27話 おヒナ、登校デビュー〜へっぽこ女中とイケメンお嬢様〜
すみません…!投稿日の予約設定ミスりました…。
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冴子と一緒に登下校、昭和初期のラッシュの空気とそんな中お嬢様をしている冴子の様子をどうぞお楽しみください。
月夜の下、私と冴子さんが互いの課題と望みを打ち明けあった―――次の日の朝。
「ほら!愚図愚図してないで起きなさい!」
そんなロマンチックな光景を吹き飛ばす、世知辛い現実の音に私は目を覚ました。
すぐ隣で、同僚――確か、おスズとおタミだったかな?――がてきぱきと布団を片付けて身支度をしている。
「アンタみたいな新人が真っ先に起きてなくてどうすんのよ!」
…いや、起きるってあなた、まだ外真っ暗じゃん!今何時だよ!もうちょい寝かせてよ!
ま、そんな文句を言ってられるわけがないのはわかってるんだけどね。
昨日私が立てた目標の一つ。
信頼貯金を積んでいく。そのためにも、ここは踏ん張るしかない。
幸い、この世界に来て、人目を避けるために朝早く活動をする習慣がついてきた頃だ。
「おはよう!起こしてくれてありがとうね!布団、そこのタンスにしまえばいい?」
私はできるだけはきはきとあいさつをする。
怒鳴りつけていた女中、おスズは少し面喰った顔をしている。ま、昨日は相当いい加減な受け答えしかしてなかったもんね。印象最悪だったろうなあ。
ま、こっから取り返してこ。
「で、朝からどんな仕事が待ってるの?」
「み、水汲み、とか、雨戸をあけた、り」
おタミが恐る恐るという感じで答えてくれる。なんか、昨日からめっちゃ怖がってるよね、この子。私そんなに怖そうに見えるかな。
しかし、水汲みに雨戸かぁ。いきなり昨日のトラウマえぐってくれるじゃん。
ま、リベンジと思って頑張りますか。
と、思っていたら
「ヒナ。貴女はこっちいらっしゃい」
お松さんの声でいきなり出ばなをくじかれた。
「貴女には遠藤家としての振る舞いを身に着けてもらいます」
「え、でも、新人なんですし水汲みとかやった方がいいんじゃ…」
「本来はそうですが、貴女は冴子お嬢様のお付きです。昨日あんなことがあったばかりなのです。また万が一のことが起きることがないよう、お嬢様の登校にも同行してもらわなければなりません」
お!まさかの冴子さんと一緒に登校!!やった!!
遠藤家に雇ってもらうために無理やりこじつけた護衛設定、ここでも役に立ったか!グッジョブ、昨日の私!
そんなことを考えていたら、お松さんの一喝が降ってきた。
「気を引き締めなさい!お嬢様に同行するということは、貴女は遠藤家の顔として世間様に振舞わなければいけないのですよ!そこで、みっともないところなど、断じて見せるわけにはまいりません」
そう言ってお松さんは、鬼のような形相で私に静かににじり寄ってくる。
…なんか、ゴゴゴゴっていう効果音が聞こえてくるんですけど?
「昨日のあなたの振る舞いを観察していましたが、とても今のままでは外に連れていけません。――覚悟しなさい」
覚悟しろってマナー教える人のセリフじゃないですよね!
お、おたすけー!!!
