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11話 服はただで、時計は六円

1章完結まで毎日19時更新中!


社会で生きていくために必要なモノ。それはもちろんお金です。

でも、右も左も分からない世界では、手に入れるのは意外と難しいと思っています。

 冴子さんの元を離れてから私が考えなければいけないことは二つだ。


 まずは新たなる拠点の確保。これにはアテがある。今から向かってもいいが、歩きでもそこまでかかる場所じゃないし、人目を考えればもう少し遅い時間がいいだろう。


 だから私がまずすべきことはもう一つのほう。

 金策だ。


 私は現在、正真正銘の無一文である。食事はダンジョンで作れるからなんとかなるとしても、この世界で生きていくには最低限のお金は欲しいところだ。活動資金としても命綱としても。


 だから、とにかく私はこの時代のお金を手に入れなきゃいけない。


 ということで、まず私は冴子さんから服と一緒にもらった風呂敷に一切合切を詰め込んだ後、神田あたりの店先をうろうろとしている。

 ありがたいことに、今度は誰一人こっちを見てはこない。この着物を買ってきてくれた冴子さんのおかげだ。もう冴子さんじゃなくて冴子様って呼びたくなるくらいだね。


 ちなみに物資は必要最小限にとどめた。コンビニは各地で生成できるのだから、電池などのコンビニの荷物を持って歩く必要は現状ほとんどない。だから最低限電池式充電器と予備の充電コード以外はまとめておいてきた。あとは着ていた服と靴、配信用の器材とか現代から持ってきた物、リュック、それらを全てまとめて風呂敷につつんでいる。


 それでも結構荷物なんだけどね…。


 これさ。考えてみたら、荷物をダンジョンにおいて出かけるってできるのかな?最初のコンビニから持ってきたものは特に問題なく置いて行けたけど、現代から持ってきたものってどうなるんだろ?一度実験する必要はありそうだよね。


 ま、それはそれとしてだ。

 今探しているのは古着屋だ。とにかくまずは現代から着てきた服を売ってしまうつもりでいる。あれだけめちゃくちゃ目立っていた服だ。今後着ることはまずないと思う。

 そして、出来ればこの時代の男物の服を手に入れておきたい。多分、金策をするにも出歩くにも、女の格好では問題が起きかねない。


「でも古着屋って神田みたいな立派な繁華街に場所にあるかな…。もっと普通の場所に行った方がいい?」


 そう思って、大通りから一本入り込んでみる。すると中小の店が立ち並ぶ光景が目に飛び込んでくる。

 うわ、例の表だけ立派に見える看板みたいな建物がいっぱい。通りから見たらモダンでしょみたいな、主張がうるさい和風建築がズラーと並んでいる光景、面白過ぎるね。ちょっとせっかくなので、コッソリ風呂敷からスマホのカメラをのぞかせて少しだけ動画にとっておいた。あとで配信に使おう。


 そうやってきょろきょろしていると、目的の古着屋はわりとすぐ見つかった。ガラス戸に『古着』『反物』『洋服』と書かれた紙をでかでかと貼ってある店、きっとこれに違いないだろう。


 引き戸のガラス戸を開けて中に入ると、防虫剤の匂いがツンと匂ってくる。表のなんちゃってモダンな雰囲気ががらりと変わり、そこにはザ・和風な光景が並んでいた。

 まず床が板敷。で、なんか竹竿みたいなのが渡してあって、そこに羽織とか帯がかかってる。壁際とかにかかってるあの布みたいなの、あれが着ものなのかな?で、奥の方が一段上がって、店の人がそこに座ったり立ったりしている。あれ時代劇で見た帳場ってやつ?


 感想。なんか江戸時代。


 だってさ。奥になんか座ってる人、使ってるの筆だよ。書いてるのあれでしょ。帳面ってやつでしょ。あ、算盤まであった。え?ここって昭和であってる?それともまた私タイムスリップした?


