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28話 目指す宝は灰の山~昭和の洗濯物タイムアタック~

毎週火金の19時に定時更新中!

いよいよ遠藤家でのハック回です。

手始めに大量の洗濯物の山を前に、スマホの力を借りた未来知識がうなります。

 冴子さんを見送ってからお店に帰り着いたころには、9時を過ぎていた。


 道中については、その、お察しください…。


 流石に人前で声高に叱られたり肉体言語で指導なんてなかったけど、ずっと小言を言われ続けた。

 学生達に言われた歩き方とか格好に関する陰口、お松さん的にも許せなかったみたいだね。このままじゃとても私一人に送り迎えは任せられないらしい。

 でも、怪異が絡んでいるから冴子さんが登校するなら私がついていくのは必須だ。でもお松さんは家内を取り仕切るので忙しく、いつまでも私と一緒というわけにもいかない。そして、だからこそ、それはもうヒートアップしてしまっている。

 これは、腹案の実現のためにも早めに冴子さんに相談が必要だね。


 ま、それはそれとして。


 帰ってきた私を待っていたのは大量に積まれた洗濯物とその脇で仁王立ちしているおスズだった。


「あんた、調子に乗ってるかも知れないけど、これが本来の見習い女中の仕事だから!この洗濯物を昼までに片付けておきなさいよ!」


 おスズはカット目を見開いて洗濯物かごをズビシと指差す。どうやら遠藤家の人たちの着物系は既に洗って干されているようだ。残っているのは、使用人のものと思われる白襦袢(着物の肌着みたいなもんね)とか前掛け(エプロンっぽいやつ)の山・山・山。そしてさらには、きったないふんどしだとか足袋だとかの山・山・山。

 お、おぅ…。なかなかの迫力やん。

 え?まさかこれ、一人で洗濯しろとか言わないよね?


「ほら、おタミ!あんたも隠れてないで出てきなさい!あんたもこの洗濯物片づけながら、この女がさぼんないようちゃんと見張っておきなさいよね!」


 おスズがそういうと、洗濯物の陰に隠れていたらしいおタミがおずおずと出てきた。


「わ、私、この人といなきゃダメ…?わ、私ひとりで洗うから、この人はもっと別の仕事に…」

「つべこべ言わない!お松さんにも、この子を一人にさせるなって言われてるでしょう!ほれ、シャキッとしなさい!」


 そう言われて、おタミは真っ青な顔をして、私の方を見て震えている。

 うーん。別に私、貴女のこといじめたりしないんだけどなあ。とりあえず、ニコッと笑ってみる。するとおタミはびくっとしておスズの後ろに隠れた。解せぬ。

 その後、おスズは嫌がるおタミを引きはがして、さっさと別の仕事に向かっていった。

 このまま、ぼーっとしているわけにもいかないし、さっさと始めるか。


「この家での洗濯のやり方、教えてもらえる?」

「や、やり方、ですか…?」

「うん。私、この家のこと何もわかんないからさ。ちょっとずつ教えてくれると嬉しいな、先輩」

「せ、先輩?お嬢様方じゃあるまいし、そ、そんな高尚な呼び方、私にはもったいないです…」


 出た。この時代の謎ルール。先輩は先輩なんだから、別にそう呼んだっていいじゃんね。ま、いいけど。


「そういうとこからわからないんだよね。私も頑張って覚えるから、使えない妹分ってかんじでバシバシおしえちゃってよ」

「は、はあ…」


 おタミはとりあえずびくびくしながら、道具を持ってきて色々説明をしてくれた。

 道具となるのはごついギザギザの木の板。これが洗濯板。あと石鹸。この当時の石鹸ということもあるんだろうけどちょっと獣くさいのであんまり使いたくない感じ。そしてでっかいタライね。

 で、洗濯板に洗濯物をかけると、とにかく石鹸を洗濯物に直接ごしごし塗り付ける。その洗濯物を、今度は生地が傷むのとか気にしないでひたすら板にこすりつける。

 これをすると石鹸かすがめちゃくちゃつくから、最後に、手が痛くなるくらい、何度も何度も何度も水洗いを繰り返す。

 要するに、気合と根性!って感じの洗濯だった。


「……それやってて、昼までに終わるの?この量の洗濯物で?」

「が、頑張るしかありません。お昼までに終わらせるというのはちょっと難しいかもですが、とにかく手を動かしましょう」


 あ、やっぱり無理なんだ。おスズめ。嫌がらせのつもりで押し付けていったな。

 でも、これ終わらなかったら色々言われるんだろうな。で、それを、無茶でもなんでも根性で何とかしろと?


