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34話 身バレ対策本部設置 1928年×2028年 〜未来の城を建て替えろ〜

毎週火金の19時に定時更新中!

部屋バレからの身バレをいかに防ぐのか。本作では通常ではありえないトンデモなプランをご紹介します。

 気を取り直した私がまずしたこと、それは――スマホを拾うことだった。


「す、すみません!店長!まだつながってます?!」


 うっかりスマホを取り落としたっきり、すっかり放置しちゃってたもんね。せっかく向こうからかけてくれたのに、ごめん…。

 もう切れているかとも思ったが、意外なことに通話はまだつながったままだった。その代わり、店長はすっかり激おこモードだったけどね…。


「君ってやつは!!そりゃ、君もいっぱいいっぱいなのはわかるが、放り出しっぱなしにする奴があるか!こっちはようやく君に連絡がついたっていうのに、そのまま切れてしまうんじゃないか、ひやひやしっぱなしだったんだぞ!」

「すみませんすみません!…というか、良く切らないで待ってくれましたね?」

「き、君の身バレの問題は、僕の問題でもあるんだ!君の正体や過去が分かれば絶対にうちにも被害が及ぶからな。なにせ、家出中の君を雇ったんだ。うちの先生と相談の上対応したし法的には問題なくとも、周りからとやかく言われかねない立場なんだよ」


 店長は気持ち早口でそう言い訳した。

 ったく。ま、結局いい人なんだよね、この人。


「…ありがとうございます。店長――お願いします。この問題の解決のためにも、私に協力してください」


 私がそういうと、店長は一瞬黙り込んだ。


「…珍しいな。君がそんなにストレートに僕に頼ってくるなんて。なんだかんだ、僕を遠ざけて自分だけで何とかしようとすると思っていたぞ?」

「何とかしたくても、ここからじゃどうしようもありませんから」

「…その言い方だと、やっぱり君はこの日本にはいないみたいだな。……その、本当なのかい…?君が、100年前の東京にタイムスリップしてしまったというのは…」

「――はい。少なくとも、現代日本にいないことだけは、間違いありません」


 その言葉に、店長はまたしばらく黙り込むと、大きくため息をついた。


「…信じられないな……。現実にそんなことがあるなんて。漫画やラノベじゃないんだぞ…」

「…私自身、今でも信じられませんよ」


 朝起きるたびに、すべてが夢だったことを願っている自分がいる。

 まあ、その場合、冴子さんとの関係まで夢になっちゃうから、それだけは勘弁なんだけどね。


「だとしてもだ。君は始めは誰にも頼らないでやっていくつもりだったんだろう?君はそういうところがあるからな。そんな君が、通話一本ですぐ僕に頼ってくるとは、正直驚いたよ」

「そこはまあ、私にもそれを気づかせてくれる、大事な友達ができたってことですよ―――あ、そうだ」


 そこで私は思いつく。

 どうせなら、この通話に冴子さんもはいってもらおうかな。冴子さんは今も不安そうに後ろから通話している私を見守ってくれているし、こうやってやきもきしているより直接聞いてもらった方がいいかもしれない。


