25話 ふじの来襲、静江の決断、そして私の始まり
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現れた黒幕、遠藤ふじ。圧倒的な信用と力を持つ彼女を前に陽菜の心はくじけかけます。
そこで、静江が何を判断し、ふじがどう答えるか、ご注目ください。
遠藤家の応接室では、異様な緊張感に包まれていた。
いきなり現れたふじに、静江は即座に対応した。冴子さんもあわてて立ち上がって静江さんに従う。
「お義母さま。鎌倉よりお越しいただきありがとうございます。お電話ではもう少しかかるというお話でしたのに」
「円タクに急がせましたので、予定より早い列車に間に合いました。なにせ冴子お嬢様の一大事ですもの」
ふじの代わりに答えるのが、ふじ付きの女中、志乃だ。
その言葉で察する。どうやら、冴子さんの神隠しを受けて、静江さんはふじに連絡を入れたようだ。
事前の打ち合わせの時に、冴子さんもその可能性はあると言っていたが、それでもこんなに早く来るとは思っていなかったよ。だって、ふじが普段住んでいるのは鎌倉でしょ?この時代どれくらい時間がかかるかは知らないけど、連絡を受けてから、少なくとももうちょっとはかかりそうじゃない?
勿論、志乃は目黒競馬場にいたわけだから、彼女が遠藤家に来る可能性は考えていた。
しかし、志乃がふじを置いて先に到着するのも不自然だから、結局、踏み込まれるのは私たちの話し合いが終わった後だと思っていたんだ。
……でも考えてみたら、ふじもまた、志乃と同様東京に詰めていた可能性もあったんだ。
なら、こういう事態も考えておくべきだった。私たちの想定の甘さに、歯噛みする。
「…お志乃さん。貴女にも、色々お話を伺いたいと思っていた矢先でしたので、ちょうどよいです」
静江はそういいながら席を立つと、その席をふじに譲る。ふじは、何も言わずその席に着くと、ただ黙って冴子さんと私を見つめている。
静江さんはそのままふじの隣に、冴子さんはその隣に座る。
私は、何もすることができない。ただ判決を待つ被告人のように椅子に座りっぱなしの状態だ。
志乃はというと、ふじの脇に立ちながら、黙り込むふじの代わりに話を進めている。
「冴子お嬢様もご無事のようで安心いたしましたわ。お話を伺った時は、本当にどうしたものかと思って同中ずっとやきもきしていたんですよ?」
そう言ってコロコロと笑う志乃。
……私に見せていた顔つきと違いすぎて、不気味すぎる。
「ところで、この怪しいお嬢さんはどなたでしょう?このような風体の方をここまで上げるなんて、感心しませんね」
「…こちらの方は、貴女のことをご存じのようですよ?お志乃さん」
「あら?どこかでお会いしたかしら?ごめんなさいね。もしかして養育院のお方?奥様の慈善活動のお供で色々なところに伺うことはございますので、いちいち覚えてはいられないんですよ」
あくまで白を切る気のようだ。養育院、というのはよくわからないが、なんとなくニュアンス的に馬鹿にされた感じがする。
この野郎、好き勝手言いやがって。
思わず悪態が口に出る。
「随分な言い方ですね。私をあれほど無理やりに捕まえようとしていたのに、もう私のことを忘れたんですか?なら、そのままずっと忘れていてください」
「あらあら。ひどい言葉遣いですこと。言ってしまっては何ですが、育ちが知れますねえ。静江さんも、冴子さんが大変な時だというのに、こんな子の相手をしているなんてのんき過ぎはしませんか?」
志乃はさっさと私のほうから目線を切ると、静江さんをターゲットに話を勧めようとしてくる。
「無事に戻られたとはいえ、この度の事態、きちんと対応する必要がございます。…勿論、神田明神にはご相談できない事態ですが、つてをつかえば事後的な処理も含めて解決は可能であると奥様はお考えです。なので、後は私共にお任せいただけませんか」
「ははは。今起きていることのすべて、あなた達で何とかなるんですか?それは初めて聞きました。なら私のこと追い回さないでくださいよ」
逆効果だとわかっていつつ、つい噛みついてしまう。
このまま黙っていたくない。
冴子さんのほうも口を出したくてたまらないようだが、それを防ぐように静江さんが睨みを利かせている。話をすることは許されないようだ。
「……せめて話をしていい時と悪い時くらいの分別はつけてもらいたいですね。静江さん、この厄介な娘のことも私たちで引き取らせていただきますよ。それでよろしいですね」
志乃の方はひたすら無視しつつ、ちゃっかり私を回収する気のようだ。
くそ、余裕の態度だな。
そりゃこっちは明らかな不審者だし、向こうはこの家の中で絶対のポジションにそびえるふじのバックアップ付きだ。信用差が桁違いすぎる。
だからこそ、こいつらが来る前にある程度話を固めきりたかったのに…!
