14話 東京にある、能力にない私が逃げ込める場所
1章完結まで毎日19時更新中!
帝都東京で時間をつぶす方法は意外といろいろとあります。
カフェから飛び出した私は、仕方なくまたそこら辺をうろつくことになった。
全然休めなかったうえ、結局まっずい紅茶一杯しか飲めていないよ…。すぐにまた喉カラカラになってしまった。
どうにかできないかなときょろきょろしていると、小瓶を手に何かを飲んでいる人たちがいるのを見つけた。『よろず屋』の看板を掲げた雑貨屋のようで、店頭に小売り箱に突っ込まれたなんかの飲物を売っている。看板を見るとラムネらしい。
「すみません。これを一つ」
「はい。一本3銭ね」
お。考えてみたらこれがこの世界での初の買い物だね。
店のおばさんが、台についている栓みたいなものですぐに開封すると、ビー玉を落としてこちらに渡してくる。この場で抜いちゃうんだね。
「えっと、これは…」
「ん?嬢ちゃんまさか、ラムネ初めて?どこの田舎もんだよ。ほらそこで座って飲んじゃいな。瓶もらうから」
なるほど。瓶は回収してリサイクルするシステムか。なんか昔ながらの駄菓子屋って感じだね。ま、実際見たことはないけど。
そんなことを思いながら、店先に置いてあるベンチの腰を掛けて飲む。
ラムネの味は何となく素朴な感じがしたけど、現代とそこまで変わっていない。なんとなくほっとするね。のども潤せたし休めたし、助かったよ。しばらくここでぼうっとしておこう。
その後、体力を回復した後に、一度スマホの電源を入れてダンジョン生成を試してみた。
しかし、やはり生成しようとすると頭痛がしてあまりしっかりイメージができない。でも、頭痛は今朝のものに比べればそれほど酷くなくなっていた。時間をおいて試すというのは正解っぽいね。この感じだともう数時間は見ておいた方がよさそうだ。
ということで、電源を落として、時間稼ぎ続行。
できればあんまり歩き回っていたくはないんだよね。疲れるのもそうだけど、まだあの私を捕まえようとした男たちが探してるかもだし。
人目につかなくて、長時間時間が稼げて、あとできれば座れる場所。
どっか、いい居場所ないかなと、やはり道を歩きながらきょろきょろと見まわす。
お。あれなんかいいじゃん?
見つけたのは、映画の看板だ。派手にバーンとちょび髭おじさんの写真を掲げ『連日超満員御礼!空前の絢爛豪華活劇!』という文字が仰々しい。
映画。それは結構もってこいな気がする。1~2時間くらいは普通に座っていられるし、暗い中じゃ誰も私のことなんか気にしないだろうし。
ということで切符を一枚購入。値段は座席によって違うみたいで、比較的こじんまりした映画館でも高い等級だと30銭くらいした。映画を見るのが目的ではないので、一番安い10銭の等級を購入。
そのままもぎ手に案内されると、なんと映画のまさに上映中だった。しかも座席は自由席。この時代、映画ってこんななんだね。とりあえず端っこの方の席が空いていたのでそこに腰を落ち着かせた。
で、映画なんだけど、これが結構面白い。
何が面白いって、映画以上にね、語りが面白いんだよ。
この時代、映画はどうやら音声がないらしい。だから映画の登場人物とかもシーンとかも全部無音。でも、それじゃあ盛り上がらない。で、どうするかっていうと、なんと前のほうでなんか高らかに実況してくれるわけ。
それがまた面白いんだよね。登場人物のセリフとか状況説明とか全部その人がしゃべるんだけどこれがなかなかうまい。
「先に刀を抜いたは荒木又右衛門、『義により助太刀いたす。アイヤお覚悟!』受けるは河合又五郎。『小癪な返り討ちじゃ』とぬっと刀をぬけば供連れも鞘を打ち払う。その数何と11人!さあさあ!かの有名な鍵屋の辻の決闘、これよりきっと目を離されますな!」
いやー、その調子のいいこと。
私たちYoutuberのそれとは違うんだけど、その独特のふし回りが聞いていて心地いい。おまけに、音楽まで三味線生演奏。なんか予想以上に引き込まれちゃったよ。
というかさ。アレ、私の目標にするっていう手はアリかも?この世界で生きていくなら何かこの世界の仕事が必要だ。でも、さっきの感じからして、女給の仕事はほぼ無理だろう。間違いなくめちゃくちゃにされて終わる。なら、あの前のほうでしゃべる仕事だったら、Youtuberの経験生かせないかな?実況という意味じゃ同じなんだしさ。
それに、あの前にいる人、女性なんだよね。
だったら私にもそういう道が開けたりしないかな。
だがその考えも、映画が進むうちに、難しいなという気持ちに変わっていく。
理由は簡単。私じゃできないからだ。
求められる力が違う。
私みたいなYoutuberは臨機応変で柔軟に、親しみやすい感じで実況をしていくけど、あれはちがう。なんていうか、舞台を盛り上げる力が必要だ。
あと、教養ね。ところどころ、必要な知識を気持ちよく解説していく。あれはこの時代の常識がない私じゃ逆立ちしても無理だろうな。
そんなことを考えていたら一本映画が終わる。で、なんか間髪入れずに次の映画が始まった。