「ねえ、冴子さん。もしよかったら、この電話に冴子さんも参加してくれない?」

「え?あなたの電話に、わたくしが参加?どういうこと?電話というものは一対一でするものでしょう?」

「それが未来の世界ではそうでもなくってね。…私としては、冴子さんも一緒に聞いてくれると、その、心強いんだけど……ダメかな?」

「え、ええ。わたくしも気になってしまうし、もし出来るのならそうさせてもらいたいわ。…その、未来の方とお話しするというのはなんだか緊張してしまうけれど」

「あははは!全然緊張しなくていいって!相手は普通のおっさんだから」


 私はそう言って、スマホのスピーカーモードをオンにする。


「店長。せっかくだし紹介します。私の大切な友達の、冴子さんです」

「え、えええ!ま、まさか、あの、お、おおお嬢様!」


 途端、店長が今まで聞いたことがないような声を出した。さては、店長、隠れ冴子さんファンだったんだな。


「きゃっ!な、なに?急に男の方の声がしたのだけれど!」


 それに驚いたのか、冴子さんもびくつく。

 ごめんだけど、この状況、ちょっと面白い。


「店長ー。初対面でその反応は社会人としてどうなんですかあ。冴子さん、怖がっちゃったじゃないですかー」

「す、す、すまない!いや、すみません!そのまさかご本人とお話しできると思わず緊張してしまって…!」

「冴子さんも、店長は今はこんなだけど、一応もう少しはましな人だから大丈夫だよ」

「そ、そうなの…?というか、これはその板から声が聞こえてきている、ということなのかしら…?」

「そうそう。電話の音がすぐ近くの人にも聞こえるような技術だよ。これで多人数でもその場に集まったみたいに話せるんだ」

「本当に何でもできるのね…。相変わらず、その機械、とんでもないわ…」

「何なら、顔を見ながら会話だってできるよ。まあ、それだとバッテリー食いそうだから、今日は音声のみでね」

「…もう深く考えるのはやめるわ。とにかく、今は貴女の話に集中しましょう」


 冴子さんはそう言って切り替えてくれた。

 冴子さん、適用力半端ないよね。ほんと、頼もしい限りだ。


「ありがとう。冴子さん。そして、店長。――ということで、私の身バレを防ぐためにどうしたらいいのか、相談させてください」







「と、とにかく、まずは状況の整理をするぞ」


 店長はわざとらしく咳払いをすると、2028年の現状について語り始めた。


「君のチャンネルはあまりにもセンセーショナルだ。今更チェンネルの動画を削除しようが情報の根絶は不可能だ。君が正式に取材に応じたり何らかの発表をすることで多少は正体探しの熱を沈静化することも可能だろうが、一度燃え上がった炎を消すまでにはいかないだろう」


 その言葉に私は思わず顔をゆがめた。

 わかっていたけど、なかなか厳しい状況だよね…。競馬場の動画を投稿して既に10日以上、閲覧数も馬鹿みたいな数字になっている今、動画の削除に意味はない。


「後は、今漏れている情報から、私のことが辿れないようにすること、ですね…」

「そうなるな」


 店長は同意するとそのまま続ける。


「現状、君につながる情報は、君の音声情報と君のアパートの動画だ。

 このうち、音声情報の脅威度はそれほど高くはない。いくら君の声を再現できたとしても、比較できる君自身の音声情報がない限り本人の特定をすることはできないらしいからな。勿論、君の声に似ているという投稿は出てくるだろうが、似たようなでまかせも同じくらいに多い。既に君を自称する奴なんてネット上にいくらでもいる中、それだけで特定しようとしても決定打にはならない。

 …一方、アパートの情報はそうはいかない」

「実際に建物がありますから、照合しようと思えばできてしまうってことですよね?」

「ああ。今はAIで室内画像から物件候補を出すサービスもあるからな。それだけで、かなりのところまで絞り込まれてしまう。さらに、不法侵入して窓から覗き込むとかされたら、もう決定的だ」


 はあ…。その言葉に思わずため息が出る。

 ほんと、なんでそんなヤバい奴らのせいで追い込まれなくちゃいけないんだ?人の家、そんな気安く覗いてくんな!


「こんなの、どうしろって言うんです?」

「いったん、アパートを引き払うのがいいだろうな。先生にも相談してみたんだが、最後の手段ではあるが検討しといたほうがいいだろうとのことだ」

「はあ!?私の城を手放せと?冗談じゃない!」


 私は思わず店長に怒鳴り散らしてしまった。私にとって、大切な大切なあの部屋を簡単に手放すなんて言われるとそれだけで脳が沸騰して史亜夢。

 そこに、冴子さんが急に驚いたような声を上げた。


「え?!陽菜さん、貴女、お城に住んでいたの?!」

「え?」


 一瞬、空気が止まった。何故か納得したかのような顔して私の方を見てくる冴子さん。


「未来の世界ではもしかしてご皇族とお関わりが…」

「いやいやいや!違うから、例えだからね。例え」

「そ、そうなの…?」


 冴子さんがなぜか否定の言葉の方を信じがたそうに見てくる。

 うん。なんか、変にヒートアップした頭がすっきりしちゃった。

 店長が、再び咳払いをして続ける。


「し、しかしだな。今のままじゃ、遅かれ早かれ見つかってしまうぞ?」


 その言葉をうけて、今度は感情的にならず考えてみる。


「いや。やっぱだめですよ。逃げたところで前の住人ってことで調べられたらどうしようもないじゃないですか。私の場合、名前が広がるだけでアウトなんですから」


 普通の身バレからのストーカー被害とかなら、確かに有効なんだろうけど、私の場合2028年の人間には手が出せない場所にいるから初めから身体の安全は問題にならない。それよりも、私がヨルだと拡散され、あのクソ親父に現状を知られるのが百億倍ヤバいんだ。


「むむ、それはそうか…。ならばせめて警備を厳重にするよう大家に頼む、とかか?」

「そんな感じですよね…。後はせめて窓だとか部屋の中をブルーシートで覆うとか…」


 なんだろう、このやらないよりはマシだけど、って感じのラインナップ…。全然なんとかなる気がしない。

 あああああ…。戦うとか意気込んだのに、私、こんなことしかできないの?