 …うん、こりゃ普通になんて、やってらんないわ。 

 正直、始めはあんまり派手なことはしないつもりだったんだけど、さっさと動き出しますか。

 昨日の夜、家事で使える現代知識という感じで調べていたものの中で、早速使えそうなものがあったはずだ。これを試していってみよう。

 あんま、ただの大女なんてかんじで、舐められっぱなしってのもしゃくだしね。


「ありがと。この家のやり方はよくわかったよ。…でも、お昼までに終わらせるには、この方法では難しいんだよね」

「え?そ、その、ですから、早く手を動かしていって」

「勿論動かしていくよ。でも、私たちの手は合せて四本しかないし、いっぺんに全部洗っていくなんてできないじゃない?だからさ。いっぺんに洗い物ができるよう、ちょっと工夫してみてもいいかな」

「く、工夫?」

「そ。で、そのためには台所のものを使っていく必要があるんだけど、誰に相談したらいい?」

「え?え?そ、それは、おさんどんのお春さん、ですけど……」

「おっけ。じゃあ、ちょっとお話ししてくるね」

「ま、待ってください!その、さぼっては――」

「さぼらないよ。心配ならついてきて。この家のお洗濯教えてくれたお返しに、私も私の知っているお洗濯の方法、教えてあげるからさ」



 台所に行くと、お春さんはたすき掛けをした状態で既に大きなおかまを火にかけて臨戦態勢だった。


「あんたたちなんだい!さぼってる余裕があるなら手伝って行きな!」

「あ、すみません!私たち、洗濯物がまだ終わってなくて…!すぐに戻りますから」


 おタミがそう言って顔を真っ青にしてペコペコ謝る。この子、私以外の人に対しても基本このスタンスだったんだ。


「お忙しい中すみません。ちょっと、お春さんのお手伝いとお願いがあってきました」

「はあ?新人のデカ女のくせに随分生意気な口きくじゃないか。あんたは言われたことをただやってりゃいいんだよ。余計な口きかないでとっとと仕事に戻んな!本当にこっちで働いてもらうよ!」

「ええ、ですからちょっと手伝わせてください――かまどの灰掃除」

「は?」

「後はそうですね―――あ、これもしかして昨日の晩のお皿とかですか?何ならこちらもちょっと洗うの手伝っていきますよ」


 その言葉に慌てるのは、おタミだ。


「お、おヒナ、さん!私たちの仕事が間に合わなくなりますよ!」

「大丈夫。お春さんが協力してくれれば、洗濯物も洗い物も、効率的に済ませられるから」

 お春さんは、少し目をすがめて私の方を睨みつけた。

「あんた、私を巻き込んで、何を企んでるんだい」

「だから、お互いの仕事を楽にするだけです。…私、帝都での生活は長くなくて常識には疎いんですが、いろいろなところを渡り歩いているので普通でないことなら逆に色々知ってるんです。

 ただ、その知識で皆さんの役に立ちたいんですよ」

「…ふん、話にならないね。小娘のくせにバカにするんじゃないよ。こちとらこの家で長いこと台所仕切ってんだ。あんた如きに教えてもらうことなんてないよ」


 そういうと思ってた。

 ここは少し、こちらのカードを切っていくしかないかな。

 まあ、未来のカードなんて売るほどある。


「昨日のメニュー、カツレツですよね」

「…!なんでアンタが知ってるんだい?あれは高級レストランのメニューなんだよ?」

「知ってますよ。レシピも含めて。牛肉に小麦粉をつけた後、パン粉をまぶして揚げるんですよね。あれ、もう一手間、卵液に浸してからパン粉をまぶしたほうがおいしく揚げられますよ」


