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19.5話【漆】お嬢様、囚われる 

1章完結まで毎日19時更新中!


冴子パート。いよいよ冴子は志乃と真正面からことを構えます。

冴子の刃は、果たして、志乃に届くのでしょうか。

「貴女と話がしたかったのよ。――陽菜さんのことで、ね」


 冴子は闇夜から現れた女、志乃をまっすぐ見つめてそう告げた。


 不思議な女だ。歩く姿や立ち姿を見る限り武道の心得があるとは思えない。普通の女に見える。しかし、一方で頭の片隅で警鐘が鳴り止まない。意識に上らない何かが、冴子を警戒させ続けている。


「陽菜さん、というのは、例の娘のことですよね?――もうご存知だったとは。ひょっとして、あの娘に着物を与えたのはお嬢様ですか?」


 冴子は沈黙をもって肯定した。


「まさかここまで首を突っ込まれていたとは…。大人の言うことは聞くものですよ?」


 志乃はそう言って嘆息する。


「これ以上は見過ごせません。あの娘からは手を引きなさい。彼女はただの浮浪児です。関わることは遠藤家としても傷にしかなりません。そんなこと、普段のあなたならわかるでしょうに」


 その言葉に対し、冴子は正面からたちむかう。


「わたくしこそ見過ごせないわ!身寄りがないとはいえ、か弱い婦女子を捕まえるために、大勢を巻き込んで大捕物をするなんて!おまけに最後には陽奈さんに乱暴まで!陽菜さんは無事なの?」