 そんな風に固まっていると


「いらっしゃいませ。何をお探しでしょう」


 若い男の人がそう言って声をかけてきた。やば。ボケッとしてた。怪しまれては……ないみたいだね。


「え、えっとですね。すこし古着を売りたいのと、それから男物の服を見たくってですね」

「古着ですね。女性ものの着物でよろしいですか」

「あ、いえ、洋服です。あと男性もの?だと思います」

「思います?」

「言い間違えました!はい!男性ものです!」

「…かしこまりました。まずは商品をお見せいただけますでしょうか」

「あ、ですよね。ちょっと待ってくださいね」


 私はサッと後ろを向いて身を隠すように風呂敷を広げる。…見られちゃいけないものがごちゃごちゃ入ってるからね。私はその中から、たたんであるシャツとワークパンツを取り出した。


「こ、これです」

「……見慣れない品ですね。これはどちらで?」

「あ、え、えっとですね。私こう見えて帰国子女でして」

「帰国子女?」

「あ、その、海外にいたことがありまして!向こうで買ったものです!はい」

「なるほど。……少々お待ちいただけますか」


 男性はすすっとそのまま服をもって引っ込むと、帳面を付けている男性のもとに言って何かをささやいている。


 ……え、もしかして早速やっちゃった…?

 一応変なことがばれないように、タグの類は全部切り落としておいた。大丈夫だと思うんだけど…、大丈夫だよね?

 そう思っていると、若い男性の代わりに貫禄のある男性がやってくる。多分店主かな。…大丈夫じゃなかったよ!


「失礼いたします。お客様、家の若いものも確認したと思いますが、こちらはどちらでお買いになりました?」

「え、えと、だから海外です」

「海外とはどちらになります?それにこれ、男性ものの服のようですが、どうしてこれをあなたが?」

「み、土産で買ってもらったものなのでどこで買ったかはわかりません!あと、その、父親…じゃなくて弟、弟の服を売って来いと言われまして!」

「ほう。弟さんですか。それをなぜまたお売りに?」


 え?なに、これ尋問?服売るのってそんなことまで聞いてくるの普通?…多分普通じゃないよね。ほんとやめてください。


「い、家が没落しまして…、そ、それで少しでも金になればと…」

「…ほう、それはまた御気の毒なことです」


 そう言って店主は黙ってこちらをじっと見てくる。みないでー。こっちみないでー。


「あ、あの、何かこの商品に問題がありました…?で、でしたら持って帰りますので…!」

「…問題などとてもとても。

 ……ただあまりに見事な縫製ですし、このようにとてもしっかりしたネルの生地でガラの付いた服など、不勉強なことにあまり見かけませんので。こちらのズボンにしても生地は綿のようですがこのように伸縮性のあるものは初めてです。

 これはもう、いかほどの値をつけようか、悩んでしまっておりましてな」


 ……あーー。はい。ずっといろんな人からじろじろ見られていたのはそういうことね。道を歩いていてもそうみられるのに、この人たち、プロですからね。そりゃー怪しまれない方がおかしいって話でしたよ。…気づけよ私!!!


 どうしよう。

 割と思った以上にやばい状態かもしれない。

 もうお金とか言っていられないかも。でも、ここで逃げ出すのはあまりに悔しい。


「そ、それなら、その、物々交換…というのは…?」


 ダメもとでそう言ってみる。それに対して店主は少し興味深げに眉を挙げて見せる。


「ほう?何と交換なさるので?」

「や、安物でいいので、男性用の作業着を…それと交換、ということで、どうでしょう」

「……男性もの、ですか?」

「お、弟のです!勿論!ほら、服を売っちゃうもんだから代わりが必要で…!そ、その、この服、縫製とか生地とか良いものなんですよね?なら、安物の着物と交換なら損はないんじゃないかなと…」


 そういう私の顔を店主はしばらく黙って見続けていた。

 沈黙が続く。…ねえ。なんかしゃべってー。辛い。辛いよ私。


「…まあ、見れば色々とご事情があるようだ。我々も、特に損をするわけじゃなし、それで構いません。おい、下の棚から見繕って差し上げなさい」


 ……ふうううう。見逃してもらったっぽいね。ほんと良かった。

 若い店員がひな壇みたいになっている棚の下から、半纏とゴワゴワしてそうな紺のズボンっぽいものを引っ張り出している。その時、詰まれているかごの一つに目が留まる。あ、あれもあった方がいいかも。


