17話 狐女捕獲作戦
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神出鬼没で、見たこともない商品で子供たちを誑かす。
当時の感覚で言えば、彼女は立派な妖怪です。
ダンジョンの商品を売り捌くことに成功した私が次にしたことは、売り場の拡大だ。
子供相手の商売じゃ、一つの売り場で稼げる額には限りがあるからね。いろいろな場所をゲリラ的に回っていくのが一番だ。
なので私はあらかじめ目をつけていたいくつかの候補地で、前回と同様の手法で子供達にアプローチしていく。ただし、一つの売り場にかける時間を短くして一日のうちに何箇所か回る方法を試してみた。商品、結構あっという間に裁けるからね。この方がずっと効率的だ。
結果成功。どこでも、子供達の反応は上々だった。やはり、未来のお菓子の魔力は絶大だ。
まあ、ちょっと絶大すぎるんだけどね。子供たちすぐ大きな声出すんだもん。もうひやひやしっぱなしだったよ。
おかげでというべきか、どこの売り場でも完売御礼。今回は売り場を増やしたおかげもあって、8円の儲けをはじき出した。子供相手の商売でここまで儲かるとはね。まあ、子供からお金を巻き上げる悪い大人って感じで聞こえは悪いけどね。でも、これ以上なく喜んでもらってるから!悪いことはしていないから!
さて、今日は子供たちと約束したので、また最初の売り場で再び店を開く日である。
前回からあんま経ってないから、最初の日にお菓子を買った子はまだお小遣いが溜まっていないだろう。その代わり噂を聞きつけた子供なんかいるだろうからそっちに期待だね。
だが、そんな淡い期待はすぐに掻き消えることになった。
電車を降りたあたりから妙に強い視線を感じるようになったのだ。初めは気のせいかと思っていた。しかし、しばらく歩くうちに確信に変わった。辺りを見回すとさっと視線を逸らされ、そして顔を伏せるやまた視線が戻ってくる。敵意ある視線だ。
もしかして見つかった…?
相手は子供だしあれだけ騒いでいたのだ。どっかから漏れた可能性はありそうだ。しかし、同業者からの警戒ならともかく、行き交うみんなからこんな視線を浴びることは想定していなかった。
…これ、まずいかも。
私は途中で道を曲がる。こんな状態で店を開くなんて出来っこない。そして荷物で手元を隠しながらマップ確認。これはすぐにでもダンジョンに逃げ込んだほうがいい。確認したが、手頃な建物は近くにはなかった。ちょっと先にコンビニがあるので早歩きでそこを目指す。
着物姿なのまずったなぁ…。声出すから男装するわけにも行かないんだけど、動きにくいのが結構辛い。
逸る思いを抑え、目的地が見えてきたというところで
「おい!そこの女!」
複数の男が行く先に立ち塞がった。作業着や法被を着て、険しい表情をこちらに向けている。みると、一人男の子が引き連れられており、なんだか申し訳なさそうにこちらを見ていた。
「あの女で間違いないんだな」
「う、うん、おとっつぁん、間違いないよ」
「聞いたかお前ら!アイツが、子供たちに怪しげなものを売ったんだ!」
……ほんとあと後少しというところでこうなるのね。まあ、覚悟はしてたけど。
こうなったら仕方ない。何とかごまかすしかないだろう。
「何の話でしょう?私はやましいことは何にもしていませんけど?」
私は笑顔を作るとそう宣言した。こういう時は堂々としている方がいい。質屋とやりあった時にそれを学んだ。
「しらばっくれるんじゃねえ!今、俺の息子が言ったこと、聞こえなかったたぁいわせねえぜ!」
「勿論聞こえましたし私もその子のことは覚えていますよ。お菓子を買ってくれた子だよね。この間はどうも」
「認めやがったなこん畜生め!てめえが売ったもののせいで、子供たちはおかしくなっちまいやがったんだ!」
「おかしくなった?」
「ああ!菓子ごときで馬鹿みたいに興奮してよお!」
「おとなしい家の子がお小遣いをもっとよこせと、こういってきやがったんだ」
「食ったとか食わないってだけで喧嘩をしたりさんざんだったぜ!」
…あー。そういうことね。