 昨日台所を見ていて卵の殻が捨てられてなかったから、この工程は知らないと踏んでかまかけてみた。そしてら、ズバリだったみたいでお春さんは目をむいた。


「…あ、アタシも最近なんとか手に入れたレシピだっていうのに……」

「信じてもらえましたか?私の知識、お春さんは自分のために、遠藤家のために利用してください。それ以外望んでいませんので」


 お春さんは、少し顔を青くして私を再び睨んだ。そして、気味悪そうに口を開く。


「あ、アタシになにを要求する気だい?」

「ですから、灰掃除をさせてください。あと、熱湯と古いお酢、あともう使わない手拭いをもらえませんか」


 さあ、ここからは、昨日パパッと調べたAI様による未来知識が火を吹くよ。

 作ってみましょう、即席洗剤。



 お春さんが、私が手を出すことを許してくれたので、私はかまどの底の方に溜まっている燃えて白くなった気の塊を引っ張り出しては洗濯用の桶に放り込んでいく。ポイントは煤や炭になったものは取らないこと。この木の灰にだけ用がある。

 それをみていたお春さんが口を出してきた。


「…なんだ、偉そうに言って、灰で洗い物しようってだけかい。馬鹿馬鹿しい。そんな古臭い方法みんな知ってるよ」


 お、そうなんだ。

 そこまではAIさん言ってなかったな。

 実はお春さんの言うとおりなのだ。

 私の目的は木灰汁を作ることだ。これは強アルカリ性の洗剤になるから油や汗や垢といったタンパク質由来の汚れを取るのに非常に適している。

 これ、昔からある方法なの?


「そうなんですか?じゃあ、なんでやらないんです?」

「あんな手間がかかる方法やってらんないんだよ。一晩灰をつけておかないと、灰が残って汚れちまうだろうが。田舎ならともかく、今は石鹸があるんだ。それで十分だろうが」

「ああ、そういうことですか。それなら大丈夫です。石鹸より格段にいいものが、あっという間にできますから」


 灰の性質がわかっていないから効率が悪いだけってことね。なら安心。

 私は木灰を放り込んだ樽の中に、お春さんからもらった熱湯をそのまま注ぎ込んで、ぐるぐると混ぜていく。


「わざわざ、熱湯を使うのかい?」

「そうすれば灰が一瞬で溶けるんですよ。これなら延々つけてなくてもいいでしょう?」

「で、でも、この水真っ黒ですよ……?これをこのまま使ったら洗濯物もお皿もかえって汚れちゃうんじゃ…?」

「あははは。そりゃそうだよ。だから、こんどはこれを濾していくんだ。ちょっと手伝ってくれる?」


 私は、そう言いながらもらったもう一つ用意したタルの上で手拭いを広げる。


 「この手拭いの上に、出来るだけゆっくりこの水を注いでいってくれる?中に灰が入っちゃったら台無

しだから気を付けてね」

「わ、わかりました」


 おタミは、そろりそろりとタルを傾けていった。すると、手拭いに灰が濾しとられ、樽の底の方に黄金色の液体がたまっていく。


「こちらが、炭酸カリウム、まあ要するに洗剤の原液です。これを筆か何かで更に塗り付けてからぬぐってみると――」


 私は一枚、皿を取り出して実演してみる。うまくいくかな?いくよね…?大丈夫だよね?

 恐る恐るふき取ってみると、油汚れは面白いほど簡単に取れていった。ぃよし!!成功!


「な!ちっともこすらないでも、そんなに簡単に汚れが落ちるなんて…!」

「ね。最高でしょ?これなら、これだけの枚数の皿でもそんなに時間がかからないと思いますよ。あとはぬめりが消えるよう水でしっかり洗っていきます」


 私はそう言いながら手早く皿を洗っていく。バイトの経験もあってここら辺はそれなりになれている。少なくとも、水汲みや雨戸の片付けよりはよっぽど役に立つと思う。


「はい。こんな感じでした。――という感じで、この洗い方、今後もすごく役に立つと思います。金属の食器には同じ洗い方はお勧めしませんが、登記とかなら全然いけますのでぜひまた試してください。で、その時には洗剤を私たちにも分けていただけると嬉しいです」


 最後の一言、これ大事。

 今後も洗濯物で同じように灰汁を使いたいからね。

 そういう私に対して、お春は驚きで口を開けたまま、ぼんやりとこっちをみてくる。うーん、OKってことでいいのかな?

