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30話 帝都の生活改善レポート、未来の学校では何点ですか?

毎週火金の19時に定時更新中!

未来知識チートを使って生活が落ち着いたところで、やるべきことが残っています。


 1928年4月20日金曜日。


 遠藤家の女中 (あるいはメイド)になってから早くも1週間以上が経過した。

 いやー、目が回る日々だったね。

 私がバイト慣れしてなかったら、あっという間に音を上げてたよ。

 でも、これでも私は歴戦のバイト戦士。 いい加減、こっちの仕事もばっちりこなせるように――


「こら!おヒナ!雨戸をガタガタいわせない!」

「はいぃぃ!」


 …はい。見栄はりました。慣れてきたってだけで、ばっちりとかないです。



 一応!言い訳しとくと!これ、私がどんくさいわけじゃないからね!

 普通の女子高生がいきなりこの時代の人並みに働くってぜっっったい無理だから!


 この時代の人、本当にタフすぎ。

 例えば、水汲みにしても、一見弱そうなおタミとかが、私がヒーヒー息切らしている隣を平気な顔してほいほい動き回る。多分、力比べしたら私の方が上なんだろうけど、持久力が半端じゃない。

 考えてみたら、現代人って便利なものになれているからこの時代の人ほど動き回らないんだよね。私も人よりは体力ある自信あったんだけど、全然かなわないや。

 


 あ。いま、私のこと、へっぽこ女中って思ったでしょ?

 はいー!ちがいますー!

 私はね、肉体派ではなく頭脳派なんですー!

 …ま、それは嘘だけど、とにかく体力だとか慣れでカバーできない部分はきちんと別の物でカバーはしている。

 それはもちろん、未来知識だ。


 例えば、ここに来て早々に私が提案した洗濯方法、なんと遠藤家の公式ルーティンに採用されました!

 実は、あの洗濯をした次の日、冴子さんのお父さん、勝右衛門さんから直々にお褒めの言葉があったみたい。今日は一段と前掛けが白く輝いて見えるとかなんとか。

 そう言われちゃ、女中頭のお松さんも無視はできなかったみたいだね。正式に、木灰汁を使ったつけ洗いとお酢を柔軟剤代わりにしたすすぎ洗いを今後は回していくことになった。


 だから、これを皮切りに、お松さん巻き込んで色々提案をしてみました。


 まず、洗濯物洗いに時々でいいからお湯を使うこと。

 どうもこれ、この時代だとこれは贅沢な甘えって思われてるみたいだね。洗濯物は冷たい水で手を赤くして洗うのが基本!これぞ修業!みたいな感じで。でも、汚れものを落とすなら、出来るのならぬるま湯の方がいい。

 勿論、お湯を作るには燃料がいるから何時だって温水ってことは無理だけど、遠藤家は料理とかの時に大量のお湯を作っていくことが多いからね。灰汁作る時もどうせ熱湯は必要だし、それをちょっとずつ工面することなら可能そうってことになり、大事な遠藤家の着物に限って許可が下りました。


 あとね、石鹸の強烈なにおいを抑える方法も導入しました。

 これはぱっとイメージ付かないかもだけど、この時代の石鹸、ほんとくっさいんだよね。獣の油塗りたくってます、って感じ。

 で、これどうにかできないか調べてみたら、みかんの皮の煮出し汁が有効ってのがあったので、やはりお松さんに訴え出ました。実験してみたらこれまた効果てきめん。


「なんて面妖な…!爽やかな香りになっただけでなく、白い布地が照り輝くようではないですか……!」


 そう大げさに驚いていたけど、やはり勝右衛門さんからのいいね!をもらってから即採用してもらっちゃった。


 こういう超地味だけど役立つところをコツコツ積み重ねて今に至る。

 おかげで、この家の中での私の扱いも、ただの厄介者って感じでは少しずつなくなってきている。


 一番、態度に変化があったのが、おタミとお春さんかな。


 おタミは、この家では今まで一番下っ端に近い立ち位置だったみたいで、新・下っ端の私とよく組まされることが多いんだけど、私発の色々な改善案の恩恵を受けることが多いからなのか、最近では私にビビることは完全になくなった。

