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13話 ダンジョン生成能力、失う

1章完結まで毎日19時更新中!


初日はほぼコンビニとネカフェにこもり切り。次の日もコンビニとアパートにこもり切り。

そしてパーティー。

しかし、能力は無限などではありません。


 最高の夢を見ていたはずなのに、次の日の目覚めは最悪だった。


「……や、ば…なにこの頭痛…」


 あまりの頭の痛さに私は目が覚めた。部屋の窓から見える空はようやく白みかけているくらい。なのに、寝続けることは不可能だった。頭蓋骨が砕けるんじゃないかってくらい痛い。

 なんだか、視界すらぼやけてくる気がしてきた。部屋が妙にゆがんで見えるもん。


「え、どうするこれ…」


 寝て治るわけがない。せめて薬が欲しい。しかし頭痛薬なんて洒落たもの、ここにはない。


「えっと駅の近くに確かドラッグストアがあったはず…」


 とりあえずじっとしていることもできない。気を紛らわすためにもとりあえず外の空気吸おう。そう思って私はスマホだけ手に取ると、そのまま外に出た。

 外の空気を吸っても別に症状は変わらない。ま、この時代、正直くさいからね。下水から強烈な腐った匂いがするし、さらに土臭いとか、馬糞くさとかがミックスしてるから。


 でも、冷たい空気だけ少し心地がいい。


 そんなことを考えていると、急に頭の痛さが遠のいた。


「え?」


 驚きの声とともに、何かがどさっと落ちる音がする。

 振り返ると私の風呂敷が更地の真ん中に落ちている。私のアパートの姿はない。


 え?なんで急に消えたの?


 さっと血が引いていく。私の城が消えた。その事実が胸をざわざわさせる。


「あ。30メートル」


 そこで私は思い出した。最初の日に確かめたダンジョンの実験で、そんなのが確かあったはずだ。

 私が距離をとったらダンジョンが勝手に消える、的なやつ。それか。

 少しホッ。

 安心すると頭も回り始める。


「…これで頭痛が消えるとなると……頭痛の原因、間違いなくダンジョンだよね」


 何せ嘘みたいに頭痛がなくなったんだ。そうとしか思えない。

 考えてみれば、いままでダンジョンで長時間潜っていた時はなんだかんだいつも頭が重くなっていた。あれはそういう負荷だったんだろう。


「でも、今回ほどじゃなかったんだけどなあ…。何回も使いすぎた…?」


 使いすぎ、というのはあるかもしれない。

 考えてみれば、昨日はまずネカフェから次の拠点としたコンビニにずっと居座り、その後、着替えのためコンビニを作り、私の城を作った後更にコンビニを作って物資を大量に持ち込んだのだ。

 あんまり都合よく使いすぎたのかもしれない。


「ま、でもとりあえずはまた家に戻って…」


 そう思ってアパートを出そうとして―――アパートが出てこない現実に直面した。


「……ん?」


 もう一回やってみる。

 出てこない。

 再びすさまじく嫌な予感がする。本気で頭から血の気が引いて、軽くめまいがする。


「え、ちょ、ちょっとまった、落ち着け私。イメージが足りないんだ。ちゃんと、ちゃんと思い浮かべれば」


 そうやって思い浮かべようとして――すさまじい頭痛が再び戻ってきた。


「い、痛った…!」


 思わず私は頭を抱えた。

 無理だ。きちんと思い浮かべようとするだけで、激痛が頭に走ってイメージができない。



 それは何を意味するか。

 ダンジョンが、出せない。



 思わず私はへたり込んだ。昨日の幸せがウソのようだ。この唯一頼りになる能力がなくなったら、私はどうしたらいいというのだ。


「……いや、違う。落ち着け。落ち着け私」


 千路に乱れる頭を必死に落ち着かせる。目をつぶり、呼吸の数を数える。


「…全く使えなくなったわけじゃない。使いすぎただけ」


 そうだ。

 情報物理学的な仮説では、あの世界は私のイメージという情報を使って生み出されている。イメージとは頭が生み出す情報だ。つまり、頭を使う。

 それが使いすぎたから、頭の方が悲鳴を上げた。そう考えるなら、頭の方がしっかり休まったらまた使えるようになる。そのはずだ。


 大丈夫。絶望するにはまだ早い。まずやることを考えろ。

 やることは簡単。まずは着替え。私今ジャージ姿なんだから。

 私はいったん風呂敷のところに駆け寄っていった。その中には現代から持ち込んできたものと、冴子さんからもらった服、買った服、それからがま口に6円がちゃんと入っている。