 あんまりぐずぐずしていると、洗濯物を放置しているところをおスズに見つかっちゃうかもだし、さっさと退散しますか。


「というわけで、ありがとうございました!お昼ごはん楽しみにしてますね!では、お酢ももらっていきます」


 私はそういうだけ言ってさっさと台所を退散する。

 おタミは慌てて私についてきた。


「お、ヒナさん。その、あんな知識、どこで知ったんですか?」


 昨日、この庭先でちょちょいと検索しました、とは言えない。適当に答えとくか。


「放浪しているうちに、親切な人に教えてもらったんだ。科学の知識を使えば、家事はいろいろ楽になるって話してたから覚えてたんだよねー。ま、こんな感じで洗濯物もちゃっちゃとしちゃおう」


 私は適当にごまかしながら、必要な荷物を抱えて再び井戸端の洗濯もののところまで戻ってきた。

 私は一つの樽を選んで水を入れていくと、そこにもらってきたお湯を注いでぬるま湯を作っていく。


「お湯、ここにも入れていくんですね…」

「汚れを落とすには最適の水温ってのがあるからね。で、ここ、さっき作った木灰汁をちょっと入れてっと…」


 私は水をかき回しながら状態を確認する。えっと、確か手で触って少しヌルっとする感じでちょうどいいんだったかな?うーん、こんなもん?


「じゃあ、ここに、ふんどしとか足袋を入れていっちゃって」

「えっと、入れるだけなんですか?」

「そ。付け洗いだよ。無駄にごしごししなくても、これだけで十分汚れは落ちるから」


 ま、こんな風に自信満々言っているが、私自身やったことがないことだから、失敗してもそんなにまずくなさそうな足袋とふんどしで試してるんだけどね。

 たしか、絹とかだと、生地がボロボロになっちゃうとか書いてたし、ここら辺はちょっとずつ調べながら使えるものを増やしていこう。


「さ、ほかの洗い物は、ひたすら頑張るだけだよ。で、こっちの洗い物が終わったところで付け洗いしているやつらも出していって、最後に軽く水洗いしていこう」

「もらってきたお酢は何に使うんですか?」

「仕上げの水洗いにね。石鹸もこの灰汁もアルカリ性だから中和させる必要があるんだよね」

「ちゅう、わ?」

「あー、要するに、死ぬほど水洗いしなくても綺麗にヌルヌルがとれるってこと。ついでに、黄ばみの防止にもなるらしいし、やってみようか」

「は、はい!」


 おタミは、何だか先輩に対する後輩みたいな勢いで、そうはっきりと答えた。

 …先輩はあなたなんですけどね。ま、無駄にビクビクしている感じはなくなったから、それを考えればいいっちゃいいんだけどさ。


 うーん。ちょっとやりすぎちゃったかな?

 ま、どうせどっかで同じようなことするんだし、ま、いっか。



 私とおタミはそのまま息を合わせて洗濯物を片付けていった。

 途方に暮れるような洗濯物の本洗いが半分の時間で終わったうえ、水洗いでは軽くすすいだだけで簡単にヌルヌルがとれたことに、おタミは大いに感動していた。冬の間、延々と水洗いを続けても石鹸かすがとれないことに泣きたい気持ちになっていたらしい。

 うへぇ……。そんな拷問、絶対やりたくない。この洗い方、絶対にこの遠藤家にちゃんと広めようっと。

 

 ちなみに、お昼ちょい前に私たちの様子を見に来たおスズは、たくさんの洗濯物が既に干されている光景に目をむいていた。


「え、まさか、本当にあの洗濯物の山、片付けたっていうの?!」


 はい。やっぱり無茶なこと押し付けられていた事実が判明しました。

 おスズは信じられない様子で干された洗濯物を確認していくが、特に洗い方に問題はないどころか、普段よりよっぽどきれいになっているらしく、


「……ちょ、調子に乗るんじゃないわよ!言われた仕事をただこなしただけなんだから!」


 そんな捨て台詞を吐くことしかできなかった。



 はは。

 ざまみろ。


お読みいただきありがとうございました。

ちなみに、木灰汁は本編でも出てきている通り、実はこの時代の前からあった知識だったりします。

でも、こういう伝えられた知識は、理論がちゃんと伝達していなかったり、一部の人だけが知っていたりとで、あまりちゃんとその本来の力を発揮できていなかったんですよね。こういう時に、ネットの力は強い。あとAI。


次回、派手に知識を披露した陽菜は警戒をされるわけですが、それでへこたれる彼女ではありません。

彼女の不敵なたくらみをご期待ください!


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