44話 直前ミッション!広大ダンジョン生成
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冴子さんの小太刀を取り戻した次の日。
この日は土曜日なので、冴子さんのお稽古行脚がある。そうなれば、私は護衛としてついていかなければならず、神田明神で修行と称してお使いに行くわけにもいかない。
まあ、もうあれこれ作戦を立てる必要はもうないから、いいっちゃいいんだけどね。
何もしないのも何なので、冴子さんと見学の美代子ちゃんを見送った後は控えの間でダンジョン生成の練習に努めた。
試してみたのはお稽古の家を、敷地ごとそのままダンジョンとして出すこと。
本番はもっともっと大きな空間でこれをやるんだ。家一軒分くらい軽くできなきゃ話にならないもんね。
はじめは、ほとんど見ず知らずの家ということもあって少し手間取ったけど、トイレに行くついでに軽く家の外の様子とか塀の作りとかを確認してから試したら、できるようになった。
やっぱり境界線のイメージを正確に持つことが結構大事みたいだね。
時間が余ったので、このダンジョン生成でどんなことができるか色々試すこともできた。
うん。結構有意義な時間になったかも。
さらにその日の夜、最後の対策会議は現地に赴いて前日リハーサルを行った。
「組織の力を使って、事前に結界の準備はできています」
「ほほう。君たちの研究会はやはりそれなりの影響力があるのかな?」
「その通りだと言いたいところですが、なにに今上陛下の初の天長節ですからね。万が一にも震災の亡霊が出たりしないよう伝えたら、割とすんなり実現できました」
そう言った後、志乃は私の方を向き直り真剣な顔をした。
「それだけこの場所は人々の注意が集まる場所ということでもあります。なので軽挙妄動はくれぐれもお慎みください」
「いや、そんなことしませんから。失礼な」
「…昨日のように、敷地の周りをひたすら走り回るようなことも決してなさいませんように。流石に他所であのような真似をされては庇いきれません」
うぐ…。いや、私だってしたくてやったんじゃないんだよ?感覚を掴むために必要だったのと、時間がなくってやむなくのことだからね?
「大丈夫です。要領は掴めましたから」
私はそう言って志乃が用意したと思われる竹でできた鳥居に近づくと
「生成」
ゆっくりとこの時代に沿ってダンジョンを作っていく。
まずは空間については考えずに足元の地面だけをダンジョン化。これだと無理なく広い単位でダンジョンを生み出すことができる。
結界のある場所を少しオーバーするくらいにダンジョンを広げてから端の方を持ち上げていく。
イメージは広げた風呂敷を畳む感じね。
その際に、志乃の用意した鳥居や盛り塩にダンジョンの端っこを「くくり付けて」いく。
ここで利用するイメージはしめ縄。風呂敷化したダンジョンを外から押さえつける感じで結びつける。
これを、実際に結界の端っこをゆっくり歩いてまわりながら進めていく。ただし放っておくと最初に結びつけたあたりからダンジョンが綻んでしまうので、あんまり時間をかけないよう注意して。
「何も変わらないようだがうまくいっているのかな?」
「叔父様、今は陽菜さんに話しかけないでください。見たところ、とても集中しているわ。邪魔してはいけません」
亮介のチャチャを冴子さんがそう言って止めてくれる。ありがとね、冴子さん!さすが私の戦友!
なんて、余計なことを考えていると、イメージが霧散しそうになる。
いかんいかん。集中だ集中。
丁寧に、かつ、スムーズに。
流石に被服廠跡全体をカバーするのは無理そうだから、神田明神と同じくらいの広さの結界を、ゆっくり15分くらいかけて一回り。
「…みんな、私のすぐ近くに寄って!ダンジョンを閉じるよ!」
冴子さんたちが私のすぐ後ろに駆け寄ってきたのを確かめたら、最後の仕上げだ。結界に引っ掛けていたダンジョンを、上空の一点に集まるように引き絞っていく。
「ぬおおおお!いけ!」
何も見えなくとも、感覚でダンジョンがゆっくりと閉じていくのがわかる。
あとちょい!