で。
お松さんは私にマナーを、文字通り叩き込んだ。
「その野蛮な歩き方をやめなさい!どうしてそんなバタバタした歩き方になるのです!着物が乱れるでしょうが」
「もっと下がりなさい!女中の位置は、お嬢様の三歩後ろと言っているでしょう!貴女は数も数えられないのですか!」
「何ですその姿勢は!貴女はただでさえ大きいのに、そんなにのけぞってどうするんです!」
ひええええ…。
この時代の人と現代人、ただ歩くだけでもこんなに色々違うとは思わなかったよ。
私は必死に言われた通りにしようとしているんだけど、歩くという超基本的な体の動かし方をいつもと違うように保ち続けるのは正直めちゃくちゃ難しい。
朝ごはん返上で延々と訓練を続けたものの、まるで合格点はもらえなかった。
「……はあ…。仕方がありません。いったんここまでとします。今日は初日ということもありますし、私も同行しましょう。私の振る舞いをよく見て、見習いなさい。後、貴女は今日は一言もしゃべるのではありませんよ」
「しょ、承知しました」
「後、その着付けも、自分で何とか出来るようになりなさい。今日のところは私が整えますが、毎日貴女に構っていられるわけではないのです。良いですね」
「は、はい…」
そう答えるものの、どうにかできる気がしないんだよねえ…。
着物の着付けって、綺麗に着れるようになるには数か月くらいかかるっていう話だし、それが今日明日でできるようになるとか、絶対無理でしょ。
どうしたもんかなぁ…。
そう思っていると、お松さんがさっさと歩き出す。
「さ、ついていらっしゃい」
「え、もう、出かけるのですか?」
そういうとお松さんはまたイヤーな顔をして睨んできた。
「貴女という人は……。昨日も言ったでしょう。旦那様へのご挨拶です」
あ、はい。
そういえばまだ冴子さんのお父さんにはまだ会ってなかったもんね。どんな人なんだろ。静江さんみたいにめちゃくちゃ怖かったりするのかな。
「ああ、静江からは聞いてる。お袋にも参るよな。慈善活動か何か知らんが、いきなりよくわからん娘を雇えとは…。」
私を紹介するお松さんの口上に、冴子さんのお父さん、勝右衛門さんは読んでいた帳面から顔もあげず、ため息をつくようにそういった。
どうも、静江さんは私のことを詳しく話していないみたいだね。多分、あのふじに私を押し付けられたとか、そういう筋書きになっているじゃないかな?ま、冴子さんの神隠しとか私の霊能力とか、どう考えても眉唾だしね。それに、別に嘘ってわけでもないし、私がとやかく言うことじゃないかな。
とりあえず、私はお松さんに特訓されたように頭を下げ言葉少なに挨拶する。
「お世話になります。ヒナと申します。どうぞよろしくお願いします」
「まあ、励みなさい」
そういうと、勝右衛門さんは興味がないと言わんばかりに私に背を向けた。
…なるほどね。
このお父さんも又、冴子さんの「敵」の一人という感じなんだろうね。
なんとなくそんなことを思った。
さて。ご挨拶も終わればいよいよ本番だ。
冴子さんの登校タイムである。
矢絣の着物に袴姿。初めて会った時の冴子さんの格好そのままだ。やっぱりこの格好の冴子さん、めっちゃカッコいいよなあ。
「ヒナ、ぼうっとしていないでちゃんとついていらっしゃい」
お松さんは冴子さんの荷物と思われる風呂敷包みを持ちながら、正確に冴子さんの三歩後ろを歩いている。その後ろに付いていくのが私ね。
冴子さんは、やはり私に話しかけたり笑いかけたりはしない。ちらっと私を見ておしまいだ。
ただ、本当にさりげなくだけど、軽く私に頷きかけてくれた。
ありがと。わかっているよ。ここは、きちんと、お嬢様と女中でいなくちゃね。私も出来るだけお松さんに言われた通り、女中っぽく歩いてついていった。
ついでに。
――ダンジョン生成!
私は昨晩スマホで確認した建物の生成をこっそり試みる。扉の開いてないダンジョンはこの時代の人には見えないからこっそり実験にはもってこいだ。
ポン!っと出てきたのはオフィスビル。2028年でもここら辺はしっかりビジネスの中心地だからね。
よしよし、この位置ね。
もちろん、お出かけの真っ最中、このダンジョンに篭るなんてことはしない。これは、今夜の計画のための第一ステップなのだ。
ま、そんなことをコソコソしながらお松さんについていくと、でっかい通りに出る。確か、あの先にある橋が萬世橋だったね。
で、神田須田町の駅はでっかい道路のど真ん中にあるんだけど。
……なにごと?
という感じの光景が広がっている。まず駅。ここにはちょっとだけ待合スペースみたいなものがあるんだけど、そこはすでに人がみっしり。
で、それだけじゃなくてね。
そこからあふれたと思われる、駅で待つ人が、車道を挟んだ歩道にもうこれでもかってくらいに長蛇の列をなしている。
え?これ、下手すると100mくらいの列になってない?