 しかして、その言葉に対する志乃の反応は予想外なものだった。


「大捕物?なんの話です?」

「惚けるつもり?あなたが陽菜さんの隠れ家か何かを取り囲んで、その後――」

「取り囲んだですって?」


 その一言で志乃の纏う空気が変わる。

 今までのような捉えどころのない不気味さから、触れるだけで斬れてしまいそうな黒く鋭い刃のように。


「――お嬢様、何をどうやってお知りになったのです?」


 その剣呑な雰囲気に思わず引き下がりそうになるのを、冴子は今一歩で踏みとどまった。


「…あなたに答える義理はないわ」


 しかし、志乃は


「ああ、結構ですよ。勝手に知るんで」


 そっけなくそう答えた。




 ぞぶり




 途端、冴子は違和感を覚える。

 例えるなら、気持ちの悪い泥のような何かが冴子の中に注ぎ込まれる感触。そんな、生理的な忌避感と悪寒を。

 さらに冴子の意思とは関係なく脳内に様々な光景が想起され、冴子は心底ぞっとした。


「なっ…!」


 思わず声を上げる冴子を無視して、志乃は顔を怒りで歪める。


「あの塵どもが…!目溢しをしてやったと言うのに、図にのって…!」


 何が何だかわからない。今度こそ冴子は数歩飛び退いた。あのまま、よくわからない感覚に侵され続けてはならないと判断したのだ。

 志乃はそれでようやく冴子を見やる。そして、再び嘆息した。


「…流石は奥様の御血筋ということですか。まさか、こんな形で知られるなんて、想定外もいいところです。

 ――残念ですがお遊びはおしまいにしましょう」


 志乃は静かにそう告げて、冴子に向かって一歩前に近づいた。冴子は思わず身構える。


「…勇ましいですね。そういうところ、個人的には嫌いではなかったのですが」


 志乃はまるで気にせず無造作に間合いを詰めてくる。

 冴子の構える手が震えてくる。口惜しいが格が違うと悟ってしまったからだ。まるで豪傑に嬲られる雑兵のように、冴子はただ身を固めるしかできなかった。


 志乃はそのまま冴子の耳元まで近づくと


「今回のことは私が処理します。貴女はお家にお帰りなさい。――お母様が待っていますよ」


 そうそっと呟いた後身を翻した。


「しっかり叱られていらっしゃい。今後は夜歩きなどできなくなるでしょうけれど、もうお転婆も卒業しなくてはいけませんからね。

 ――もうお会いすることもないでしょう。お体にお気をつけて」


 志乃の挨拶の言葉は、帝都の闇に吸い込まれていった。後には何も残らない。

 夢幻の如く、志乃の姿は闇夜に溶けて消えていた。



 冴子は思わず息を吐いた。

 気付かぬうちに、呼吸まで詰めていたようだ。汗までどっと湧き出てくる。


「わたくしも修行が足りないわね」


 冴子はそっとハンカチで額をおさえつつ、軽く唇を噛む。


 認めたくないが、完敗だ。


 志乃を説き伏せ、あるいは叩きのめして、陽菜の元に案内させると言うのはあまりにも無謀で子供じみた作戦だったと言うしかないだろう。

 むしろ、冴子の反抗は志乃に余計な情報を与えたかもしれない。方法はわからないが、志乃は何かを知覚し、確信したのは間違いなさそうだ。


 ――あの、陽菜さんからの不思議な映像のことも知れてしまったのでしょうね


 まあ、あれは正直冴子としてもよくわかっていない現象なので、それが痛手なのかはよくわからないが。少なくとも、あれで志乃は警戒を強め、静江に冴子の秘密を告げることを決心したようだ。おかげで、冴子の自由さえ、危うくなってしまった。


 しかし、だ。


 冴子にも、収穫がないわけではない。

 只やられるほど、腑抜けた鍛え方はしていない。


 ――今回のことで、私もいくつか確信が得られたわ


 志乃の言葉、志乃の反応。

 そして、そもそも、志乃が現れたという事実。

 それこそが、冴子の新しい刃となり得る。


「残心の心よ、冴子」


 冴子はそう口にして自らを戒める。

 失敗にとどまるな。過去は武器に変えて、常に先に備えろ。師匠の言葉を胸のうちに唱える。


 そう。

 戦いは、まだ、終わってはいない。







 昭和三年四月七日。朝。


 今日は冴子の学校では入学式を執り行っている。特に役職のない冴子は、本来自宅学習の名目のもと、自由な時間が得られるはずだった。


 しかし、現実はというと、冴子は自室内で軟禁状態にあった。


 なんでも、早朝に一本の電話が遠藤家にかかってきたらしい。


『遠藤家のご令嬢が、小刀のようなものを手に、深夜歩き回っているところを見た人がいるらしい』


 そのような内容だったそうだ。

 その一報を受けてからの、静江の行動は早かった。直ちに冴子の部屋までやって来るや否や、女中頭のお松にまだ寝ている美代子を連れ出すように命じた。


「お母様、どうなさったの…?」


 突然起こされて不安げに尋ねる美代子に答えることなく、静江は冴子に静かに事情を告げるとそのままにらみつける。


「心当たりはありますか?」

「…昨夜、出歩いていたのは本当ですわ」


 冴子は正直に答えた。嘘をついても同室の美代子を問い詰められればボロが出るのだ。ならば、そんなことで美代子を巻き込みたくはなかった。


「でも、小刀を持ち歩いていたというのは事実無根ですわ」

「夜歩きだけで十分醜聞です。――それに調べてみないとわかりません」


 ほどなくして戻ってきたお松に、静江は命じた。


「冴子の荷物を調べなさい」


 承知しているとばかりにお松は冴子の薙刀袋をおもむろに探った。


「ございました」


 探り出したのは、冴子が祖父忠之から授かった、あの小太刀だった。


「…これは?あなたが持っているはずのものではありませんよね?」


 その問いに冴子は黙るしかない。


「…全く。きっとお父様ですね。真壁家の秘伝は小太刀を使いますからね。目録代わりというこなのでしょう」

「でも、昨夜それを持って出たわけではありませんわ」

「お黙りなさい。そもそも、嗜みで薙刀を習う領域を超え、古武術の奥伝を習っている事実が問題です。婦女子の行っていい領域ではありません」


 静江はそう言って頭を押さえる。


「…正直に言うと、貴女がたしなみの域を超えていることは認識していました。しかし、まさか、小太刀にまで手を出しているなんて」


 静江はそのまま、冴子に蟄居を申しつけ、勝手に外に出ないようにとお松に窓をふさぐことまで命じた。


「貴女には失望しました。わきまえなさいと言いつけたはずです。言葉で伝わらないのなら、遠藤家のためにも貴女を表に出すわけにはまいりません。自分の立場が理解できるまでここで反省していなさい」

