15話 隠れ場所は、『誰も見つけられない』隠し土蔵
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さて、今回は解決編!さっそく目当ての場所に直行―――はできません。
陽菜もいろいろ失敗して、安全策の大事さを知りました。
次の日、私は行動を開始した。
誰にも見つからないことが約束されているその場所を私の第二のホームとするために。
まずは場所の下見を行う。実際の場所はどんな場所なのか。どんな人がいて、どんな時間にいるのか。それをじっくりと観察するところから始めた。
目的の場所は日本橋。
ここはどこもかしこもキラキラのピッカピカなように見えて、実はそうじゃない。大通り以外の場所なんかでは、点々とがれきが残っていたり、更地になっていたりするスポットがある。
ここら辺は、震災の時、火災旋風と呼ばれるすさまじい火事があったらしい。その中には、一家全員が亡くなったまま放置されている場所なんかもちらほらあったりするのだ。
そのうちの一つが私のターゲットだ。昨日の夜、新聞記事を改めて見返した後、ネットで探せる古地図をいろいろと当たってみて、目的の場所を絞り出した。
「…案の定、あんまり人の目はないね」
恐れていたのはこういう空き地で遊びまわる子供の存在だったが、どうやらここはまだがれきが多いこともあり、あんまり子供がよりついていないみたいだ。
それでも焦りは禁物。まずは一日は様子見に当てる。さすがにずっと張り付きっぱなしだと不審がられるだろうから、時たま通りかかって確認をする感じにする。
で、それ以外の時間はどうするかというと、職探しに充てた。
当時の新聞記事には結構職の広告が載ってるんだよね。だから、それでイメージをつけながらの就活だ。
ただ、その前に、ちょいとだけお金を使いました。
ちょっとね。お風呂に入りたくて。これまでずっと、体拭くだけだったけどいい加減限界なんだよ…。ちょっとでいいから、ちゃんと体を洗いたい。
ということで、就活するなら清潔感は重要だからと自分に言い訳して、この時代の銭湯、挑戦してみました。朝8時頃でもあいているんだね。
お値段、5銭。ちなみに石鹸とタオルはコンビニで調達しました。当時の石鹸とか手拭いとか売ってはいたけど、余計な出費は控えておきたいからね。まあ、人目につくリスクはあるんだけどさ。だから出来るだけサッと入ってサッと出た。
それでも久々のお風呂は心に沁みたねー。脱衣所が店の人から丸見えだったり、シャワーがなかったり戸惑うところはそれなりにあったけどお湯自体はおそらく一番風呂って感じで綺麗だった。
あと、ちょっとした収穫もあったんだよ。他にも夜勤明けみたいな客がちらほらといたんだけど、聞こえてくる会話からこの時代の常識というか仕事事情がわかってきた。
女給、やっぱりダメだ。
この前の店でなんとなーく感じてたんだけど、あれ、完全夜の接待業でした。結構うへーというようなことしたりされたりしてるや。おまけに束縛も強くて将来的にもリスキー。身支度とか自腹みたいで結構借金とかしてる。完全風俗だね。
まずは別の選択肢求めた方が良さそう。
ということで、風呂から出てからはいろいろ飛び込んでみて仕事を探し回った。女工とかお店のお手伝いとか。あとこの時代ならではみたいな職としてバスの車掌みたいな仕事のバスガール、タイピスト、電話交換手なんてものもあった。
結果、惨敗です…。
冴子さんのいった通り、この時代、想像以上に身元の保証にうるさいんだね。どこ行っても保証人や身元保証書を求められる。ないと言った途端、門前払いだよ。
で、身元不問みたいな仕事だと、だいたいヤバそうな匂いがしてくる。
他に可能性があるとしたら、日雇いね。一応これならいける。
ただ、これも意外と競争が激しくてね。経験が浅く、コネもない私は全落ちだった。この時代の職を得る手はかなーり厳しそうという現実だけがわかりました。
本当に一から稼ぐしかなさそう。