 かといって、私の超絶未来知識に崇拝!って感じでもないんだけどね。ほら、私のへっぽこっぽいところ、一番目にされるのおタミだからさ…。

 だけど、信頼は得られているみたいで、何かあったらかばってくれる人、って感じのポジションになりつつある。


 あと、お春さん。こっちも、ちょっと一目を置く感じになったかな。

 私の案、大体お台所の物を借用するプランが多いから、何かあるたびに巻き込んでいるからね。あと、あのカツレツを作る際のアドバイス、あれを実際に試したらいたく褒められたらしい。なので、コイツは利用できるとに思ってくれたみたい。


「都合つけてやるから、あんたの知っている知識なんかよこしな」


 こんな感じで、何かある際に相談できるくらいの関係値になっている。



 …ま、全部が全部いい方向に行っているかというと、そうでもないんだけどね。

 かなりマイナスにふりきっているのが、おスズとの関係だ。

 私が冴子さんの送り迎えでメイド服を着るのを見て以降、おスズは私に基本話かけなくなった。私に何か言うのは、私が何かしでかした時に叱る時だけ。後は、ただにらみつけるだけになってしまった。

 これ、正直何とかしたいね。

 女中なんて、顔を突き合わせている時間が長いんだから、こんなのやっていると気がめいってきちゃう。

 ま、かといって、こっちから一方的に詰めていってもいいことはないだろうし、時間をかけてじっくりと、かな。


 お松さんとの関係も良好とは言い難い。

 私が何かやるたびに大袈裟に騒ぎ立てるのがお松さんだ。それでも最終的には採用してもらってるから認めてはくれてるんだろうが、その分警戒モードのレベルが上がってる気がする。


 そんなもんで、未だに夜は土蔵に監禁だ。

 むしろこれだけは、ずっとこのままでお願いします!

 さあ!今日も今日とて、ダンジョン生活続行だ! 







 おしゃれなオフィスビルのエントランスに、ヒュンと鋭い風切り音が鳴る。

 冴子さんの木薙刀の立てる音だ。

 空を切り裂くほどのその切っ先は、振り下ろした先でブレることなくぴたりと止まる。それだけで空気が冴えわたるような錯覚を覚えるから不思議だ。


「はぁぁ、かっこよ!」


 思わず感嘆の声が漏れる。しかし、冴子さんはそんな外野の私に集中力を奪われることなく、ただ一心に薙刀をふるっている。

 ちなみに、今の冴子さんは普段来ている矢絣の着物ではなく、道場って感じの白い道着と袴に着替えている。夜の暗いオフィスビルの中で、その純白の姿はあまりに幻想的だ。

 はー。こんな冴子さんを、今私は独り占めしちゃってるんだよなあ。なんだか勿体ないというか、こんな贅沢許されていいの?って気持ちになってくるね。

 はー、めっちゃこの姿配信したい。


 …ま、配信はもうやめようって決めたばかりだし、そもそも私はスマホをそんなことに使う余裕もないんだけどね。

 ということで、私はよそ見をやめて私は改めてスマホ画面に戻る。

 今私がやっていること。それは、いつもの未来知識の調査――ではない。

 じゃあ何でしょう?

 ヒントは私の身分。

 え?女中だろって?ブー!それは勿論正解だけど、今回に関しては間違いでーす。


 はい。正解は―――女子高生!


 忘れてた?私、一応通信制高校通ってんだよ?

 登校一切不要だから、1928年を生きる私でも通うことが可能なネット高校。一度退学するかも考えたけど、出来るところまでやってみようということで、未だ一応高校生をやっているのだ。

 ここまで言うと、私が冴子さんを撮影しないでスマホと格闘している理由も想像がつくんじゃない?そう、私は多くの高校生を苦しめる魔物と格闘中なのだ。


 そう!宿題だよ!!

 まあ、通信制だから正確にはレポートだけど。


 私は、現在3つ科目を積み残している。

 二年で高校を中退した時点である程度単位はとれていたんだけどね。流石にバイトしながら高校のカリキュラムこなすって難しくて、いくつかの科目を落としちゃってるんだよ。

 それが、日本史B、公民、そして総合科目だ。

 で、私は目下その最初のレポートと格闘中というわけだ。


「仕事でくったくったな私にこんなレポート出しやがって!鬼か!」


 そう独り言を言いながら、私はひたすら指を動かしていく。洗濯物とか水汲みとかしまくっているせいで、指を動かすのもせいいっぱいだ。

 ただ、一方でラッキーな部分もある。


「なんせ、私が今までしていた調べ物、そのままレポートに使えるんだもんね」


 日本史Bの今の範囲は、近現代史!