「おりゃああああ!」
上空の一点でダンジョンの穴が閉じーーー瞬間、世界が一変するのを実感した。
「音が消えたわ…!」
「他の人たちの気配も完全になくなりました…!成功です!」
私の感覚を、冴子さんの志乃が裏付けてくれる。
この二人のお墨付きなら、大丈夫って考えて良さそうだね。
これで、作戦の大前提となるダンジョン生成も、問題なくできることが確かめられた。
広さにしてサッカーコート2面分くらい。
納骨堂や建設中の慰霊堂の周りに湧いて出る亡者を隔離するには十分だ。
「では、最後はわたくしね」
そう言って冴子さんが前に出る。
取り出すのは昨日取り戻した冴子さんの小太刀だ。
まずはそれを片手に持ったまま、一歩一歩足元を確かめるようにして歩く。何でも、ちょっとした窪みやぬかるみも、いざという時には命取りになるらしい。そのため、ただ見るだけでなく実際に歩き回ることで感覚を確かめているのだ。
「どう?冴子さん。いけそう?」
「ええ。立ち回りに関しては問題ないわ。ただ、これだけ広いと、取り囲まれる危険はあるわね。うまく相手を分断するために木立や建築中の資材も利用していく必要があるわね」
冴子さんは今度は積み上げられている木材の状態を確かめたり、林の中に入り込んだり、色々と場所を変えては同じように確認を進める。
そして、ある程度確認が済んだところで、ついに小太刀を抜き放ち、それを流れるように振るっていく。
狭い木立の間だろうと、不安定な資材の上だろうと、その流れが淀むことはない。
振るうたびに尾を引く刃の軌跡は、まるで空に流れる透き通った清流のようだ。
ほんと綺麗。
「ほう、これは想像以上だな。我が姪っ子はいっそ男に産まれればよかっただろうに」
それに水を差すようなことを言う亮介を私は睨みつけた。
「馬鹿なこと言わないでください。冴子さんは冴子さんのままが一番なんです」
「しかし、これほどの腕前でも、女の身では意味がないだろう?こうして陰に隠れて力を振るうだけだ」
「相変わらず、目線が高いようで何も見えてないですね」
私はムッとする亮介を無視して冴子さんに視線を戻した。この美しい光景が陰に隠れるだって?冗談じゃない。
「むしろ、全世界に大公開です。冴子さんが冴子さんのまま刀を振るい、この帝都を救う姿、私は絶対に埋もれさせはしませんよ」
「……これは亡者を虚構にするための配信だというのはわかっているんだろうね」
「わかってますよ。その上で、です。例え作り物と思われても、冴子さんのその姿は多くの人の心を動かし、励ます。それは嘘じゃないんですから」
それでいいんだと私は思う。
だってそれが配信ってものだもの。
映っているものが嘘か本当かなんて、本当はどうでもいいんだ。
ただその存在が誰かを豊かにできるなら、それは絶対に意味があるんだ。
「それに、冴子さんはまだ16ですよ?まだまだ何があるかわからないんです。もしかしたら、冴子さんの小太刀がこの世界の皆にとってもとんでもない価値になる日も来るかもしれないし、私はそのために一緒に戦います。――だからいいんです」
静かに刀を振るう冴子さんに、私は心の中で応援する。
っちゃえ、冴子さん。
冴子さんの腕を、冴子さんの力を。
この世界に見せつけちゃえ。
=+=+=+
ところで。
この被服廠跡の闇夜には、彼らの他にもう一人、登場人物がいた。
爛々と目を輝かせるその人物は、陽菜たちが姿をかき消したのを見て、頬がそのまま裂けそうなまでに、口角を釣り上げて笑った。
「素晴らしい…!!これがマレビトの力か…!!何としても、何としても手に入れなくては……。我らの、いや我が国のためにも…!!」
お読みいただきありがとうございました。
リアルの方が少し忙しいこともあり今回は少し短い内容でのおとどけです。
これにて準備は完了。次回はいよいよ作戦当日です。この時代の天皇誕生日の空気感をどうぞお楽しみに。
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