「あ、あの!」

「おや、まだ何か?」

「も、もしよかったらですが、あ、あのがま口、おまけしてもらえ、ません……?」


 その言葉に店主はまた少しじろじろと私を見たうえで、ふっと笑った。


「それくらいかまいませんとも。その代わり、今後もどうぞごひいきに」


 ……ありがとうだけど、二度と来ません。こんちくしょうめ。




 はい。ということで、男性の着物を手に入れるというミッションは無事クリア。でも現金は相変わらずのゼロ。


 あー。まあ、服なんてそんな高く売れないとは思ってたけど、なかなか厳しいなこれ。

 次どうするよ?


 現状、私がとれる選択肢は限られている。

 どっかに雇ってもらって金を得るにも就活のための活動資金すらないんだ。だから、できるのは持ってるものを売るの一択。


 まあ、どっかでダンジョン作って現代のもの売る手もあるけど、そうやって作られたものが本当に売ってしまって大丈夫なのかわからない。例えばだけど、急に消えてしまうことだってありそうだしね。少なくとも考えなしに売るのはやめた方がいい。


 なら、私は私が持っているものを売るしかないんだけど、さっきのことがあって結構気が重いんだよね…。


 まず私が持っているものの整理。

 まず、ハンチング帽とブーツは残っている。ハンチング帽はそんないい値段しないだろうし、ブーツはこれ人工革なんだよね…。綿のワークパンツを売るのだってあんなに難癖付けられたんだ。人工革がこの時代あるかは知らないけど、たぶん現代レベルのものはないよね。やめとこ。


 あとは?ジンバルとかマイクとかライトとかは論外。というかライトは必需品だからね。手放すのは不可能。

 他はノートと文房具。文房具は結構こだわったものがいっぱいあるから、これなら売れるかな?いや、どうかな?シャーペンとかマジックとかマーカーが売れるかは微妙だし、はさみは服のタグを切った時みたいに、何かのためにとっておきたい。

 あとは、ペーパーナイフか。でもこれは古くて汚れてるからあんまり良い値段にならないよね。気に入っているし母さんからもらった大事なものだからこれもダメ。


 こう考えると冴子さんにボールペンを渡したのは、私の生存を考えると結構悪手だったのかもしれない。あれは、結構見た目も高級感があってこの時代でもそれなりの値段になったんじゃないかと思う逸品だ。なんせ1万以上したんだからね。それくらいにならなきゃ逆に怒る。


 でも、一方で、ああやって冴子さんにあげてよかったとも思う。

 今、手元にあのペンがあったら私は手放す選択肢しか取れないだろう。どんな値段であっても涙をのんで買いたたかれるしかない。

 あれもまた、大事な記念品のボールペンなんだ。知らない誰かに適当に扱われるくらいなら、冴子さんが使ってくれた方が絶対いい。


 しかし、こうなるとほんとなんもないなあ。

 と、ふと、一つ思いついたものがあった。腕時計だ。よく時間が遅れるものだから、カバンに放り込んだままにしてたやつ、あれがあった。


「古いやつだし、アナログ式のやつだし、これなら普通そうに見えるんじゃない?」


 見る人が見れば多分違うんだろうが、ぱっと見ですぐに判断できる違いじゃない、とおもいたい。


「これはアレだね、さっきの反省を生かして専門じゃないとこに売っちゃいたいよね」


 時計の専門じゃないけど、時計を買ってくれるところ?どこそこ?

 こっそり風呂敷からスマホを出す。ささっと調べよ。ん?質屋?

 はー。なるほどね。質屋質屋。質屋ってどんな見た目……?

