服を整えた冴子さんが声をかけてきた。


「冴子さんもお疲れ様。剣舞最高だったよ!もう神話レベルのワザマエだね。もう宝具って言ってもいいくらい」

「ふふ。ありがとう。よくわからないし、そんなに大したものではないのだけれど貴女に褒めてもらえると嬉しいわね」

「いやいやいや、十分大したものだからね。あのスーパー亡者たちが、一網打尽だから」


 なんせ六万体の亡者を根こそぎ祓って見せたのだ。冗談抜きで神話レベルだと思う。

 そんな感じで私と冴子さんがじゃれあっていると、近くにいた亮介も、結界を張りなおしていた志乃たちも戻ってきたようだ。


「これで本当に亡者たちの問題は解決したのでしょうか?あれほど亡者が湧いたのですから、現実世界の方にも影響が残っていたりはしないでしょうか…」


 戻ってきた志乃は、まだ少し不安そうにそういってあたりを見回す。

 それに対して亮介は能天気な様子で答えた。


「まあ、そこらへんは外で見張っていた君の仲間たちに聞けばいいことと思うが、この様子だと特に何もなかったんじゃないかな?」


 私も併せて周りを見るが、確かに騒ぎが起きている様子は皆無だ。

 ちらほら控えている志乃の組織の連中も、こっちを熱い視線で見てくるだけで、特に騒いでも取り乱してもいない。

 

 想定外に亡者たちが湧き上がったものの、それはダンジョンの中にとどまってくれたようだ。


「まあ、インチキ臭い動画配信で現実感を失わせて亡者を出なくするという当初の計画は失敗だったろうが、過剰な演出のおかげであれは現実の世界とは別のものとして認識してもらえたようだね。

 やはり僕の仮説は正しそうだ。情報は似た『重さ』の情報同士で固まりあう。だから、君の作った現実離れしたダンジョン側に異変は集中し、現実世界は無事守られたわけだ」

「似た重さって、あの瓶の中に沈殿した土の層でたとえたやつ?あのとんちき理論、本気で言ってたんですか?」

「はは!とんちき現象の標本のような君にだけは言われたくないものだね」


 いや、そんなこと言ったって、あんなのインチキ臭さを増すために唱えた適当理論だと思うじゃんね?少なくとも物理学を本気で取り組んでいる人がまじめに唱えだすと、逆に不安になってくるよ?


「何とでもいいたまえ。これで極めて重要な検証ができた。やはり、情報の『質量』と『密度』で世界を記述することはできるんだ。これを仮に情報源テンソルとして計算すると、世界はおそらく情報による多層構造を持ち―――」


 亮介はうつろな目をして、早口でぶつぶつとよくわからないことを唱えている。

 あんな目にあっておいてよくこんな状態になれるな、こいつ。


「兎も角、後は様子を見るしかないでしょうね」


 ため息をつくと、冴子さんが亮介に代わって話始めた。


「いったん周囲に亡者が本当に残っていないかの確認しましょう。あと、今後被服廠跡に再び亡者が現れるかも確かめる必要があるでしょうね。今が何時かはわからないけれど、周りの様子を見るとまだ深夜ということはないでしょう。夜が更けてきたら、未来の新聞の記事の通りに亡者たちが現れるかもしれないもの」

「それは私共にお任せください。私の手のもので今晩は終夜警戒態勢を維持します。……突然、異界が崩れ去りそうになった原因も確認する必要があるでしょうし」


 あ、それは確かに。

 あの時は、まるで支えがなくなったように急にダンジョンの周りがおぼつかなくなったんだよね。ダンジョン側できっかけになるようなことは特になかったし、こっちの現実世界で何かが起こった可能性は十分ある。


「お嬢様は今日のところは、お帰りください。あれほどの活躍をなさったのです。もう充分お力をお貸しいただきました。後は私共で対応します」

「でも、もし亡者が残っていた場合、わたくししかあの者たちを祓うことはできないのよね?」

「その時は今日のこの大掛かりな作戦そのものが失敗に終わったということです。そうなればもはやお嬢様おひとりで戦われても焼け石に水です。それに――」

 

 志乃はそういって私の方をちらりと見る。


「…そのような事態の場合、マレビト様がここに残られた方がむしろ厄介です。貴女をめぐって組織のものの対立は免れないでしょうし、そうなれば不測の事態が起きかねません。お嬢様方はお帰りいただくことが一番なのです」