「お母様」

「言い訳を聞く気はありません。勿論食事は抜きとします。明後日からの学校についても状況次第では休んでもらいます」


 取り付く島もないという体で、静江はただ淡々とそう伝えてくる。


 しかし、冴子も負けてはいなかった。


「お志乃さんですか?」

「――なんですか?急に」

「おそらく先ほどのお電話でその話があったのでしょう?お志乃さんからではないですか?」


 その言葉に、静江はわずかにだが眉を動かした。


「…それが何だというのです?まさか、貴女、自分の非行の言い訳に志乃を使おうというのですか」


 その言葉に対する答えとして、冴子は懐にしまっていた物を取り出した。



 蜘蛛の根付だった。


 

「…それは志乃がつけていた根付ではありませんか?なぜあなたがそれを?」


 静江のその言葉を待っていたとばかりに、冴子は顔を上げる。


「昨日の晩、わたくしが彼女と会って、その時に手に入れたのです」


 そう、志乃が冴子に近づいてきたあの瞬間、せめて証拠だけでもと失敬したのだ。

 その言葉に、静江は怪訝そうに眉を挙げて見せた。


「しかし、彼女は鎌倉にいるはずではないですか」



 そう、これが冴子の一つ目の刃だ。


 何を言いつくろったところで、信用のある志乃の言葉を覆す力など冴子にはない。

 だからこそ、まずは志乃の嘘を突き崩す。

 それが、そびえたつ牙城に届く始めの一歩だ。


「私もそう思いました。だからこそ、夜遅くに、この遠藤商店のすぐ近くをうろついているところを見かけて驚いてしまったのです。もしお祖母様の御遣いだとしても、我が家に挨拶もしないなんておかしいと思って、思わず追いかけてしまったのです」

「…それで夜外に出歩いたというのですか?話になりません。そんなことで彼女に難癖をつけてごまかそうとは、恥を知りなさい」

「もちろん、それだけではありませんわ」


 冴子はそう言って二つ目の刃――昨日のやり取りで、志乃が暗に認めた事実を口実にする。


「嫌なお話を聞いてしまったんです。彼女が、その、あまりよろしくない方々と付き合っていると。

 信じられないことなんですが、たくさんの人を巻き込んで、女性に対して乱暴を働くような方々と関りがある、と」


 その言葉に静江は明らかに顔をしかめた。

 それは遠藤家にとって、大きな傷になる醜聞だ。聞くだけで不愉快だと、静江の顔にありありと浮かんで知る。


「なんと根も葉もない…!誰がそんな話をあなたに吹き込んだのですか!」

「――亮介叔父様です」

「亮介さん、ですって?」


 それは意外な名前だったのだろう、静江は虚を突かれたように目を瞬いた。


「はい。叔父様が良く出入りされるカフェーで、そういう噂話を聞いたのだそうです。更に、あまり風体の良くない方がが志乃さんの名前を出されていたとも」


 これは、勿論嘘である。しかし、志乃が彼らと関りがあること自体が事実なら、遠藤家が調べればきっとすぐにわかることでもある。


 

 そう。なぜ、あんな実力を持つ志乃が、わざわざ冴子を監視などしていたのか。

 彼女は――そして、おそらくふじは恐れたのだ。彼らとのかかわりが、冴子の口から遠藤家に知れることを。だからこそ露骨にくぎを刺し、冴子を脅しにかけた。



 それは、冴子の握った事実は、そのまま彼らに届く刃になりうることも意味する。

 ただ、自分一人の言葉では信じられないことを見越して、冴子は亮介を巻き込んだ。彼は厄介者扱いはされているが、それでも遠藤家の男だ。そして、立派な経歴とそれに見合う人脈を持っている。