ようやくなんでこんなことになったのか原因を理解した。子供たちがすぐに秘密をしゃべったという訳ではなく、大騒ぎになりすぎたのが原因のようだ。
未来のお菓子の魅力を、私は甘く見ていた。
もともと、秘密にできるようなものではなかったということか。
しくじったなあ…。まあ、そんな思いは顔には出さないけど。
「やっぱり子供たちには気に入ってもらえたみたいですね。日本ではまだ売られていない外国の新商品ですから。子供たちが興奮するのも当然です。皆さんも食べてみますか?きっと納得いただけますよ」
「そんなもん食えるかい!お前の手口はわかってんだ。そうやって俺たちを化かすつもりだろ、この狐女!」
「へ?」
思わず声が出ちゃったよ。真剣な話をしているはずなのに、急に何言いだすのこの人。
「狐?え。急になんです?」
「とぼけんな!子供の中にお前がけったいな建物の中に入っていくのを見たってやつがいるんだ!」
うげ。マジか。
それはかなりひどい失態だ。おかげで形勢がだいぶ悪くなった。
「それに、法師様からお前の正体は教えてもらってんだ!観念しろぃ!」
法師?誰だそれ?また怪しげな奴が出てきたな。
しかし、これはだめだ。口でごまかせる状態を超えている。
何とか隙を見て逃げるしかなさそうだ。
とはいえ逃げ込むべきコンビニは男たちの向こう側にある。私はあの男たちの壁を越えて行かなければいけない。
…うまく気を引くしかないね。この条件で私ができることは何か、私は必死に頭を働かせる。
「言い当てられたもんで黙り込んじまったぜ。やっぱり狐なんだ」
「そうに違いないねえ」
「いいからとっ捕まえて法師様に引き渡そうや」
ヤバい。時間がない。とりあえず、ぱっと思いつきでやるしかない。私はそう決断すると気持ちを切り替える。
「狐だなんていわれて驚いただけです。文明開化してずいぶん経つのに、まだそんなことを言う方がいるんですね」
「ああ?」
「そんなものあるわけがないじゃないですか。私は人間です。子供たちに話した通り、旦那様の言いつけで製品の試食を頼んだだけですよ」
「そんなわけあるかい!じゃあどこの店のもんだ。いってみろや!」
「言えるわけがないでしょう?まだ秘密の商品なんですから。企業秘密です」
「きぎょうひみつ?訳の分かんねえ言葉でごまかそうってかい!」
「いいからとっちめてやろうぜ」
「そんなことをしたらその後あなた方は訴えられますよ。旦那様には大切にしてもらってますから。それより、御疑いなら交番に行きましょう」
そう提案をすることで男たちは少し面喰ったようだ。まさかこちらから警察に行くことを提案するとは思わなかったようだ。…勿論いかないけどね。これははったりだ。私はそうやって当然というように男たちに歩み寄っていく。
「さあ、行きましょうか。私は土地勘がなくって。交番はどこですか?」
「あ、ああ。駐在所ならこっちだ」
男が指した方向は、ちょうどコンビニのある方向だ。ラッキーだ。私は自らそちらのほうに歩いていくことで自然と男の壁を突破する。
だが、この状態じゃまだ男達と距離が近すぎる。出来ればふりきってしまいたい。男たちをうまいこと気を引いたり、驚かせられないかな…。
――あ、いいこと思いついた。
「あ、あれは何です?」
私は進行方向を指をさして聞く。
「ん。何だ急に。どれのことだ」
「だからあれです。あれ」
私の指の先には何もない。男たちが怪訝な顔をしながらそちらに注目した―――そのとき。私は即座にストリートビューの記憶を頼りにダンジョン生成を試みる。
「う、うわああ!なんだありゃ!」
作り出したのは信号機だ。ダンジョンでは扉が閉まっている建物は見えず、扉がなかったり開いている建物なら見えるのが法則だ。なら信号機も普通に見えるんじゃないかという賭けに、私は何とか勝った。
男たちが一瞬そちらに気を取られ一歩下がった瞬間を逃さず私は駆け出した。
「あ!ま、待ちやがれ!」
そう言われて待つ馬鹿がいるか!着物の裾がめちゃくちゃ乱れるのも気にしてはいられない。私は信号機を消して今度はコンビニを出現させると、死に物狂いでその中に駆け込んだ。