ま、それはそれとして。
本題の方の、この時代の拠点確保については見通しが明るい。時間を変えて様子を見ていたけど、人目が少ない時間はおおよそ見えてきた。基本あまり人通りはないけど、その中でも特に朝方がよさそう。
*
ということで、次の日の未明、満を持しての情報物理学観測所のお時間だ。
「この世界は一つじゃない。ーーはい、フォッグ研究所改めてIPOのヨルです。今までゲリラ的に東京散歩ツアー1928年とか、救助要請みたいなのばっかりやってきたけど、今回はしっかり情報物理学の検証をやっていきます」
うわ、このフレーズ懐かしいな。といっても、前の動画から1週間もたってないんだけどね。
「ご存知の通り、私は今、摩訶不思議な昭和初期っぽい世界に迷い込んでます。
でも、皆さん、内心思ってますよね?ここって本当に昭和の世界なのって。
その疑問に迫っていくために、今回は実際に残っている記録と、この世界の出来事があっているかの検証をしてみたいと思います。その第一弾!今日はお宝探しです!」
実際は拠点確保目的だけね。でも、そういう世知辛いことは盛り下がるからそういう体で行くことにする。
「こちらが、お宝のありか!馬喰横山あたりです。見ての通り関東大震災の傷跡が生々しく残る廃墟って感じの場所ですね。
で、今回検証で用いる記録はこちらです。朝陽新聞で、1930年11月、今から2年後の記事ですね。なんでもここらへんで子供達が遊んでいたところ、空いていた穴に落っこちちゃった!で、そこが偶然、この家の元の持ち主の隠し土蔵だったというのです!」
ちなみに、ここら辺は後で画像を出すなど編集を加える予定だ。今回はライブじゃないからね。
そんなことを考えながら、私はあたりを確認しつつ、こっそり敷地に侵入。件の穴を探してみる。
「んー?どこだろ?住所は合ってるはず…と、あ、なんか瓦礫の下になんかそれらしいのありますね」
幸い瓦礫は私でも動かせる程度のものだったので避けてみると、ちょうど子供一人が入れそうな穴があった。私でもギリいけるくらいかな。
「子供はその後問題なく穴から出られたみたいだし、私も大丈夫なはず。てや!」
正直怖いけど、ここまで来てしり込みしている訳にもいかないしね。思い切って飛む。
高さは思ったよりあって脚がジーンとしたけど、なんとか着地成功。中から見えるのは、なんか赤っぽいんだけどめっちゃ硬い地面と漆喰の塗られた壁だ。ただ大震災でところどころひび割れ、天井の一部が崩れて穴になっている状態っぽい。
「へえ、中は意外と荒れてませんね。と、はい。奥の方失礼しまーす。どうかな?みつかるかな?んーと?お、この木箱とかそれっぽいかな?どれどれ…。あった!これだ!お宝発見です!」
中から見つかったのは、いかにも立派そうに見える陶器である。
「じゃーん!これです!ぱっと見じゃわかんないかな?はい。私もわかりません。でも見る人が見ればすごいお宝だとわかる逸品らしいですよ?新聞によれば古備前だとか何とか…。お、銘がありました。結構有名な人が作ったものっぽいですね。これも新聞の通りです!」
そう。これこそが未来知識活用のその一だ。
未来の新聞記事にアクセスできる私は、未来に発見されたお宝を先に見つけ出すことができる。これこそが当初この記事を見つけていた時の私のプランだった。
でもこれ、実は条件が厳しいんだよ。なぜなら、お宝が見つかる場所って普通はいけない場所ばっかだから。海の下とか、土の下とか。
そりゃ当然だよね。じゃなきゃ見つかってるんだもん。
でも、関東大震災というのがここでは幸いする。こういう持ち主がみんないなくなって行方不明になったお宝みたいなのが、すぐ近くに埋まっていることがあり得るわけだ。
それがここ。特にこの古備前は相当な値打ち物だと新聞にはあった。
だから、これはぜひとも金に換えたい。そう思っていた。
いたんだけどね…。
「はい。わかってますよー。これをお金に代えるなんてしません。フォッグ研究所は清貧を旨としていますから!」