 そこから私は着物を取り出した。どれだけダンジョンに入れないかわからないんだ。男の格好は見とがめられることは少ないかもだが、万が一バレた時は初日のあの警察官みたいに追いかけられるかもしれない。少しでも普通の状態でいた方がいいだろう。だからこれに着替えて…


「……え?私、ここで着替えるの…?」


 女を捨ててるとはいえ、人間の尊厳だとか常識を捨てるつもりはなかったのに…。でも私には他に選択肢はない。

 ……まだ夜が明けてない時間で本気でよかった。これ、もう少し時間が遅かったら詰んでたね。

 私は出来る限り工材に隠れるようにしながら、いそいそと御着替えを終了した。


 着替えが終わると、改めて私は考える。

 どれくらいの期間かは知らないが、とりあえず今はダンジョンが作れなくなっている。そのことは、逃げ込む場所や資材の確保も、すぐにはできないことを意味する。

 だから、絶対怪しまれるわけにはいかないし、一旦、この時代のものである程度やりくりする必要がある。

 なのでもう一度荷物を確認。うん。やっぱり同じ。基本現代にあったものと、この時代で手に入れた物。それだけだね。予備の水とか電池が消えてる。


「ダンジョン由来のものは、持ち歩かないとだめってことなのかな?」


 ダンジョンから外に出したなら、それは維持し続けられるが、ダンジョンの中に残ったままならばダンジョンと一緒に消える。そういう感じらしい。

 一方ダンジョン由来じゃないものは、ダンジョンが消えると外に放り出されるみたいだ。だから、風呂敷の中身はちゃんと残っていると、こういうことだ。


「……ん?まって…?」


 そこまで考えて、猛烈に嫌な予感アゲイン。


 確認します。

 今あるのは現代から持ってきたものと、こっちの世界にあるもの。私、そう言いましたね?その通りですね?

 これ、どういうことだと思います???


「電池式充電器消えてるー!!!」


 私は1928年の朝焼けに向かって思わず叫んでしまった。その後私がその声に住人が訝しむ前に走って逃げ、物陰に隠れる羽目になったのは、言うまでもないだろう。



 ヤバい…。これはダンジョンが一時的に作れないなんてものも目じゃないくらいに半端なくヤバイ。


 勿論、電池式充電器はそんなに珍しいものじゃない。ダンジョン生成できるようになったら多分なんとかなる。

 問題は、それまで私は充電器が手に入らないということだ。

 こっちにきてから、スマホのバッテリーの減りは本当に早い。

 多分マップ見たりしながら普通に数時間過ごすだけでも充電切れになる。

 そうしたら、私はGPSで現代の場所を確認することも、ストリートビューでイメージを補完することもできない。


 ダンジョン生成に不可欠の機能がもう利用できなくなるわけだ。


 そう考えた瞬間私はスマホを切った。それによってスマホはただの文鎮と化した。

 寝ている間充電していたことはせめてもの幸いだ。流石に、この状態ならしばらく持つだろう。しかし、ダンジョン生成能力が戻る前にこのバッテリーが切れた時、私はおしまいだ。



 つくづく、私の能力、チートしてくれない。



 とにかく時間を稼ぐ。

 それしかない。

 そのためには、出来るだけ人ごみに紛れ変に怪しまれないようにしなければいけない。なら、そのうち工事現場の男たちが押し寄せるこの場は論外だ。


 私は清澄白河を後にし、とりあえず橋を渡りながら活動方針を考える。

 これから数時間の間、ダンジョンだけでなくスマホも使うこともできない。バッテリーをできるだけ維持するためにも、スマホの電源を入れるのはダンジョン生成をためすのに必要な時だけくらいの割り切り方が必要だ。


 とにかく、お昼になるくらいまではどっかで時間を過ごす。それから1時間ごとくらいの感覚でダンジョン生成を試そう。

 生成するのはコンビニ一択。とにかく充電器の確保が最重要課題だ。理想は電池式だが、別にリチウム電池でもかまわない。とにかく、しばらく充電が持つ状態を確保できればそれでいい。


 ……ほんと出来ればそんなことになってほしくないけど、万が一生成が今日のうちにできない場合、夜の間ずっと外で過ごすなんて私には絶対無理だ。どっかに泊まることを考えないといけない。

 前にちらっと調べた感じだと、小さな旅籠ならだいたい2円くらいで泊まれるっぽい。…あああ。私全財産六円だよ?数日泊まったらすっからかんだよ?