 私が死ぬ気でいろいろと調べた知識がそのままそっくりネタに使えるわけで、それを適当にまとめて書き散らしたレポートをでっち上げることはできる。

 そうじゃなきゃ、ぜったい間に合わなかったけど、一旦こっちはなんとかかたづいた。


「問題は公共なんだよ…」


 こっちも、とりあえずYoutuberとかバイトでいろいろ知ったことを書き散らしてごまかす気でいるけど、とにかく時間がない。

 動け!動いてくれ私の指!このレポート今日が締め切りなんだよ。

 スマホを見れば今は22時くらい。あと2時間で何が何でも間に合わせないと、テスト受験資格を失ってしまう。



「なんだか、大変そうね。声をかけても大丈夫?」


 私がせこせこスマホ操作をしていると、稽古が終わったらしい冴子さんが声をかけてきた。


「いいよー。私の場合、無駄話しながらの方が作業進むから」


 こう見えて実況系Youtuberなんだ。口は何も考えなくても動くようになっている。


「その板、やっぱり未来の道具なのね…。しきりに指で撫でているのはなに?もしかして、その子をくすぐっているの?」


 その言葉に思わず吹き出してしまった。

 何その発想!めっちゃ可愛いんだけど!


「これは画面の操作なんだよ。説明しにくいんだけど、右側に指を動かしたら右側に動くとか、そんな感じ」

「動く?何が動くの?」

「えー、画面の中の色々がと言いますか…」

「画面…。この前私の頭の中にでてきた、ああいう映像のことかしら」

「あ、そうそう!そんな感じ!ああいう映像がこの板にはいっぱい出てくるわけ!でその映像を操作するんだよ」

「なるほど…。未来の世界では、映像が今よりずっと大事なものになっているのね」


 冴子さんはそう言って不思議そうにうなずく。

 なんというか、冴子さん、状況把握力とか適応力とがすごくあるよね。

 冴子さんからしたらわけわからない状況の連続だと思うのに、それを受け入れやすいようにかみ砕いて受け入れてくれちゃう。だから私のほうでも遠慮なく未来の話とかができる。


「ちなみに、貴女が操作している映像って何なのかしら?とても真剣なようすなのだけれど」

「これ?ただの宿題」

「え!陽菜さん、学生だったの?!」

「驚くところそこ?年齢とか大体同じだよね?」 

「ええ、それはそうなのだけれど、なんだか貴女が普通に学校に通っている姿が想像できなくって…」

「いや、私未来ではほんと普通の女の子だからね?…まあ、学校には実際に通ってるんじゃなくてネットの学校なんだけどね?」

「ネットの学校…?」

「この板に映る映像で完結する学校ていう感じ?」

「が、学校まで映像…。未来ってそんなに映像が好きなの……?」

「割と大好きだね。なんなら一日中映像見ている感じ?…と言っても、学校までネットで済ますのは未来でも最先端ではあるけどね」

「そ、そうよね。やっぱり陽菜さん、未来でも特別なのよね」


 んー?冴子さん、なんかホッとしてない?

 というか、私のことどう思ってるんだろ。別に私、超ノーマルなのに。


 そんな話をしながらでも、レポートは一応書き進めている私。いま書いているのは労働者の権利とかそこら辺の話をまとめているところだ。

 …これ書いていると、つくづく今の私の労働条件って…ってなるよね。

 基本労働時間8時間?とかどこの夢の話ってかんじ。こちとら朝5時から夜9時まで肉体労働びっちりじゃわい!

 そのうえその仕事終わりにレポート作成ですぜ?もう、労働争議起こしたろかって感じになるね。

 ん?変なこと考えてたら、なんかポップアップ出てきたぞ?