みんなこれ、電車待ってるの?乗れっこなくない?そして、間に車道があるわけなんだけど、もしかして電車来たらみんな車道に乗り出してみんなして電車に群がるみたいな、世紀末ルールがまかり通ってたりする?
でも、別に冴子さんもお松さんも全く平気な顔をしている。
流石に、お嬢様である冴子さんがそんな無茶なことするわけがないよな、と思ってみているとからくりが分かった。
この時代の市電、かなりくる感覚が短かったみたいだね。だから、先頭の数十人だけが道路を渡って、他の人は渡らずに待つ、みたいな状態で上手く捌いていたみたい。
「遠藤さん、ごきげんよう。今日も込み合ってますわね」
私が感心していると、そうやって声をかけてくる団体がいた。
同じような着物に袴の恰好の女の子達だ。多分同じ学校なのかな。
「皆さん、ごきげんよう。今日も袴を踏まれないよう気を付けなければいけませんね」
冴子さんが、完璧なお嬢様って顔つきで笑いながらそれにこたえている。
あ。なんか、今の冴子さん、静江さんっぽい。プチ・アンドロイドモードだね。流石親子。
「あら?遠藤さん、今日は女中がついていらっしゃるの?」
「いつもお一人なのに、珍しいこと。なにかございましたの?」
お、なんか、私の存在突っ込まれてる?思わずびくっとなる。
冴子さんはさりげなくその視線から私を隠すようにしながら、質問に答えた。
「ええ。母の指示でしばらくの間同行することになったのですわ。最近は物騒ですから」
「…でもお二人も?少し仰々しくございません?」
「この娘は新人なんです。なので今日は先生方へのご挨拶も兼ねて女中頭のお松が付いていますが、明日からはこの者だけになりますわ。――そんなことより、今日の幾何の課題、おやりになりまして?」
冴子さんはそうやって話をそらした。
冴子さん、ありがと…!あんまり、注目されまくったら絶対ぼろでるもんな私。
その後冴子さんは、女学生仲間と話を弾ませ、女中の私とお松さんはその輪の外側で控える、という感じで電車を待った。
じりじりと列が進んで、前の方がすいてみてきた当たりでお目当ての電車がきたようだ。冴子さんたちは会話をやめ、お松さんがそっと風呂敷包みを身に寄せる。
と、交通整理をしている警察官が笛をピリリリとならした。
途端、周りのみんなが足早に走り出した。
冴子さんたちも、なんかお上品に走ってるよ。器用だよね。
私?……歩くのさえおしとやかにできないのに、お上品に走るとかできるわけないでしょ!というか、こんな、電車乗る際に走ることが前提のシステムが悪いんだって!駆け込み乗車禁止でしょうが!
そんな文句を言いながら、私たちは電車に乗り込んだ。お松さんは、冴子さんたちの外側に立って、まるで周りの人たちから盾になるようなポジションになっている。
「…ヒナ!貴女もこちらでお嬢様の壁になりなさい。その大きな体を少しは生かすのです!」
お松さんが小声でそんなことを言ってくる。大きな体て。
ま、一応、私護衛だしね。言われた通り、冴子さんとほかの乗客との間になるようポジショニングをとる、んだけど
―――ま、まじか!こんなぎゅうぎゅうなのにまだ押し込むの?!
一応、現代の満員電車には慣れてきた私なんだけど、この時代の押し込み具合はさらにひどいな。
明らかに、最後のほうの人とか、電車に乗れてないもん。外側にしがみついている感じ。それで電車走らせるんだよ。正気じゃねえ…。
で、この状態だと、ほんと身動き取れないし、人の足とか普通に踏むし踏まれる。
さっき冴子さんが言ってた、袴を踏まれるがどうのこうのって、あれマジなんだね。
というか、そんな状態なのに、冴子さん、全く姿勢を乱さない。この時代の電車めっちゃ揺れるんだけど、つり革とか全くつかまずにまっすぐお上品に立ってるんだもん。
それどころか
「――貴女、気を付けなさい」
「あ、ありがとうございます!遠藤先輩…!」
とかやって、後輩の女の子を支えて、真っ赤にさせてるし。あーあー。あれは、ほぼ間違いなく、学校の王子様やってるね。
しかし…!あの後輩ちゃんじゃないけど、この混みあいの中でまともに立つの難しいって!ただでさえ着物でうまいこと身動きできないのにさ。
下手すると女学生の塊の中に倒れ込みそうなんだけど…!誰かヘルプー!