男たちの手が私の背に届こうとするぎりぎりのタイミングで、私は何とかコンビニの扉を閉める。ガラスの扉越しに、男たちがまた魂消ているのが見てわかった。急に私が消えたように見えて驚いているのだろう。
「……た、助かったぁぁぁ。」
だいぶぎりぎりだった。今度こそ駄目だと思ったよ。
というか酷いよね。始めは警察官で、次は謎の男たち、最後には普通の人たちまで私のこと追い掛け回すようになるなんて。…まあ、今回もまた「自業自得」なんだけどね。
「未来の製品を売るのがこんなに騒ぎになるなんてなあ…。いいじゃん。いい製品売ってるんだしケチ付けなくたってさ」
そう言って落胆する気持ちをごまかす。
これでダンジョン由来の物を露店で売る方法もかなり厳しいことがわかってしまった。一たび騒ぎになった時、私には頼る先なんてない。私の商売に文句を言ってくる相手に太刀打ちなんでできないし、出るところ出れば苦しくなるのはこっちだ。
これで私の未来絵図はまた振出しに戻ってしまった。
「あー!考えるのはやめやめ!うじうじするはこの状況を切り抜けてからにしよ!」
そう言って私は外の様子を確認し――顔が引きつるのを押さえられなかった。
「うげ。なんか、あの人たちまだいるんだけど。というか、さらに増えてきてるんだけど…」
このコンビニは彼らには見えないはずなんだ。なのに、男たちはまるでコンビニから私を逃さないでもいうようにドアの前に陣取っている。
どういうつもりなんだ。私は男たちの会話が聞こえないかと耳をそばだてる。するとうっすらとこんな声が聞こえてきた。
「これでい――だよな」
「ああ、法師様が――には、ここら一帯を取り囲んで―――が来るの――ていたらいいんだとよ」
「裏―――も人をやってるが必要――か?」
「どこから飛び――来るかわからねえんだし――ために人をつけて――方がいいんだと」
その言葉に血の気が引いていくのがわかる。
まるで私が籠城するのを予想していたかのように包囲網を作るよう指示したという感じっぽい。
これじゃネカフェの時の再来だ。
「…法師様っての、前の男たちと関係があるかも…」
ここまで私の能力が読み切られていると、あの男たちがかかわっている可能性は十分ある。そう言えば亡者たちを前にした時、あのとき一人だけいた女は専門じゃないかと男たちをなじっていたっけ。なら、法師というのは十分可能性があるラインになる。
「…まずい」
勿論今回は扉が閉まっていて相手はこっちが見えないのだから、前回みたいに無理に立ち入ってくることはない。しかし、ダンジョン生成能力にはもう一個オーバーヒートという弱点がある。
根競べを続けていたら、こっちが先に限界を迎えかねない。
そう考えたとたん、あの時男たちに無理やり押さえつけられた感覚がよみがえってきて気が遠くなるのがわかる。
「…そ、そうだ!今回も配信して相談してみよう!」
私は、ネカフェのときと同様、ゲリラライブを開始する。今度はこの包囲網の脱出方法の相談だ。しかし妙案はなかなか出てこない。
『また追いかけられてるの?何やったんだよ』
『ピンチになりすぎwww』
という感じに親身になってくれないコメントも多く、考えくれてるものでも
『思い切って裏口から逃げてみたら?』
『裏にも人をやってるって話してたんだろ?リスクデカすぎ』
『無理せず隙を見るしかないでしょ』
と、現状の再確認にしかならない。ダンジョン包囲という一手は単純な分隙がない。
視聴者側も同じように感じているんだろう。こんなコメントが流れてきた。
『あの女学生がまた助けてくれないかな』
他にも冴子さんの登場を望むようなコメントがチラホラ見受けられる。
……ほんとそれね。
苦しくなるとつい冴子さんに助けてもらいたくなっちゃう。
まあ、今回に関しては冴子さんもどうしようもないだろうけどさ。相手は普通の一般人だし、私が怪しいのはたしかだから擁護も難しそう。
「無い物ねだりをしてても仕方ない」
あえてそう言葉にして気持ちを切り替える。今は手元の手札で打開策を考えるしかない。
するとそんな私の言葉に答えるようなコメントが飛んできた。
『そうだ。商品使って大きな音を出して気を引くってのはどう?』
それだ!