この時代、映画終わってもすぐ次の映画が始まるんだ。今度はよく知らない洋画のメロドラマだった。ま、時間を稼ぐにはちょうどいいね。この時代の雰囲気というのを知るためにも私はその後もずっと映画を見続けた。結局ほぼ一日中いたね。さすがに映画館出るときは目がちかちかしたけど。
でもしっかりと休むこともできた。
これならと、外に出て再びダンジョン生成を試みた。
「……よし!」
成功した時は思わず大声出してしまった。でも仕方ないよね。文字通り命かかってるから。
で、隙を見て店内に入り、すぐに充電器を確保。残念ながらリチウム電池式しかなかったけど、何とか数を確保することに成功した。これでひとまずすぐ詰むことは避けられた。
「……助かったぁぁ」
これでようやく一安心だ。
その後私は男装に着替えると急ぎ私の城に戻った。
日がだいぶ傾いているうえに場所が少し離れていたので、戻ったころにはだいぶ暗くなってしまったので結構ひやひやしたよ。
こっち街灯なんて何にもないんだもん。男たちがうろついているってだけじゃなくて、普通に物理的に危ないんだよね。深い溝に落っこちかけた時は本気で死を覚悟したよ。
まあ、それでも私の城を手に入れた後は、もう別の場所に寝泊まりする気にはなれなかった。
「はぁ、ただいま…」
なんとか清澄白河のアパートにたどり着く。
見ると、昨日のパーティの痕跡は跡形もなく、元のアパートそのままの状態に戻っている。ダンジョン作るたびに、新たに向こうの状況を呼び出してる感じなのかな?
まあ、とりあえず細かいことは後で考えるとしてソファーにダイブする。
「疲れたぁ」
映画館でこもっていた時間は長かったが、それでも完全には気が抜けない時間が続いたせいなのか、体がバキバキになっている。
「…ダンジョンとは別の拠点、必要かもなあ…」
つくづく思う。
やっぱりこの能力を過信しすぎない方がいい。
今回の事態は、ダンジョンの使い過ぎによるオーバーヒートのようなものだ。今まで、考えなしにダンジョンを作ってはそこにこもるというのを繰り返してきたが、それではだめだと思い知らされた。
今回はたまたまスマホの充電が多くて何とかなったが、そうでなければ本当に終わっていたのだ。
だからこそ。ダンジョンの利用は必要最小限にとどめること。そしてダンジョン以外に、私が安心して隠れられる場所を探すことが必要だ。
それが無理でも、せめてバッテリーの予備がおいておけるような場所が欲しいところだ。
「それに荷物のこともあるし…」
そう。歩き回って思い知らされたのが、この荷物の問題なのだ。
ダンジョンは中に物を置いた状態で消滅させると、ダンジョン由来のものはみんな消え、それ以外の者は放り出される。つまり、ダンジョンに物を置いておくというのは不可能になる。
これがかなりつらい。
なにせそうなると、私は常に全財産を抱えた状態でしか歩き回ることができない。まず普通に重いし邪魔だ。今日一日、本当にこれには困らされたのだ。あと、秘密保持の問題もある。この時代の荷物ならまだしも、現代から持ってきたものが万が一ほかの人に見られたら、きっと私はあっという間に追われる身になるだろう。初日に警察にスマホを見とがめられた時のトラウマはまだ消えてない。
でも、これ難問だよなあ…。
そんなほいほい拠点がみっけらられるなら、私苦労してませんって。
せめて荷物が隠せる場所があるといいんだけど、それもなあ…。この時代で見つかりにくい場所なんて思い当たらないし、見つかったらおしまいな物もある以上、絶対安心できない。いっそ埋める?…そもそもそんな深い穴見つからずに掘れますか?あり得ないよなあ…。
私が利用できて?
人目につかなくて?
これから先も見つからないことが保証できる場所?
…いや、そんな、未来の保証なんてできるわけが…。
「…ん?未来?」
その言葉にピンときた。
一つ、昨日新聞記事読み漁っていた時に考えていたあの話、もしかして使えるかも?
そう思うと私はすぐさまスマホを開いて確認をする。
「…んと。うん。ここから普通に歩いて行ける。それにこの条件なら、全部の条件を満たせるね」
その言葉に思わず笑みがこぼれる。
これならいける。
1928年の東京のど真ん中で、私が安心して隠れることができる場所を見つけること。そんな難題を私は問題なくクリアできる。
ついでに、もしかして、本当にもしかしてだけど、でっかい金策にもなるかもしれないしね。近いうちに確認しておこうと思ってたんだし、ちょうどいいや。
「あ、どうせなら、これをネタに動画一本撮ってみる?」
今までは無声東京旅行の動画と襲われた時の動画だけで、何というかコンテンツとして面白みが足りない。どうせなら今回のアイディア、みんなに見てもらって似たような使い道を考えてもらうというのもありかもしれない。
「じゃあ、お披露目しますか。やっと活躍できる、未来知識チートの使い道をね」
お読みいただきありがとうございました。
この時代の活動弁士、実は結構見てみたかったりします。映画の見え方、変わるだろうなあ。
さて、今回はあえての前後編です。次回は、やっと…、やっと…でてきました!未来知識チート!
なので無駄にもったいぶります。どんな方法を考えているのか、ぜひ想像してみてください。
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