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9話 未来への切符は捨てない

1章完結まで毎日19時更新中!


暗い気持ちに囚われた時、どうしようもなく眠れないとき、陽菜が頼るのはやはり動画なのでした。

 新しいコンビニでの夜は、ほとんど寝ることができなかった。


 頑張ってやっと寝入っても、得体のしれない沢山の腕がのどに絡みつく悪夢に、すぐに目が覚めてしまう。


 夜は、いつだって長すぎる。

 安らぐことのできない私にとって、昔からずっと夜は暗い牢獄だ。


 だから起きて居たかった。

 向こうにいた時は、くそ親父がいびきをかいて寝入ったすきに動画を見あさった。

 独り立ちしてからも、夜はどうしたって押しつぶされそうな気持が襲ってきた。だから、やっぱり動画を見たり、思い切ってオカルトスポットに行ってみたりしていたのだ。


 でもここでは、それもできない。バッテリーの無駄遣いはできないし、夜歩くのは危険すぎる。


 ……でもあれか。

 こうやっていろんな場所にコンビニ作れるなら、単三電池は割と無限に手に入る。なら、もうそこまでちまちま節約しなくてもいいか。

 もう正直色々限界を超えているんだ。せめて今日くらい我慢するのはもうやめてもいいかもしれない。

 

 いいや。どうせ眠れないならもう起きちゃおう。


 私はぱっとLEDライトをつけ、スマホを起動する。

 そうだよ。さっきの動画、確認しよう。

 見てみると、さっきのネカフェの動画も視聴数は馬鹿みたいに伸びている。反応は結構ぼろくそ気味だけど。リアルタイムでも食いついてくれるような視聴者と違って、一般的な視聴者にとってはいきなりインチキ臭い方向に走ったと思ったのかもね。


「あーー。黄マークついてるよ…」


 動画の最後の方でちょっと亡者が映っているのがアウトだったのだろう。

 収益はほとんど見込めないが、まあ仕方ない。前回の動画でしっかり稼げたのだ。今回はついてなかったとあきらめよう。


 というかBANされなくてよかったよ…。

 考えてみたら、実は結構ギリギリだったと思うんだよね。動画の内容は、言ってしまえば拉致未遂と武器使用の記録映像だし。

 幸いだったのがあのボイスチェンジャーだ。あれ、他の音声はノイズとしてキャンセルされるみたいで、音声がだいぶ聞きづらくなっている。そのおかげで、あの女の声とか私が取り押さえられた様子とか音があまり目立たない。

 これAIがもっとしっかりして声をちゃんと拾ってたら、犯罪の一部始終を生で撮った有害で危険な動画として、アカウント凍結も普通にあり得たよなあ。

 いい感じにぼやけたことでただ暗いネカフェで逃げながら与太言っている動画で済んだという感じだろう。その意味じゃめっちゃついてたよね。


 そんなことを思いながら、自分の動画を見直していると


「あ」


 思わず声が出た。


 動画の最後、冴子の姿が映っていたのだ。


 月の光を背にまっすぐこちらを見て必死に叫んでいる姿。

 それだけで、私を助けに来たことがよくわかる。


 美しかった。


 掛け値なく、まさに奇跡の一幕だ。


 思わず涙が出る。


 不思議なことに、さっきみたいなしょうもない妬みはわいてこない。

 動画を見る場合、客観視ができるということなのだろうか。


 ただ、きれいだ。


 そして―――嬉しい。


 こんなどうしようもない自分を、迷いなく救ってくれる彼女が。

 そんな彼女が存在しているという事実が。

 ただ嬉しい。


「ふふ。動画でも、冴子さんだけは大人気だね」


 コメント欄がわいているのが、また嬉しい。みんな、彼女を救世主とか女神とか書いている。


「ま、あの子の魅力、こんなもんじゃないけどね」


 あの時、階段の上にいた彼女は、もっと素敵だった。それを見たのが私だけだという優越感になんとなく笑顔がこぼれる。


 ……冴子さん、明日も本当に来てくれるのかな。


 我ながら調子がいいと思いながらも、そんなことを思う。


 来てほしいと思う私と、来てほしくない私がいる。

 この世界でただ一人の知り合いで、私の味方をしてくれる人。命の恩人。そんな彼女に会いたくないわけがない。


 でも、会っていいのかなとも思うのだ。こんな彼女に対して、私は何一つ返すものがない。なのに、私はこれからまた、服とかで迷惑をかけようとしている。


「…これはもともと私の問題なんだ。私だけでどうにかするのが筋だよね」


 そうだ。彼女に頼る前に、ちゃんと私ができることを考えよう。


 ネカフェで起きたもろもろのせいでケチが付いたように見えるが、ダンジョン生成能力は依然、私の武器であり続けている。


「前回踏み込まれた原因は、扉がついていなかったからだよね。つまり、扉がある建物で、ちゃんと扉を閉めていれば大丈夫なはず」


 多分扉というのが異空間との接点の役割を果たしているんじゃないかな。それが開いているということは異空間自体が表に出ている状態、逆に閉まっているということは異空間が完全に独立している状態なんだと考えられそうだ。