 む…。そういわれると確かに反論は難しいね。

 どう考えても、私というイレギュラーは混乱した現場にいない方がいいだろう。


「いざとなれば、私共が身命を賭して混乱を最小限に食い止めます」

「…無茶をしてはだめよ、志乃」

「ふふ。ご安心ください。こう見えて、鉄火場には慣れているんですよ」


 志乃はそういって雰囲気に似合わずコロコロと笑うと、あっちの世界に行っちゃっている亮介に声をかけた。


「亮介さん。亮介さん!」

「む。なんだ、大きな声を出して。思索の邪魔をしないでほしいな」

「そんなことは落ち着いてからゆっくりなさってください。そんなことより、行きと同じように、お嬢様方をご自宅までお送りいただけますか?」

「ん?お嬢様方?送り返す?―――ああ、そうか、そういえばそんな話をしていたな」


 亮介はそれでようやく夢から覚めたようにあたりを見回すと


「…ふう。確かに頭を冷やした方がよさそうだ。どれ、では帰りもエスコートさせていただこうかな、お嬢様方?」


 そういって気取ってみせた。


 その言葉に私と冴子さんは目線を交わすと、互いに頷きあった。

 …ま、私たちとしてもあんまり長いこと遠藤家を開けたままにしておくのも怖いから、帰れるなら帰っておいた方がいい。

 これで本当に、一連の騒動に一区切り、かな。

 私たちはすすめられるまま車に乗り込むと、激動の現場を後にした。




* 




「さて、ここらへんでいいだろう。到着したよ、お二方」


 亮介の車は何事もなく、遠藤家からやや離れた人気の少ない路肩に停車した。

 それでも、さすがは天長節だ。なんだかんだ人の行き来はあるので、私たちは人が完全にいなくなるタイミングがくるまで車の中で待機する必要がある。

 それまでただ無言でいるのも何なので、私は亮介に話しかけた


「…ひとまず、お礼を言っときますよ。亮介さん。いろいろアドバイスはくれたし、そのおかげでいろいろと思いつくことができたので」


 気持ちぞんざいになりながらも私は感謝の言葉を伝えた。

 正直本番ではあんまり役に立たなかったし、好き勝手かき回しているだけなところもあってなんとなく素直に感謝したくないんだけど、さすがにお礼の一つもないのはアウトだろうからね。

 それに対して、亮介はふんと鼻を鳴らすと


「まるで、別れのあいさつのような口ぶりだね。君は今回の騒動が終わったと考えているのかな?随分とまた楽観的なことだ」

「…これは感覚ですけど、私は終わったと思ってますよ」


 志乃も冴子さんもまだ予断を許さないと考えているようだったが、正直、これだけやって亡者がこのリアルの1928年側に出てくるとは思えない。

 なんていったらいいかな。

 現実離れしたダンジョンをずっと維持し続けていたからなのか、妙な感覚というか、手ごたえのようなものが感じられるようになった。その感覚で言うと、もはや亡者たちとこの世界じゃフィールドが明確に別々になったって感じなんだよね。

 あいつらは完全に異世界側、リアルの世界の裏側の存在として定義された。

 そんな感覚。 

 そういう意味では、亮介のとんちき理論でいうところの、私のダンジョン世界に引き寄せられたという説明は言いえて妙なのかも。


 ま、そんなこと説明してもわかんないだろうし、しないけどね。


 そうやって詳しく答えようとしない私を見て、亮介は何をおもったのかふざけた表情を消してぼそっと言った。


「僕はむしろ、始まりだと思っているよ」


 亮介は、また夢を見るかのようにおぼろげな目つきでフロントガラスの向こう側を見ている。 


「始まり?どういう意味ですか?」

「さて、どういう意味だろうね?――ところで、今日の動画、最終的には視聴者はどれくらいになったんだい?」

「随分話題が変わりましたね。うーんと、お、すごい!最後らへんは百万人超えてますよ!」

「なるほどなるほど。――つまりそれほどの数の人間が生み出す情報が、あの世界に集まった」

「ん?まあそうですね。だから、あんなひどい事態になったわけですが」

「それだけで終わるかなということさ」


 亮介はそこまで言うと、バッとドアを開けて一人車を降りた。


「悪いが僕はここでしばらくぶらつかせてもらうよ。やはり今日のうちに思索をまとめてしまいたいのでね。君たちはこの後は好きにしたまえ」


 亮介はそのまま振り返りもせず、にぎやかな天長節の夜に溶け込んでいった。

 …車放置してるんだけど、大丈夫なの?これ。切符切られたりしないのかな。まあ、知らんけど。


「……じゃあ、まあ私たちも様子を見てここを出ていこうか」


 そういって冴子さんの方を振り向くと、冴子さんもどこかぼうっとした表情になっていた。

 