 そうなる前になんとか回復していてほしい。切実に。


 まあそれはそれとして、だから、いざとなったらそういう旅籠があるような場所で、私が浮かない場所に向かう必要がある。

 そうなると、目指すのはやっぱり神田あたりかな…。冴子さんと別れてすぐ戻ることになるのはなんかかっこ悪いけど仕方ないね。


 ………マップなしで行けるかな?

 



 てことで歩き回ったんだけど。

 ……迷った。

 今私がどこにいるか、皆目わかりましぇん…。


 昨日は地図はたまにしか見てなかったけど、配信はしてたからコメントに色々助けられてたんだよね。今日はそれもなしなんで、本気でわかんない。

 今いるのはそれなりに人通りが多い、ごちゃっとした狭い道。なんというかこんな道ばっかりだから自分が今どこにいるか全くイメージがつかなくなる。


 もう行ったり来たりしてたから足が棒だよ…。荷物重いし、のど乾いたし…。


 というか、この荷物、考えてみたら結構な問題だよね。ダンジョンにおいて出かけたいところだが、ダンジョンが消えたとたんに外に放り出されるのだ。放置ができない。だから現状、全財産ひっ抱えて歩くしかない。この状態じゃそのうち動きが取れなくなるな…。

 本格的に、この時代の身の振り方を考えた方がいいね。


 そう考えると、ふと、『カフェ・雷音』という看板が目についた。おまけに張り紙に『女給募集中 経歴不問』とあった。

 そういえば冴子さんと話してた時に女給の話も出てきたよね。なんか冴子さんいやな顔してたけど、その偵察がてら入ってみてもいいかもね。

 というかのど乾いたし。カフェならなんか飲み物くらい飲めるでしょ。ちょっとゆっくりしよ。



 

 店内は昼間だというのに何というか少し薄暗い感じのけだるい空間だった。

 なんか色付きの電灯がいかがわしい感じを出している。


 いかがわしいというなら、店内の様子もそうだ。基本大き目のテーブルとソファー席なんだが、客っぽいのはみんな男性なうえ、だいたいが隣にワンピースにエプロンという制服っぽい姿の女性を侍らせている。


 あれ…?これもしかして、そういう系のお店?

 そう後悔した時には遅かった。


「なんだあ?こんな時間から男あさりに女が来たぞ?」

「ねえちゃん、いい男ならここにいるよ。こっち座んなさい、座んなさい」


 下卑た声がかかったかと思うと、店中の人の目がこっちに向いた。

 ひいい!やめて!こっち見ないで!


 すると店員の一人と思しき制服姿の女性がやってきた。プンと化粧の香りが強くなる。


「いらっしゃあい。もしかして、表の張り紙見て来たの?」


 店員は少しだるそうにそう言ってくる。見ると顔色が結構悪い。寝不足って感じの顔してるね。…女給、かなり労働環境悪そう。


「え。えっと、それは…」

「いいのよぉ。始めは緊張して勝手もわかンないわよね。マスター、女の子一人来たわよぉ」


 そういって、ぬっと顔を出すのは、やっぱり風俗店のマスターという感じの、いかにもカタギではない男だ。


「早速来たか、どれどれ。お、こいつはこいつは」


 そう言って、男はやはり私をねめまわす。目つきが、最初の日に路地裏であった、怪しい男そっくりだ。


「ふうん。嬢ちゃん訳ありだね。で、うちで働くのかい?嬢ちゃんなら客もつくだろうさ」

「い、いえ、そういう訳じゃ…」

「わかってるわかってる。こういう店に入るのは抵抗あったろうさ。でも大丈夫。すぐ慣れるからさ」


 そう言って、男が私の手をがっしりとつかむ。背筋が凍った。

 やば…!これ捕まった?!