「…お志乃さん、この娘だけでなく、他の者からも貴女についての噂は届いているんですよ。心当たりはありませんか?」
「生憎、全くないですねえ。まあ、慈善事業と言っても、誰でも救えるわけではないですからね。それを、面白く思わない人もいらっしゃいます。そういう方たちの恨まれ役も含めて私の仕事ですよ」
志乃は余裕の表情でコロコロ笑う。
こん畜生、まるで効いてないな。おかげでこっちは嫌な汗かきっぱなしだ。
「…そうですか。まあ、この娘の貴女への糾弾も特に根拠のあるものではありません。ただならぬ因縁は感じますが、貴女の言うようなこともありえるでしょうね」
静江さんはあっさりとそう言って志乃への追及をやめてしまった。
それを見て体が泥のように重くなるのを感じる。
……あんだけ頑張ったのにここまでなの?始めから勝負にならないの?
そう思ってしまう。
「それで、あなたたちに任せれば冴子の問題を解決可能というのは、どう証明してくださるのでしょう?」
静江さんは、今までとまるで変わらないトーンでそう言った。
「…証明?いきなりなのお話です?」
「この娘は、自分の有用性を証明しました。実際に冴子をこの家に連れて帰ったという実績と、その摩訶不思議な力の存在をもって。それに対してあなた方はどうなさるおつもりなのでしょう」
「……まさか、奥様のお力を疑っていらっしゃるのかしら?あり得ないとは思いますが、そこの小娘のほうが役に立つとでも思いなのですか?」
「失礼ながら、今回のことに関しては」
静江さんはそうバッサリ言い切った。
その言葉に志乃が目をむいて口を開き―――ふじが片手をあげてそれを制した。志乃は瞬時に口を閉じて一歩下がる。
「ふん。真壁の嫁っ子が、随分いうようになったわ」
「…今は私が遠藤家の奥を預かっております。遠藤家のためにも、今回に関しては譲れません」
「…ほう?続けてみい」
「……今回の事態、もともとはお義母様が冴子を巻き込んだことが原因なのは明らかでしょう。そして、それに対して、お義母様が有効に対処出来ていたとは思いません。そうでなければ、冴子が神隠しに遭うなど、そもそも起こるはずもないのですから」
「じゃから、こうして責任をとるためにこうしてはるばるやってきたんじゃがの」
「そうおっしゃるならば、この娘の力を見極めていただけませんか。遠藤家のためを――冴子のためを思うのならば、最善の手を尽くしてください」
「―――ふん」
ふじはそういうと、私の方をにらみつけてきた。
「おい、小娘。―――見せてみい」
「…え?その、……何を?」
「この生意気な嫁の前で見せたという、お主の芸をじゃ。さっさとせえ」
は?なに、さっきのダンジョン生成のこと言ってる?
……え?またやんの、あれ…?やんなきゃいけない雰囲気…?やめてくれよぉ…。
でも、今、流れがこっちに気かけているのは確かだ。ここで負けるわけにはいかない。
私は、ガンガンする頭で出来る限りの集中をしたのちに―――ペーパーナイフを生み出した。
「――ほう」
真っ黒な瞳で、ふじはただそう息をした。
「もうええ。さっさとしまえ」
ふじがぞんざいにそういうので、私は即座に生成を解く。……あーやば、また鼻血でそう…。流石にこんな場で鼻血姿なんてさらすわけにはいかないので必死にこらえる。
そんな私を無視して、静江さんはふじに問いかけた。
「いかがでしょう。この娘の力は」
「……ふん」
ふじは答えずにそう鼻を鳴らすと
「……もうええ。こ奴に任せい」
一転して、そんなことを言い出した。
はれ?嘘?黒幕ご公認?