「って、あー!バッテリー残量やば…!冴子さん、新しいバッテリーもらえる?」

「分かったわ。これよね?」


 冴子さんは道着などが入っている風呂敷から、バッテリーを手渡してくれる。


 バッテリーは、いったんこのオフィスビルを秘密基地にしてから早々に夜歩きチャレンジして、近所のコンビニを生成して入手してきたものだ。

 夜歩きの回数はできる限り減らした方が安全ということで比較的数多く持ってきたのだが、問題になったのがその隠し場所だ。私の土蔵は論外。土蔵なんて、日中色々な人が入ってくるし、お松さんがとにかく監視の目を光らせていて毎日変なものがないかのチェックを欠かさない。隠して置くとか不可能だ。


 だからいったんスマホと同じく冴子さんに隠し持ってもらっている。

 これ、早いことどうにかしなきゃなんだけど、なかなか妙案が浮かんでこない。

 ま、そのうち何とかなるでしょ。


 そう思っていた矢先だった。

 モバイルバッテリーが消えた。前触れもなく、突然。


「へ?」


 思わず目が点になる。なんで?私、消そうなんて思ってないんだけど?


「あれ?もしかして落っことした?」


 私が慌ててあたりを探していると


「どうかして?」


 冴子さんが声をかけてくる。


「いや、ゴメン。さっきもらったバッテリーどっかやっちゃって」

「あら。なら、別のものを持ってくるわ」


 冴子さんはそう言って風呂敷のところに戻っていき


「あら?な、ないわ。あなたから預かっていた機械、まだあと一つあったはずなのに…!」


 そう声を上げた。

 どうも私が落としたわけでもうっかり消したわけでもないらしい。


「コンビニから持ってきた充電器が丸ごと消えちゃった…?」


 冴子さんの手持ちもなくなったということは、そう考えるしかない。

 しかし、その理由がわからない。


 ダンジョン由来の者が消えるシーンは私が把握している場合、3つだ。

 まずは消そうと思った時。これはダンジョンが私のイメージでできているから当然。

 あと、ダンジョンから30メートル以上離れた時。ただし、これはダンジョンそのものの消滅条件であり、ダンジョンから持ち出したものはずっと残ったままだったはずだ。

 あと、ダンジョン由来の者の場合、それをダンジョン内に残したままダンジョンを消すと、一緒になって消えることもわかっている。


 でもこれだけだ。

 それ以外に、今までダンジョンから持ち出したものが消えたことはないはずだ。


「急に消えるとか、気持ち悪…!そんなのあっていいの?」


 まあ、それを言ったら今更だけどさ。


「…貴女の認識していない現象というのは、あまり看過できないわね…。このままだと、この場所もいつ突然消えてもおかしくないということになってしまうわ」


 それはそう。なので、この原因はできるだけ早く突き止める必要はありそうだ。

 

 だが、それ以上に。


「バッテリィィィ!ヤバい!電源切れる!このままじゃ単位落としちゃうー!」

「ひ、陽菜さん?」

「だって、ここまで書いたのに!あとちょっと書いて送るだけなのに!ただでさえ人より卒業遅れてんのに、こんなことでまた更に卒業のびるの?い、いやぁぁぁ!」

「お、落ち着いて。こうなったら仕方ないわ。今回は、あの機械を仕入れに行きましょう?」


 冴子さんの言葉に私は我に返る。

 そ、そうだ。急いでコンビニ行ったらまだ間に合う!間に合うはず?間に合うといいな!


「い、急がなきゃ!さあ行こう!すぐ行こう!」

「お願いだから焦らないで?外が見えない状態で誰かいないかを確認するには、集中が必要なのよ。できるだけ頑張るから、もうちょっと辛抱して頂戴?ね?」


 冴子さんが必死に私をなだめてくれる。こんな時でも、怒らない冴子さん。まじ天使。

 …はい。正直すみませんでした…。


 ということで、冴子さんは言葉の通りそれほど時間をかけずに人がいないことを確認し、速やかに私をコンビニまで導いてくれた。

 私は駆け込むようにモバイルバッテリーをつないでその場で猛烈な勢いで文字を打ち込み、ぎりっぎりのところで締め切り前の提出を完了させた。

 ん?レポートのでき?そんなん知らん!とにかく出したんだからよし!