「んー。ただねえ、その恰好はいけないや。うちはね、これでも一応西洋料理だしてるからサ。ほら」


 そう言って軽く厨房の方を顎でしゃくる。うぇ…めっちゃハエが飛んでるよ。

 そんな中、平然と下顔のコックが鍋からよそっているのは、見るからにぱさぱさだがどうもカレーっぽい。この時代カレーなんてあるんだなとおもうと、そのコック、あろうことか、他の客の食べ残したおかずを平気で別の客の皿に盛っていた。

 うげええええ、やめてー!!

 思わず引いてしまったのを、男は勘違いしたらしい。


「ん?なんだい、ライスカレーみたことないのかい?ま、見慣れないうちは妙な食べ物だと思うかもだが一度食ってみりゃ絶品だぜ。ま、とにかくだ、そういう店の空気にそのやぼったい着物はいけないや。制服買ってもらわないとね」

「いや、だから、違くて」

「いいっていいって。お金なら貸してあげるから。君ならすぐ返せるだろう」


 人の話聞かないなこの親父!?だから違うんだって!

 しかし、もうすっかり人の目を集め、完全アウェーな私が、下手に断って波風立てるわけにもいかない。ほんとどうしたらいいのこれ…!

 そうやって進退窮まっていると、急に甲高くてのんきな声がした。


「あー、すまないねえ。本読んでて気づかなかった。君、君、こっちだよ」


 帽子をかぶった和装のひょろ長い男がこっちを手招きしている。


「マスター、勘違いさせて悪かったね、彼女は僕の客さ。ほら、君も悪いんだよ。そうぼさっとしてるんだから。ほらさっさとこっち来なさい」

「なんだ、先生のお客さんでしたかい。そりゃ悪かったな嬢ちゃん」


 そう言ってマスターはサッと手を引っ込める。

 ついていけない。なんだ僕の客って?あんな男知らんよ私。

 そう思っていると男が気障にウインクをしてくる。……どうも助けてくれたらしい。


「……ありがとうございます」


 私はよくわからないながら男の前の席に座る。この男、他の客とは違って隣に店員さんを侍らせてはおらず、一人でコーヒーを飲んでいた。


「あ、この子には紅茶を一つね」

「はあい。でも、普段一人で食べてくのに、今日は珍しいのね。妬けちゃうワ」

「ははは。そんなこと言わないで、これで勘弁してよ。実家のほうのしがらみでね。僕もうんざりなんだよ」


 そう言って男は店員さんに何やらお金をつかませるとその手でその店員のおしりをなでた。

 やば!コイツもセクハラ男だった!!

 なのに、その店員さんは慣れているという風に笑いながら席を離れていく。

 ……つまりさ。コイツいつも金渡してああしてるってことだよね。これ、虎から逃げ出したら狼に囲われたってこと…?


「ふふ。いやー、面白い。そんな顔をして僕をにらむ君がこんな場末の店に入ってくるとはねえ。まあ、安心してくれたまえ。僕は男色だから」


 なんか初対面でとんでもないカミングアウトしてくるな。そんなん知らんわ。


「…ゲイなのに女の人のおしりとか触ったりするんですね」


 黙ってるのもしゃくだからそう言い返すと、男は眉を器用に片側だけ釣り上げて見せた。


「ゲイだって?僕が陽気な男って言いたいのかい?」

「いや、今男色だとかなんとか。男の人が好きってことですよね?」


 そう答えても相手は怪訝な顔をするばかりだ。あ、しまった。この時代、ゲイって言わないのか。やっば。余計なこと言っちゃったよ。


「ふうん。そんな意味あるのかい?妙なこと知ってるなあ。その癖、この店がどんな店か知らないようだったし――つくづく普通じゃない」


 男の目がギラリと光った気がした。


「一応弁明しておこうか。僕はこの店では常連の方でね。こうして一人コーヒー一杯で長っ尻をしているわけなんだが、そんな客に彼女たちはつめたいわけさ。商売にならないから。だから適度にああしてお金を渡して女に興味がある振りも必要になる。税金みたいなものだよ」