多分私にできるのはそれしかない。
私は店にある商品を画面に映しながら視聴者と相談する。この場にあるもので、外の男たち全員の気を引くくらいの事態が起こせる方法を。
すると途端に色々なコメントが溢れ出す。みんな、危ないこと大好きだね…。中にはちょっと引くようなヤバい案まで出てきてこっちがヒヤヒヤする。
私はその案の中から、この時代的にインパクトはめちゃくちゃ強いけど危険性はそこまでというものを採用した。この時代の人からしたら意味が分からない権化って感じのやつ。まあ、私たちからすれば化石みたいなネタなんだけどさ。
必要なものは防犯ブザー、コーラ、あと…はい、メントスです。ここで察した悪い子のあなた、絶対真似しないでね。分からなかった君はそのままの君でいましょう。お姉さんとの約束だよ!
あ。作戦中の光景はカメラをオフにする。うん。まあ、あれだよ。こんなの写してBANされちゃまずいからさ。
作戦は単純だ。コンビニの正面のドアで騒ぎを起こした隙に裏口から逃げる。そのためにまずは取り扱いやすいようにコーラのガスを少し抜いておく。次に防犯ブザーをオン。凄まじいアラーム音に耐えながら、ここでヤツをインします。うげ!もう噴き出してきた!慌てて軽く蓋をする。
あとは秒読み。片手にブザー、片手にコーラという状態で私はコンビニの扉を一瞬だけ開けた。
「う、うわ、なんだこりゃ!」
コンビニの出現とともに異様な音を立てて現れる私に驚く男たち。そこに目掛けて私はすでに吹き出し始めているコーラとアラームをそのまま投げつけ、急ぎ扉を閉めた。
あとは期待通りの大騒ぎだ。
不安を掻き立てるような聞き慣れない機械音と質量を無視したようにコーラが噴き出す光景は、カオスの一言だ。
こんな事態、想像もしていなかった男たちのたまげようったらなかった。
この間に私は裏手に急ぐ。
そっと裏口を開けてカメラをオンに戻して外の様子を確認。張っていたであろう男たちの姿はもはやない。
よし!これならいける。私はそのままコンビニの外に飛び出した。
このとき、何故か冴子さんの声が聞こえた気がした。
え?と思ったのと、物陰からふらりと何かの影が飛び出してくるのが同時だった。
「こっちから出てくると思ってたぜ。ーー聞いていた通りだ」
そんな声が頭上で聞こえたかと思うと、首元に強い衝撃が走った。
「が!」
急に視界が眩む。
私の手元からスマホがこぼれ落ちるのをぼんやりと自覚しながら、私の意識はそのまま暗転した。
お読みいただきありがとうございました。
メントスコーラ。古典的ですが、その見た目の異様さは追随を許さないインパクトがありますよね。
ですが、流石にそんな目くらましなどでごまかしきれるわけもありません。
彼女の冒険はここで終わってしまうのでしょうか?
気になるとこですが次回は冴子パートです。
前回、陽菜が未来人であると聞かされ驚く冴子でしたが、そんな冴子もだいぶ奇怪な現象に遭遇することになります。
「え、こうどうなるの?」「陽菜は無事?」と思っていただけましたら、ブックマークや下部の【☆☆☆☆☆】(評価)で応援いただけると、とても嬉しいです!