 だからこそ彼の言葉を、おそらく静江は無視できない。そう判断した。


――叔父様にも念のためいざというときのための作戦を伝えておいてよかったわ


 そしてその刃は確かに静江にも効いていた。

 初め、取り付く島もないという勢いだった静江が今や悩まし気に顔をゆがめている。


「亮介さんが……なぜあなたに?」

「実は偶然昨日の帰りの電車でお見かけしたのです。叔父様も流石に気になったようなのですが、お父様にもお兄様にも言いにくいと思われたようで。わたくしに気づくと、そっとこの話をされていきました。そんなところにお志乃さんを見かけてしまったものだからわたくし飛び出してしまったのです」

「…それで、志乃は何と?」

「勿論、認めませんでした。代わりに、自分がいたことを告げてはならないと。いうことを聞かないようならば、自分の知っていることを密告すると、そう脅してきたんです。――だから、とっさにこの根付を確保したのですわ」

「…根付がある以上、志乃が来ていたことは確かなのでしょうね…」


 静江はそう言って改めて頭を押さえた。

 そう毒づいているものの、内心では効いている、と冴子はそう判断した。

 根付だけでは足りない。亮介の言葉だけでも足りない。しかしその両方の刃ならば、きっと届く。

 その試みはぎりぎりかなったようだった。


「そうなんです!お母様、こんなこと見過ごしてはなりません!遠藤家に連なるものがか弱い女子に手をかけるなど、断じてあってはなりません!お志乃さんを止めましょう!今からならまだ間に合うかもしれません!」


 冴子はそこでそう言い募った。

 静江の力を借りることができれば、もしかしたら、志乃を止めることも、陽菜を助けることもできるかもしれない。


 しかし、静江はそれを受け入れなかった。


「そのことは、貴女がかかわりあうことではありません」


 静江はバッサリと切り捨てた。


「貴女の主張はわかりました。だからと言って、貴女が夜に飛び出していっていい理由にも、婦女子の身で古武術の奥義に手を出していい理由にもなりません。――このことは私のほうで処理します」

「お母様!」

「黙りなさい。これは遠藤家の問題です。子供の貴女が出る幕はありません。

 ことは厳正に、慎重に判断する必要があります。…まずは亮介さんに話を聞いてみましょう。またお義母さまにもお話をする必要があるでしょうね」

「そんな悠長なことをしていたら、さらわれた子がどうなるかわかりません!はやくお志乃さんを見つけないと!」

「――二度は言いません」


 静江はそう言って、冴子の主張を封じた。


「お松。扉の前で冴子のことを見張っていらっしゃい。……食事くらいは与えても構いません。しかし、この部屋から一歩も外に出してはなりませんよ」

「畏まりました」


 厳然とした捌きの言葉に、お松は重々しく了解した。ぴしゃりとふすまが閉じられ、さらにぎしりと何かが差し込まれる音がする。おそらくつっかえ棒が差し込まれたのだろう。

 さらにガタンと椅子でも置くような音がしたかと思うと、お松の声が聞こえてきた。


「お嬢様。私はこれより、ここから一歩も動きません。何かされようとすればすぐにわかりますよ。

 ……奥様は心配されているのですよ。ここは奥様にお任せになってください。決して、不埒なことはお考えにならないよう、ご自重くださいませ」


 それが最後通牒であると、冴子は正しく理解した。


 ここから、無理に囲いを突破して、陽菜のもとに駆け込もうものなら、今度こそ静江は冴子を許さないだろう。勘当され、学校はやめさせられ、きっとどこかに押し込まれ――とにかく、冴子の未来は、確実に閉ざされる。