「知りませんし興味もありません。……感謝していますが、なんで私を助けてくれたんです?」

「面白い現象だからね。近くで見たかった。それだけさ」


 男は妙なことを言ってきた。現象?なにそれ。

 しかし男はその言葉にたがわず、私のことをじろじろと眺めまわした。…視線から、性的なものは感じない。なんていうの?マウスの性別を確認しているみたいな感じ。


「ふふふ。こういう現象に会いたくて、僕ぁここに通ってるんだよ。やっと甲斐が出たというものだ。いやあ、面白い」

「…失礼じゃないですか?そんなに人をじろじろ見て」

「君を助けた対価だと思って我慢したまえよ」


 ちくしょう。好き勝手言いやがって。

 でも、助けられたのは本当だ。それに、コイツが急に手のひらを返した時、私は再び窮地に陥る。手を出してこないなら、黙って話に付き合うのが得策なようだ。


「…何が面白いんですか?別に私普通なんですけど」

「ははははは!」


 それを聞いて。男は愉快そうに馬鹿笑いを始めた。


「まさか無自覚とはますます面白い!君みたいなのが普通にいるのなら、僕ぁこんな退屈せずに済むだろうさ!」


 そう言って笑い続ける。何がそこまで面白いのかさっぱりわからない。ちなみに私の方は壮絶に面白くないけどね。

 そう言っているうちに、店員さんが紅茶を持ってきて私の前においてくれた。

 とりあえず男の馬鹿笑いは放っておいて一口。

 ……まっず。いや私もろくな紅茶なんて飲んだことないけどさ。流石にこんなかび臭くてざらざらとした雑味のある紅茶は飲んだことないよ?

 男はその様子も又面白そうに見つめながら、ようやく馬鹿笑いを終えた。


「ふふふ。いやあ、来てよかった。君、良かったらまた来たまえ。いろいろ観察しがいがある」

「いいえ、二度と来ませんので」


 そういうと男は嫌らしく笑い、すっとお札を私に握らせようとした。


「お金に困っているのは確かなんだろう?でなきゃそんな格好を君みたいな子がしているとは思えないよ。ここに来たら、ほら、簡単にお金が手に入るんだ。君はただ黙ってそこに座っていればいいんだから」


 その言葉に、私はすっと立ち上がった。

 勿論、お金は受け取らない。


「あんたに恵んでもらう筋合いはない」


 そう言うと男の嫌な笑みが消えた。顔に意外という表情が浮かんでいる。それを見て少しだけ溜飲が下がった。

 何のために、冴子さんの手さえ振り払ったと思ってるんだ。

 少なくとも、こんな男の前で笑われながら金を得るためじゃない。


「…本当にありがとうございました。もう二度と会わないでしょうが、御達者で」


 私はわざと仰々しくそうお辞儀をする。


「…ふふ。こりゃ残念。また会うことは、僕の方で祈っておくよ」


 男がそんなたわ言を言っているのも無視して、私はそそくさと店を出ていった。




 腹を立てていた。


 客観的な立場から見たら、今の私はダンジョン能力を使えないのに、馬鹿なことをって笑われるかな。


 でも惜しいとは思わない。


 勿論金はないし、だからこそあのお金だって喉から手が出るくらい欲しいよ。

 なんせ私、今後生きていくあてすらないんだし。


 でも、譲らない。

 少なくとも私は、まだ自分で生きるための努力をしていない。

 考えるのはそれをしてからだ。


 私はそう思いながら歩き続けた。いつの間にか、ダンジョンが出せない焦燥感が、怒りとやる気に変わっている自分が、我ながらなんとなくおかしかった。


 でも仕方ない。

 これが私だ。

お読みいただきありがとうございました。


はい。ということで、万能に見えるダンジョン生成能力の限界が明らかになりました。

だから、現代の建物での籠城暮らしは不可能なんですね。


ちなみに、本編に登場した「カフェ・雷音」は、当時の基準で見ても相当に不衛生な店です。時の全ての飲食店がああだったわけではないので、陽菜の運の悪さを察してあげてください……(ごめんね陽菜…)


次回。冴子パートです。

陽菜と合流したいと考える冴子ですが、そんな彼女の前にも目に見えない檻やしがらみが立ちふさがります。


「陽菜、どうなっちゃうの?」と思っていただけましたら、ブックマークや下部の【☆☆☆☆☆】(評価)で応援いただけると、とても嬉しいです!

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