 AIさんによると㊆みたいな文字が書かれている看板を探せばいいみたい。七って…。日本人昔っから語呂合わせ好きだね。


 ということで、そのマークがあるお店を探してみる。

 お、あったあった㊆マーク。割とすぐ見つかったよ。看板で店を探すって、意外と何とかなるもんだね。先ほどの古着屋と違って、今度はなんかイメージ昭和の商店って感じの木造の建物。うん。なんかこっちのほうが落ち着く。


 ということでやっぱりガラス戸をがらりと開けると、棚に物が雑然と置かれている。うわ…なんか〇ンキをおもわせるね。まあ、こっちの方が圧倒的にカオスだけど。ラジオの横に壺みたいなのがおいてあってその横に本が積んであるとかね。後、薄暗くって埃っぽい。あと防虫剤臭いね。なんなの?この時代の基本の匂いなの?これ。


「あ、時計もある」


 よかった、これならいったん売ること自体は問題なさそうだね。でもどうやって売るんだろう。さっきみたいに店員さん来てくれないし。ちょっと奥にいる男性に声をかけてみる。


「あ、あのー」


 声をかけると、


「…へい。何をお探しで」


 おい。それ接客態度どうなの。


「あ、探しているんじゃなくて、ちょっと売りたいものが――」 


 そういうと相手は、チッと舌打ちをする。


「そんならこっちじゃねえ。一度外出てからそっちまわんな」


 そう言って顎で横のほうを示す。

 何と入り口が違ったらしい。え、でもお店の看板かかってたし、ここじゃないの?

 頭にはてなマークを付けながら、とりあえず外に出てみる。他に扉?んん?ないけど?

 さっきの人が横のほうを顎で示してたからちょっと路地の方を覗いてみる。


「ん?もしかしてあれ?え、あれが店の入り口?」


 よーく見ると、路地側にもう一個小さな木の戸のようなものがあった。ちょっと背が低くて私でも潜って通るような作りになっている。

 え?これであってる?これ入っちゃって大丈夫?


 しかしあの従業員が言ったのだ。きっとあってるだろうと信じて引き戸を開けて中に入る。

 そこはさっきの商品が並んでいたのとは全く違う光景が広がっていた。まず狭い。4畳半くらい?なんか土間から結構高いところに板の間があって、かなりがっしりとした木の格子でくっきり仕切られている。格子の一部には、なんか小さい窓がある。…あれ、食事差し入れる窓みたいにしか見えないんだけど。というか、ここ本気で牢屋なんじゃない?


 そうやって黙っていると、また舌打ちが聞こえてきた。


「用があるなさっさとしろぃ」


 高いところから見下ろされている感じ。牢屋に入ってみえる側が偉そうって不思議な光景だよね。


「あ、その、これを売りたくてですね」


 これどうやって渡せばいいの?やっぱりこの小窓かな。とりあえずそこに腕時計を入れてみる。

 偉そうな男はそれを受け取り、少し目を丸くした。


「こ、こりゃ…」


 そう言って、腕時計の盤面のガラスを触ったり、なんかルーペでまじまじ見たりしている。……さっきの再来?え、時計もやっぱりそんなに変?

 男はそのまま腕時計をもって奥に引っ込んでいった。…持ち逃げとか、しないよね?流石にそれは信じていいんだよね?