これは強がり。私がこれを金策に当てない理由はただ一つ。
出来ないから。それだけだ。
だって考えてみて?こういう古美術品ってさ、どうやって手に入れたかの来歴が絶対に必要になるじゃん?でもそれを話したら、これが私のものにならないのは必定。というかそもそも、こんな美術品を取り扱っている商人の前に、身元不明の私が行けるわけがないってね。
だから、このプランは、思い付きはしても結局はぽしゃった役に立たないプランの一つだった。
しかしだ。
隠れ拠点、という意味で言うと、この情報、美術品とは全く違う価値を私にもたらしてくれる。
そう。
この場所は「1930年11月」まで人に見つからなかったことが約束されている場所なのだ。
新聞記事が正しいなら、ここが偶然に見つかるのは、子供があの穴から落っこちるその時と決まっている。それまで、ここが偶然人に見つかることはない。
勿論、私自身が人目についちゃったらその歴史は変わっちゃうかもしれないけど、それさえ気を付ければ、これほどに安心できる隠れ拠点は東京にはないだろう。何が信じられなくとも、ここが1928年であることは信じられる。ならばだ。この時代を語る新聞記事の内容は、何よりの私の強みになってくれるのだ。
「はい!やはり新聞記事の内容がそのままこの世界で現実として再現されていることが、これで明らかになりました。本動画では、引き続き、この世界の存在を実証し、情報物理学の実証を進めていきたいと思います!次回はまた別の研究テーマでお会いしましょう。あ、ゲリラライブも引き続きやっていきますので、おみのがしなく!」
私はそうやって適当に動画を〆ると改めて、この拠点を見渡した。
階段は完全に土で埋まっているが、それ以外は壁も床もしっかりとしていて、意外と湿気ていない。中の空気も悪くないので、少なくともここに物を置くこと自体は問題ないだろう。
「やっと、これでいろいろなことができるようになるね」
文字通りのお荷物を抱えながら、いろいろ活動する必要はこれでなくなった。未来から持ってきたグッズ一式も、人目に触れることを危惧して常に持ち運んでいたが、これでやっとおいて行ける。全財産を抱えて歩く、不審者からは卒業だ。
ほかにも、洗濯もできるようになったしね。
ほら。ダンジョンって私がいなくなったら消えちゃうじゃん?そして服とかは放り出されるじゃん?だから今まで私は服を乾かすことすらできなかったんだよね。それが土の下とは言え一応服を干す場所も手に入れた。
これで、ようやく、衣食住の条件はクリアだ。
やっと、私はこの世界でいろいろ活動をする最低限の条件をそろえることができたわけだ。
「ま。前途は相変わらず多難だけどね」
目の前にあるお宝を放置しなければいけないくらい、私の身元不明というハンデは重く厳しい。
「でも、なんとなく未来知識とかダンジョンの使い方はある程度見てきたよね」
ダンジョンのルール。生成できる条件や制約。それはおおよそ見えてきたと言えるだろう。
そして、未来知識。少なくとも、新聞の通りこの世界が回っていることが証明できたのだ。この情報を生かせば、私ひとりが生きていくためのすべはまだまだあるはずだ。
「焦らず、一個一個やっていこう」
そう思いながら、私は目の前のお宝を指ではじいた。
お宝は、キンと音を立てて私の門出を祝福した。
お読みいただきありがとうございました。
埋もれかけた隠し土蔵の下は寝泊まりする環境としては最悪でしょうが、荷物置き場やいざというときの避難場所としてはとても有用です。
こんなものがあるのも、復興途上のこの時代ならではですね。
さて次回、職を得ることをあきらめた彼女は、宣言の通り自ら稼ぐ道を探していきます。
さて、どんな稼ぎ方があり得るでしょう。いろいろ想像してみてください。
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