「ねえ、いいかしら」


 私たちが煮詰まっていたところで、冴子さんが軽く手を上げた。


「話はあまりよくわかっていないのだけれど、要するにあなたの動画に映っている建物と実際の建物が一目見て同じとわからなければ良いのよね?」

「え?うん、まあそうだけど」

「ならば、建物を建て替えてはダメなのかしら」


 冴子さんはあっけらかんとそう言った。

 再び、場に訪れる沈黙。数秒後、私は叫んだ。


「た、たてかえー!?」


 まさにそう来たか、という感じだ。


「ええ。貴女はご皇族なのだしそれも可能でしょう?」


 まだ私の部屋のことお城だと思ってる!違うからね、私そんなやんごとない立場じゃないから!


「い、いや、君、流石にそんなこと簡単にはできんよ。いくらかかると思うんだ」


 店長はそう呆れた声でそう言うけど。


 しかし。

 しかしだ。


 意外と、これ、妙案じゃない?


「店長店長」

「ん。なんだい。君からも、その、お嬢様にちゃんと伝えるんだ。君はただの一般人の貧乏人――」

「できるかもです」

「な、なにいいいい!!!」


 うん。

 正直実感がないから今まで思いつかなかったけどIPOチャンネルのおかげで私の懐はかつてない規模でぽっかぽかだ。少なくとも、冴子さんのような超お金持ち的発想が現実味を帯びるくらいはね。

 貧乏人じゃないのだよ、店長よ。


「い、いや、できるって、いくらかかると思ってるんだ?」

「いくらなんですか?」

「え、それは…」

「あと、現実問題、借主の私がアパートの一室を建て替えるみたいなこと、できたりするんですか?」

「ちょ、ちょっと待て、聞いてみるから」


 私がマジな声を出しているのを受けて、店長も私が本気だと理解したのだろう。

 店長は通話を繋げたまま、しばらく黙り込む。別途NINEで店長の知り合いでよくお世話になっている弁護士先生と連絡をとっているっぽいね。


「またせた。えっとな、一応借主でも契約を別途結べば改修のような工事もできるみたいだ。ただ建物全体となると結構家主との交渉が難しい。部屋の改修程度にとどめるのが無難だろうという話だ」


 ふーん。なるほど?

 よくわかんないけど、とりあえずできそうということで理解。


「でもなあ…、アパートの規模にもよるが、少なく見積もっても数百万からのお金が必要になるみたいだぞ?本当に払えるのか?」

「す、数百万…?!」


 冴子さんがなんだか衝撃を受けている。冴子さん、お金持ちなのに、なんか驚くところあったのかな?

 ま、いいか。


「はい。いけます」


 3月のチャンネル収益は確かそろそろ支払われるはずだ。

 3月の終わりのわずかな期間だけだったが、海外勢にもバズったおかげで、広告単価が跳ね上がっていた。あとスパチャやメンバーシップでも結構お金が入ったから、最終的に百万単位のお金になってたんだよね。ちなみに、来月の振り込みはすでに千万単位で入ってくる予定だ。


「はあああああ?!YouTuberってそんな稼げるのかぁ?!!」

「ま、まあ、私の場合、他にない動画ってことでかなーり特殊ですから」

「だからってなあ!動画だけで?動画だけでえええ?」

「…店長キレてます?」

「キレてない!世の中の不条理に声量が抑えられないだけだ!」


 …それをキレていると言うのでは。まあ、余計なことは言うまい。協力してもらえないと困るし。


「店長。先生と相談して、本気で契約進めてもらえませんか。本気で、これ、最善手な気がします」


 この、私の城改修案は、実は結構利点が多い。

 大家さんは現金な人なので、部屋の改修の代金がそのまま口止め料にもなる。

 また、施工の準備ということなら、自然な形でブルーシートとかで部屋を隠せる。

 それに、普通身バレになったからって、部屋の改修をするなんてことはしないんじゃない?そういう意味で、特定班のミスリードも狙えそうな気がする。

 そもそも私のアパート、おんぼろ木造家屋だしね。いつ改修したって不自然じゃないでしょ。


「……うん。確かに、資金面で問題がないのなら、先生もそれがいいかもしれないと言ってきたな。施工業者は秘密を洩らさないよう信用における業者を選ぶ必要があるが、もし費用的にいけるなら手続きもそれほど時間がかからずに進められるそうだ」