 すると、少しいかつい顔の男が代わりに出てくる。

 男は何も言わずに私のことを頭から足元まで何度も見まわす。少しゾワリと背筋に鳥肌が立つ。


「……嬢ちゃん。正直に言いな。これ、どこで手に入れた?」


 またかよ。

 いい加減尋問なしで商売してもらえませんかね。


「父親のものです。その、商売で失敗してしまって」


 はい。再度、没落したいいとこの子設定使います。二度目なので特にどもらない。

 しかし男はそれを鼻で笑った。


「こんな時計持ってる家なら、もう少しましな格好できるだろうが。――これ、盗品だろ?違うか?」


 …今度はそう来たか。

 すこしカチンとした私は、相手をにらみ返す。なんか威圧的にされると逆に肝が据わってくるな、私。


「違います。間違いなく私のうちのものです。変ないちゃもんはやめて、あなたの仕事をしてください」


 その言葉に男話ふっと鼻で笑った。


「いちゃもんと言ってくるのがいい証拠さ。嬢ちゃん、これがどんだけとんでもねえもんかまるでわかっちゃねえんだろ?」


 その言葉に少し冷や汗をかく。やはり時計もこの時代的にアウトだったみたい。古くて安物だから、大丈夫かなと思ったのにな。

 しかし男の態度が気に食わないのでそれは意地でも顔に出さない。


「父が買ってきたものなので、それほど特別とは思いませんでした。ならばきっと高く買っていただけそうですね。良かったです」

「ふん。あくまで白を切る気か。じゃあ、警察呼んでも困らないと、そういうことでいいんだな?」


 男が低い声を出して私に顔を寄せてくる。

 こいつ恫喝するつもりだ。


 ……つまり、コイツにはこれを手に入れたい欲があるってことだ。


「ええ。勿論です。……でも、警察呼んで騒動になって、そしたらその腕時計は少なくともこちらのものではなくなるでしょうね。そんな品、手に入る機会はもうないんじゃないですか?」


 ハッタリをかます。

 きっと男はこの腕時計の価値を相当高く見積もったんだろう。だからまずいものであっても手に入れたいんだ。そう判断した。

 そうでなきゃ始めから断るかさっさと警察を呼べばいいんだ。

 平気な顔を崩さない私に男は舌打ちをした。さっきから舌打ちしすぎだろこの店。


「…生意気な女だぜ。厄介な品を扱うんじゃ逆にこっちの尻に火が付くってことがある。それを加味して……まあ、おまけして五円ってとこだ。それが嫌なら持って帰んな」


 男はそう言って腕時計をこちらにつき返してきた。


 五円。

 ……どうしよう。それ高いの?安いの?

 そんな基本的なことが私にはわからない。どうしよう。出直すべき?他のところに持ってく?


「いっとくがな。他じゃ、お前みたいな小娘が持ってきたそんな危ないもん絶対に取り扱っちゃくれないぜ。よおく考えて決めるこった。どうするよ」


 相手は余裕しゃくしゃくという表情だ。

 畜生、足元見やがって…!

 悔しい。だが、多分男の言うとおりだ。一目見てあれだけ劇的に反応するような代物だ。状況によっては、もっとひどい目に合うことは十分考えられる。

 それを思えばここで出来ることをすべきだ。


 私は出来る限り落ち着いて、今日調べたこの時代の金銭感覚について思い出していく。

 たしかかけそばは十銭くらいのはずだ。今の感覚だと、1円のイメージは五千円か六千円くらいになるのかな?なら、五円は二万五千円?…それであんな反応絶対しないでしょ。絶対、ぼったくられてるなこれ。


「……十円で」

「馬鹿言っちゃいけねえ。帰んな」


 くそ。余裕だな。現代日本でこんなやり取りしたことないんだよ。そのうえ相場感覚もわかんない。


「…七円」

「下手な交渉はやめろ、嬢ちゃん。ま、あんたの意気に免じて六円にしといてやる。それ以上欲かくんじゃねえ」


 欲かいてるのはてめえだろうが!

 しかし、仕方ない。今の私に、カードはないのだ。


「……わかった。六円で」

「ほいよ。帳面は…まあ今回はいいか。ほら六円だ。落とさないように気を付けな」


 男はそう言って、小さな窓から、紙幣をよこしてきた。そうか。この時代の一円って紙なんだ。

 私はそれを受け取ってがま口に入れた。


 何はともあれ、これが私の資金になる。

 一応はかけそばならば60杯食べれるし、必要なものを買うことも、いざとなったらどっかに泊まることもできるようになった。

 ここはいったん引き下がろう。



 私は悔しい思いを引きずりながら、さっきの狭い入り口をくぐる。



 見てろよ。いつか絶対見返してやるからな。

お読みいただきありがとうございました。

……地味!! 必死の交渉で手に入れたのが「六円」なんて、Web小説の主人公としては地味すぎると思われるかもしれません(書いてて私も思いました)。

しかし、庶民では日給が1円〜1円50銭程度という労働者も多いので、身元不明の無一文の身としてはかなり健闘した方です。


さて、お金を手に入れた陽菜。次にするのは……なんと豪遊?!乞うご期待。

「陽菜、まけるな!」と思っていただけましたら、ブックマークや下部の【☆☆☆☆☆】(評価)で応援いただけると、とても嬉しいです!

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