と、そっと、どこからか倒れかけた私をそっと支える手が差し伸べられた。それはほんの一瞬だったけど、まさに限界というタイミングにふっと差し込まれたおかげで私はギリギリ体勢を整えなおすことができた。
その手の先をちらっと見ると、手を差し伸べてきた人物と目が合う。
冴子さんだった。
――い、イケメン……!!
後輩ちゃん。心の中で囃しててゴメン。これは、顔赤くなるわ。
女学校の生徒たちとそつなく会話したり助けたりしながら、女中の私のことも決して忘れない。
冴子さんはマジで、最高の戦友だね。
そうやって電車で格闘をしていると、駅の外の街並みがだんだん落ち着いてくるのが分かった。
あわせて、サラリーマンって感じの人たちがぞろぞろと電車を降りて、車内の学生率が増していく。なんか、だんだん、学生街って感じになってきたね。
「ヒナ。次でおりますよ。少し着物を整えなさい」
小声でお松さんがそう言ってくる。
お、いよいよ、目的地か。
その言葉にたがわず、電車が止まった途端ぞろぞろと車内の女学生が電車を降りて行った。私も慌てて、適当に着物の裾とかをいじった後一緒に飛び降りる。
見ると、あちこちに、冴子さんと同じ恰好の着物を着た女学生が歩いていた。
その中に、なんか古いデザインのブレザーみたいな服を着た女学生も、ところどころ、混じっている。へえ、この時代で、もうあんな現代っぽい制服あるんだね。新しい制服の過渡期って感じなのかな。
「おはようございます。遠藤さん」
「遠藤先輩!ごきげんよう!」
「あら、遠藤さん、今日は女中と一緒なのね」
女学生が増えたということは、冴子さんの周りに彼らが集まってくるということだ。
冴子さん、マジ大人気。
おかげで、再び注目を浴びる立場になってしまった。
「――随分と大きな女中ですわね」
「なんだか歩き方に品がないわね」
「もっとましな女中を連れて歩いた方がよいのではなくって」
何というか、あまり友好的でない言葉もちらほら聞こえるようになってくる。
ほっとけやい…とか思うけど、そのたびに冴子さんが何かとか取り繕う姿がなんだか悔しい。
…これは、なんとかしないとな。
今後、冴子さんと歩くときに、冴子さんにあんな顔をさせないように、なんかいい手を考えないとな。
少し朝から沈んだ顔をして学校の中に入っていく冴子さんを見送りながら、私は心の中でそうつぶやいた。
しかし、うーん、これなんとかなるもんかね。
着物の着付けとか歩き方なんてすぐにどうこうできるものとも思えないし、身長なんてどうすればいいんだよ。
と。ふと、女学生達の登校風景を見ていて、あるアイディアが浮かんできた。
すぐにどうにもできない問題でとやかく言われるならさ。
逆にその問題の方を、強みに変えたら良くない?
実現できるかは冴子さんと要相談だけど、今考えているアイディアが実現できるなら、きっと今悪口言っていた子達をギャフンと言わせられそうだ。
ふ。
やってしまいますか、ジョブチェンジ。
お読みいただきありがとうございました。
現代でも朝のラッシュは結構なものですが、この時代は外にはみ出してしまうのですからすさまじい…。調べていて、ひええとなりました。
ちなみに、制服の扱いについては、和洋混じりあう空気間を出すためにあえて過渡期の時期という感じで設定しています。なのでボレロのような制服もいれば冴子のようなザ・大正昭和な着物と袴というのもいるという感じですね。その光景をみて、陽菜は悪だくみを思いつくわけですが、それはまたちょい先のお話。
次回は、いよいよ陽菜が未来チートを使い始めます。どんなチートが飛び出すか、ご期待ください。
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