「良かった!ならぜひ進めてください!多分契約とかは私出来ないんで、私の代理人として動いてもらえるとありがたいんですけど…」

「それはいいが…。今先生に改めて試算してもらっているが、相当な金額になりそうだぞ?いくら、君が稼いでいるとはいえ、…本当にいいのか?せっかく溜めた大金を、ただ身バレを防ぐために使うなんて」

「…ま、悔しいのは悔しいですけどね。でも、どうせ私こっちから当分戻れない状態なんで、いくら2028年で稼いでもあんま意味ないんですよ。だから、丁度いいです」

「…ふん。豪気なもんだ。金持ちはいいな。ならせいぜい手伝わせてもらうよ」

「…手間賃要ります?」

「大人を馬鹿にするな!子供に恵んでもらうつもりはないぞ、僕は!あ、先生の方は別だからな。アイツのほう仕事なんだから、そっちはちゃんと用意しなさい」


 私の冗談に、店長はすこし説教モードになってそうクドクド返してきた。


「じゃあ、具体的に準備ができたらまた連絡する。君のほうでも出来れば大家のほうに一報入れておいてくれ」

「わかりました。……ありがとうございます。店長。本当に助かりました」

「だから、僕の問題だと言ってるだろうが。いいから君は君の仕事をするように。あと、今回の件が終わったら、チャンネルのほうで騒ぎを少しは鎮火させるよう動くんだぞ」


 あー。そうだった。

 身バレが何とかなりそうで少し気が緩んでいたが、放っておいたらまた何が噴出するかわかんないもんね。確かになんか動きをとる必要はあるか。

 でも、何をすればいいんかね?


「…そっちも、もしよかったら相談させてもらっていいですか?正直、私だけじゃこれだけの規模のチャンネルの対応で、何をしたらいいかわかんなくて…」

「ほう?君にしては珍しく、早めに相談か。少しは成長したな」


 店長は少し嬉しそうな声で、そう答えると


「まあいい。くどいようだが君の身バレは僕の問題でもあるからな。先生交えて少し相談する時間をとろう」

「あの、時間的には基本夜遅い時間じゃないとほとんど話もできないんですけど…大丈夫ですか?」

「あー。厄介なことを…。まあ、先生の方はいつも夜遅いし、まあいいんじゃないか?詳しい時間はNINEで連絡しよう。今度は早く返事するんだぞ。いいな」


 店長はそう言って通話を切った。


「ふうううう。よかったぁぁぁ…!これで何とかなりそうだよ…!」


 私はそう言ってへたり込む。

 マジで体に力が入んないよ。いやー、今度こそ駄目だと思った。


「最後までよくわからなかったけれど、解決出来たようね。よかったわ。…わたくしはあまり力になれなかったけれど」

「そんなことないからね!!むしろ冴子さんのおかげだから!!」


 私はそう言って冴子さんに抱き着いた。


「きゃっ!ひ、陽菜さん?急にどうしたのよ」

「私の感謝の気持ちを体で表しました!冴子さん天使!神様!ほんとありがと!」


 冴子さんの言葉がなかったら、本気で私はなすすべもなく2028年に何もかもを奪われていたところだった。実際、感謝なんてもんじゃないよね。もうすでに信仰!冴子さん教!


「ふふ。そう言ってもらえると嬉しいし、光栄だわ」

「ん?光栄?」

「ええ。なにせご皇族の貴女にそう言ってもらえるなんて」

「……」

 

 そして帰ってきた沈黙。

 早かったね。


「まだ誤解してるー!!!!」


 その後、私は必死に説明をしたわけだったが、冴子さんはなぜかなかなか伝わらなかった。

 なんでなのさ……。

お読みいただきありがとうございました。

はい、というわけで、Youtuberとして明らかにぶっ壊れ金額を稼いでいることと、他にお金の使い道が皆無という特殊事情があるからこそのハチャメチャプランでした。そりゃ無理だ、と思われるかもしれませんが、それはそれ。ばっかでー、と思いながら笑って許してください。

そして、急遽浮上する陽菜皇族説。勿論そんなことはないのですが、冴子目線からしたら意外とそう思えるようなものはいろいろあったりなかったり。

ということで、次回は久々の冴子視点です。この誤解をもとに、冴子、突っ走ります。

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