「…はあ、気づいたらもうこんな時間…。ごめんね、冴子さん、こんな時間まで危ないことにつき合わせちゃって…」

「気にしないで頂戴。わたくしも課題に追われることがあるから、陽菜さんの気持ち、わかるわ。期限の決まっている課題は辛いわよね…」


 冴子さんはそう言って逆に慰めてくれた。ほんといい子…!冴子様って言いたくなるね。

 でも、きっとこうは言っても冴子さん、期限ギリギリなんてほとんどないんだろうなぁとそんなことを思って――


「ん?期限?」


 ピンとひらめくものがあった。


「……もしかして、ダンジョン由来のモノにも、期限がある、とか?」


 そうだ。

 二つのバッテリーは、同じタイミングで突然消滅した。これは、持ち出したのが同じだったから、同時に期限が切れた、と考えればきれいに整理ができそうだ。

 考えてみれば、ダンジョンから持ち出したものが半永久的に残り続けるなんて、流石にあり得ないだろう。無から有を生み出し続けて、それが消えないなら、そのうち宇宙はパンクしてしまいそうだ。


 バッテリーを持ち出してから今日までが大体10日くらい。

 これが、ほかのものにも当てはまるかどうかはわからないが、基本的にはこれくらいの日数でもダンジョンのモノはなくなると考えておいた方がいいだろう。


「…先ほどの現象の理由が分かったのかしら」

「うん。それが一番あり得そうってだけだけどね。あんまりここのモノ、長持ちしないっぽいね。だから定期的には子の夜歩きは続けないとだめそう」

「…そう。まあ、わたくしたちの時間を維持するためには必要なことだし、仕方ないことよね…」

「少し、心配そうだね」

「…正直言うとね。今はまだ見つかっていないようだけど――もしあの志乃がまた私たちを見張っていたら、いつかは見つかってしまうと思うの…」

「あの女か…」

「ええ…。彼女の気配はほとんどないから、彼女が見張っていたらわたくしが気が付く自信はあまりないの。…だから本当は別の方法が欲しいところだわ」


 んー。スマホの隠し場所に安定した充電の方法…。なかなか課題は山積みだな…。


「…まあ、多分今日のところは大丈夫よ。彼女が見張っていたなら先ほどの機会を見逃すはずがないもの。とはいえ、油断は禁物よ。できるだけ素早く家に戻りましょう」

「…うん、そうだね」


 私はそう言って頷く。



 私たちはそのまま何事もなく家に帰りつくと、そのまま解散した。

 何とも言えない、不安と気持ち悪さを残して。

 レポートは無事出すことはできた。今すぐ何かまずいことが起こるわけでもない。

 ただ、幻のように消えたバッテリーに、私たちの立ち位置の覚束なさを改めて思い知らされただけ。


「こっそりダンジョン作って喜んでるだけじゃダメってことだね」


 ちょっとずつでも、状況を変えていかなければいけない。特にあの女、志乃と組織の連中のことは、いつまでも不安を感じたまま放置というわけにもいかないだろう。


「…まあ、もう一個の不安事項は、放置するしかないけどね」


 そう。今回のダンジョン生成物の起源の話は、もう一個、ちょっと笑えない不安事項を発生させた。

 あの時計職人だ。

 私は、あの時計職人にダンジョン由来の腕時計を30円という高価な値段で売りつけている。

 ダンジョン由来のモノが、10日前後で消えるということは、あの腕時計もいまごろ消え去っていてもおかしくない。


「そうなったら、また狐に化かされた、とか騒ぎになりそう…」


 ただ、こっちについては対処のしようがない。あの尋常じゃなく心を奪われていた様子を思えば、お金を返せばいいって問題でもないだろう。

 代わりのものを用意して謝りに行っても、それもまた十日前後で消えてしまうのだ。


「ま、まあ!そもそも、もはや私のあの人に接点なんて生まれっこないけどね!」


 流石にあんな時計商と雑貨屋さんはあんま関わりなさそうだし、基本家を出ない私なら見つかるはずはない!

 私は無理やりそう自分に言い聞かせて、そのままダンジョンのソファーに横になった。



 ……これ、フラグじゃないよね?大丈夫だよね?


お読みいただきありがとうございました。

お約束の未来知識でチートをする一方、夜は学校の宿題に悲鳴を上げる主人公…。我ながら書いててシュールですね。これってタイムトラベル物だっけ…?

とはいえあまり本筋とずれてしまってもいけないので改めて彼女の生活を脅かす爆弾を投下させていただきました。前回の亮介パートで出てきた時計紛失事件の回答でもあります。これがないと、ダンジョン生成、強すぎるんですよね。勿論、そういうバランス感覚とは別に物語としての設定にも基づいているのですがそこら辺の設定もそろそろちょっとずつ出していきたいですね。


さて、消滅事件で危機感を募らせていますが、彼女には逃げられない生活があります。そんな一幕、土曜日の冴子と陽菜の一日も少しのぞいてみましょう。

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