 冴子は、もはや陽菜の為に、自分はどうすることもできないことを、悟るしかなかった。







 冴子はなすすべもなく座り込んでいる。


――せめて、叔父様は上手く話してくれるかしら


 昨日、亮介と別れる前に、冴子は自分が見聞きしたことを、出来る限り詳細に亮介に伝えておいた。また、自分がどう動くつもりであるかも、話してある。

 自分から事態に介入するつもりはないとしても、話を合わせるくらいのことはしてくれるだろう。冴子は、亮介が見せたあの執着心を信じるしかなった。


――陽菜さん、おねがいだから無事でいて




 その時だった。


『あー、ヨルが闇落ちしちゃったよ。お嬢様ー!助けてあげてー!』


 また、唐突に、あの奇妙な声が脳に響いた。



 そしてあの奇妙な四角い黒枠と、そこに映し出される乱れた映像が冴子の目の前に現れる。

 そこには、地下の土蔵と思われる風景と、かすかに写る着物姿の足元が見えた。

 陽菜だ。冴子は確信する。あれは、別れの日に渡した古着の着物に間違いない。


『だいじょーぶ!情報物理学研究所は健全です!これは、あくまで検証、検証なんで!偶発的要素が絡む事態でも、この世界は新聞通りに動いて見せるのか、実地で確かめてみるだけなので!暖かい目で見守ってねー』


 聞きにくい声が、妙なことをしゃべっている。

 あまり切羽詰まっているようには聞こえない。


――もしかして、捕まらずに済んだのかしら?それとも何とか逃げだすことができたの?


 そんなことを考えていると、声はさらに続けた。


『ではまた明日!目黒競馬場でお会いしましょう!またねー』


 そこで映像はぷつりと掻き消えた。



「…まさか、陽菜さん、目黒競馬場に行くつもり?」


 冴子は自分の言葉にぞっとするものを感じる。

 陽菜がいったん無事なのはわかった。それは本当に良いことだ。



 しかし、陽菜は競馬場に行くと言っている。

 新聞通り動くかどうか検証するなんて話をしているということは、実際に賭け事に参加することを考えているのかもしれない。


 しかし、しかしだ。


――陽菜さん、あそこがどういう場所か知っているの?!


 冷や汗が出てきた。


 おそらく、彼女は自分の言っていることの危険性がわかっていないだろう。


 競馬は、参加することにも大金が必要とされる、上層階級の社交場だ。

 会場にいるのは、華族や、軍人、商人といった裕福な層の人間か、大きなお金が動くことに関わろうとする社会の裏側に住む人間のたまり場だ。

 そんな中、彼女は今着ているような、明らかに粗末な着物姿で賭けをしようというのだろうか。

 間違いなく浮く。そこで、彼女が未来の知識をもとに何かをしようものなら、大勢が彼女を不審に思うだろう。


 さらにだ。


 志乃がかかわっているような人間は、きっとああいう場にも網を張っている可能性が高い。競馬場で騒ぎになれば、きっと志乃たちは彼女を見逃さないだろう。それでは、狼の群れに羊が食われに行くようなものではないか。


 冴子は目がくらむ思いがしてきた。

 駄目だ。志乃に追われていようがいなかろうが、このままでは陽菜は破滅してしまう。


「な、なんとか、何とか陽菜さんに伝えないと!」


 焦る気持ちが沸き立つのに、冴子は何もできない。


「ひ、陽菜さん!陽菜さん!あのへんな映像は貴女が私に見せてくれているのでしょう!ならば聞いてちょうだい!駄目よ!絶対に、明日、競馬場なんて行っては駄目!」



 そう叫ぶ冴子の声は、ただ、ふすまの外のお松に届くだけだった。

お読みいただきありがとうございました。


冴子の試みは、大人たちの冷徹な理屈によって阻まれてしまいました。

静江の軟禁という判断ですが、それは冴子を切り捨てるためではなく、彼女の内に眠るバーサーカー気質を察しているからこその、強引な引き剥がしでもあります。


さて、閉じ込められた冴子をハラハラさせている陽菜のパートに移ります。

冴子が言うように、競馬とはこの当時、かなり金を持っている人たちの娯楽でした。それこそ、参加するだけで陽菜がこれまで稼いできた総額を軽く超えるお金が必要なくらい。

陽菜はスタートラインに立てるのでしょうか。


「冴子、よく頑張った!」と思っていただけましたら、ブックマークや下部の【☆☆☆☆☆】(評価)で応援いただけると、とても嬉しいです!

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