「冴子さん?大丈夫?」

「あ。ああ、ごめんなさい。なんだか気が抜けてしまって。…今更ながらすごい経験をしてしまったわ」

「…まあ、それも当然だよね。なんせ、冴子さん、あんな凄い戦いをしてくれたんだもん。…体の調子は大丈夫?どこかおかしなところはない?」

「ええ、それは本当に何ともないわ。むしろそれが不思議なくらい。…あれほどとんでもない力をふるったのだし、体が壊れていてもおかしくないというのに…」


 …そう。

 それだけは、正直私も不安なところではある。

 今回の件は、ある意味神隠しの時と同じだ。視聴者の期待が冴子さんに集まって、冴子さんに物理法則を無視した行動を起こさせたわけだからね。

 それが、冴子さんの体や生活に悪影響を与えることもあり得るわけで。


 でも、なんとなく、今の冴子さんには、あの時感じたような妙なオーラのようなものは感じないんだよね。ダンジョンの中では結構びんびんに感じてたんだけど。

 

「…いったん、今日はゆっくり体を休ませようね。で、明日はあんまり無茶しないで過ごしてさ。夜になったらおかしなところがないか、ひとつづつ確認していこう?」


 今のすこしぼうっとしている冴子さんを不安がらせてもいけないので、いったんそう声をかける。

 その言葉に冴子さんは素直にコクリと頷く。


「ええ。そうね。そうするわ。――ありがとう。陽菜さん。貴女がそう言ってくれるとなんだか安心するわ」


 そういって微笑む冴子さん。なんか、気の抜けた冴子さんもかわいいな。

 冴子さんはそのままぼんやりとした表情で続ける。

 

「……わたくしたち、やり遂げたのよね」

「うん。やり遂げたよ」

「帝都の危機を、救えたのよね…?」

「うん。救えたよ、絶対」


 冴子さんはその言葉にだんだん血が巡ってきたという感じで法を赤く染めていく。


「わたくしが――ただ先生方やお父様お母様の言う通りにするだけだったわたくしが……!」


 冴子さんはそういって手を握り締めた。そして私の方を振り向くとガバッと抱き着いた。


「…ありがとう。陽菜さん。わたくし、こんな誇らしい気持ち、初めてだわ…!貴女のおかげよ…!」


 その熱が、じんわりと私の胸にも伝わってくる。

 私は思わず冴子さんを強く抱き返した。




 私も初めてだよ。冴子さん。

 そんな風に言ってもらえることも。一緒にあったかい気持ちでだれかと抱き合えることも。



 本当に。貴女に出会えてよかった。冴子さん。


 

 私たちはそのまましばらく互いを抱きしめあっていた。


 冴子さん、マジであったかくてやわらかくて、いいにおいするんだよね。なんかずっとこうしてたい。

 ……ん?でも私の方はどうなんだろ。

 結構汗だくになっちゃったし、へたばって地面に座っているわけだから泥まみれになっているわけだし。


 そこまで考えて、私は我に返った。

 う、うわ。なんか急に恥ずかしくなってきた…!

 私はそっと冴子さんから離れる。


「?どうしたの、陽菜さん?」


 冴子さんは不思議そうにそう聞いてくる。なんか、このぼんやりモードの冴子さん本気可愛すぎるな。

 ただ、さっきの話じゃないけれど、冴子さんもよく見たら結構傷だらけだし、泥とかついているし、このまま帰るのもまずそうなんだよね。


 ……そうだ。いいこと考えた。


「……ねえ、冴子さん?」

「なあに、陽菜さん」

「このあとちょっと寄り道しない?」

「?どういう意味?ほかに行くところなんてあるの?」

「うん。―――ちょっとお風呂入っていかない?」


 よく見れば、この場所、この前冴子さんと深夜デートした場所のすぐ近くなんだよね。

 ちょっと歩けば、目的の場所、2028年側に存在するスパにたどり着くというわけだ。


 ちょっと再びダンジョン生成をしなきゃいけないのはそれなりにつらいものがあるが、気にしない。

 なんせ今日は、お祭りなんだ。

 せっかくなんだし、最後まで大盤振る舞い、無礼講と行こうじゃないか。


 私の言いたいことを察した冴子さんは、そのまま目を丸くして―――そのまま楽しそうに笑い出した。


「ふふふふふ。あんな戦いの後に、未来のお風呂に入ろうなんて――さすがすぎるわ、陽菜さん!」


 私もつられて笑いだす。


 天長節の夜、世間の喧騒に負けないくらいの大笑いをしあう私と冴子さん。

 この時代の常識ならば、きっとはしたないと言われるんだろう。


 

 でも気にしなくていいよね。

 だって帝都を救った夜なんだもん。


お読みいただきありがとうございました。

ということで、亡者騒動もひと段落。もう一話アナザーストーリーをはさみますが、本編二章はいったんこれで幕引きです。

女中として右も左もわからず、配信も中断を余儀なくされる中ですが、陽菜と冴子たちは泥臭くも自分の生き方を模索していきます。

さて、最後に今度は志乃目線でこの度の出来事、振り返っていきましょう。


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