私の中にはてなマークが乱舞している。パッと見ると、冴子さんもめっちゃ瞬いてる。あれ、完全に戸惑ってるね。なんか可愛い。
じゃなくて。
そんな二人を置いて、静江さんは静かに話を勧めた。
「では、当家で彼女を雇い入れることについて、異論はございませんね。――その場合、万が一にも、この娘の言うことが真実であってはなりませんので、管理は私にご一任ください。お志乃さんはもちろん、お母様も、この娘に関することに関しては口出し無用に願います。無論、当家の害になるようなことのないよう、厳重に対応させていただきます」
「……仕方ないの。好きにせい」
これまたあっさり引き下がっちゃった!
なんか、後ろの志乃も全く嫌な顔せずにただ頭を下げてるし。
え?
これなんとかなった?あのよくわからない連中から逃げきれた?
なんだか得体が知れなくて気味が悪い。
あんなに執念深かった連中の親玉がこうもあっさり引き下がると、逆に何か企んで切る気しかしない。
相手の意図が分からない。
そうやって身を固めている私に対して、再度ふじは真っ黒な瞳をこちらに向けた。
「娘」
なんだか妙にぞわっとする。そんな言葉にできないオーラというか気持ちというかが、その瞳には込められていた。
「必ず冴子を守れ。頼むぞ」
*
なんと、ふじと志乃はそのままさっさと帰っていってしまった。
私たちは何が何やらという状態でそのまま席に固まっている。
二人が帰り、支配権を取り戻した静江は、改めて私のほうに向きなおった。
「お義母様のお墨付きも得られました。当家としても利が多いと認め、例外中の例外ではありますが、貴女の雇い入れを認めましょう」
お。
おおおおおおおお!
やった、何かよくわかんないけどやったよ、私たち!
「あ、ありがとうございます!これからどうぞよろしくお願いいたします!」
私はとりあえず椅子から立つと頭を深々と下げる。
静江さんはというと、それをなんだか冷ややかーって感じの目で見つめる。
「これにより、貴女は当家の使用人となりました。以後は、余計なことは一切せずに、ただ私の言葉を聞き、行動なさい。当家を強請った今回のやり口のように、少しでも当家を害するような気配を感じた時点で、貴女のことは即刻解雇、二度と日のあたらない場所に隔離しますので、そのつもりでいなさい」
…今なんかすっごく物騒なこと言わなかった…?!
というか、私が自然な形で結果的に強請りになるようもってたの、バレてた?
…どこまでわかってたのこの人?
そんな気持ちで戦々恐々としている私を放置して、静江さんは話を進める。
「お松。一旦この子を女中見習いとして貴女に預けます。…わかっていると思いますが、決して目を離さないようになさい」
「畏まりました」
「あと、この見苦しい格好を早々に何とかしなさい。当家の女中として、このような格好決してあってはなりません」
「無論です」
お松、と呼ばれた女中は、さっき私が百円出していたの見てめっちゃ怒ってた人じゃん…!
そして今も、怒りの表情を隠そうともしない。
…私、この人のお世話になるのかあ…。あれ?大丈夫これ?
「ぼさっとしていないでこっちに来なさい!」
お松さんはそう言って私の手を強引に引っ張っていく。
また後で、という言葉を目線に込めて、私と冴子さんは目配せをして。
私はそのまま引きずられていった。
私の、女中生活、はじまりはじまりーってね。
お読みいただきありがとうございました。
読者の皆様としては、陽菜と同様、「あれ?この黒幕ちょろいぞ?」と思われたかもしれません。
この遠藤ふじ、この段階でいろいろな思惑があり、一番彼女にとって重要な選択肢にとって都合の良い選択をしたというのが現状です。勿論、これで終わるわけもないですがいったん一区切り!
いよいよ、女中生活がスタートです!
陽菜は現代の普通の女子高生(あまり普通ではないですが)です。そんな彼女が目にするのは現代とはまるで違う常識の数々です。次回、そんな新しい「異世界」な日常をお楽しみください。
「陽菜と冴子、よく頑張った!」と思っていただけましたら、ブックマークや下部の【☆☆☆☆☆】(評価)で応援いただけると、とても嬉しいです!