 その制約を正しく理解すれば、拠点にできる場所はある程度見繕える。

 それに使い方もだいぶわかってきたことも大きい。イメージを絞ってある程度コントロールすれば、出来ることはそれなりに多そうだ。


 ただし、過信は禁物だ。


「私が不安定なときに出すのはNGだね。なんせ下手したらあれが――」


 そう言いかけて、のどがひきつる。

 あの亡者たちを思い出すだけで、のどに冷たいモノが触れたような気がしてしまう。


「だ、大丈夫!いま、ここにあ、あれは現れない!」


 大声を出して、無理やり平静を保つ。深呼吸。深呼吸だ。

 ふぅ。なんとか落ち着いたかな。


 …うーん。こういうこともあって、いまいちこの力を信じ切れないんだよね。まだまだ私の気づいていない制限がきっとあるだろうし。


 この武器を使うことを恐れてはいけない。

 しかし、無条件にこの能力に頼ることも、もうできない。


 ならば。

 私は、この1928年側でも、生計を立てる算段を立てないといけない。


 ……それなら、やっぱりこの世界の服は必須だね。それがなかったら、ほとんどまともに活動できないもん。

 そして、それを買うお金なんて私にはない。その意味で、とても申し訳ないけど、冴子さんの申し出はひたすらありがたいというしかない。


 ただ、絶対に、その後もずるずると頼っちゃだめだ。


「…大丈夫。私には、もう一つ、未来知識のチート能力があるんだ」


 今までそれが生きた瞬間は一度もなかったが、この世界の服を手に入れてまともに動けるようになったなら、きっと大いに役立つはずだ。

 ならば私がするべきことは、この時代の知識を、とにかく調べまくることだ。


「…やっぱり、できるなら当時の新聞が見れるようにしたいな」


 ネットで調べるにも無料で拾える情報には限りがある。私に必要なのは一般知識レベルを超えたこの時代で生きていくための生の情報だ。有料サービスの契約は本気で考えた方がいいだろう。

 幸い、現代側のお金は、今回の収益でかなり潤う予定だ。

 しかしだ。この先どんなことが起きるかわからない。万が一だが、本当にBANされることも考えると、何も考えずに動くわけにもいかない。


 一度、現代側での支出関係について、何を維持し、何を手放すか、整理しておいた方がいいだろう。


「スマホは必須。私のアパートも、維持したいな」


 心情的にもあの私の城を手放したくないというのもそうだし、奇跡的に向こうに戻れた時にまた居場所探しから始めるのは避けたい。それに、ちょっと考えていることがあるしね。


「必要のないサブスクは解除して……あ、これどうしよう…」


 通信制の高校の学費だ。


 割と馬鹿にならない額である。向こうでの高卒資格なんて、ここでは何にもならないし、勉強している余裕なんてない。諦めるべきだろう。

 でもどうしても諦められない。

 …こんな事態になって、高校なんて笑われるかもしれないんだけどさ。

 でも今私が所属している高校は、ありがたいことに登校が一切不要という時代に先駆けたシステムを採用している。最先端AIの利用もあって、テストすらオンラインで受けられるのだ。

 だから、やろうと思えば、まだ通うことはできる。

 あとすこし。単位としてはあと半年通えば9月には卒業できる。上京して、生活がカツカツでも通い続けた学校なんだ。

 お前には不要だと言ったあのくそ親父を見返すため。私自身が誇りを得るため。決して手放したくない、未来への切符。


「いいや。残そう」


 もうどうしようもなくなったらもう一度考えよう。

 整理が済んだので、新聞記事データベースのサービスを一つ契約する。


「これでよし、と。じゃあ改めて情報集めと行きますか」


 裏でAIにいろいろリサーチをしてもらいながら、新聞記事をいろいろあったっていく。

 しっかし、当時の新聞、相変わらず読みにくいよなあ…。動画のための調べモノでちょっと当たったことはあるけど、正直慣れない。文字が不鮮明だとか、次どこを読んだらいいかわかりにくいとかのもあるけど、まず字が普通にむずすぎるんだよ。こんなのよく読んでたね、当時の人。


 しかし、当時の感覚をつかむにはこれ以上ないくらい役に立つ。それくらい雑多に社会の色々なことを取り扱っている。面白いのが、たまにだけど、普通に幽霊の記事とか古だぬきの記事なんかが出てくること。当時のリアリティって何というか、すごい混とんとしている。

 そういえば、冴子さんも超能力とか信じてたし、それもこういう新聞によるところが大きいのかな。


 そんなこんなで、ところどころ文字をAIで読み取ってもらいながら私は今から数日分の新聞を悪戦苦闘しながら読みふけった。気づいていたら夜が明けてたよ。


 いったん、目がしばしばするので休憩。なんだかちょっと頭重いしね。



 軽く動画を見ながら休憩。

 繰り返し冴子さんの動画を見ているあたり、私、病んでんなーとか思うけど気にしない。

 こんな世界に独りぼっちなんだ。つながり、大事。これ絶対。


 ……あ。つながりと言えば、2028年側のつながりについても、清算は必要だよね。


 明るくなって電話かけられる時間になったことだし、いつまでも後回しにはしてられない。

 残りの清算を済ませてしまう。


 まず大家さんに当分留守にする旨を連絡する。初めはすごく嫌そうな声を出していたのに、振り込みは続けると伝えるとあっさり引き下がるあたり、現金な人なんだよね。だから、私に部屋貸してくれたんだけどさ。ついでだから、郵便物とかが着ていたら、いったん部屋に放り込んでもらうよう言っておく。


 そして、次だ。


 ……店長への、退職の連絡だ。


「――おはようございます。朝霧です」

「朝霧君!少しは落ち着いたのか?全く、一昨日は無断遅刻の後いきなり逆ギレするんだから、どうしようかと思ったよ。全くさ、そういうの、社会人としては一番あり得ない対応なんだよ。君も成人になったんだから――」


 あ、お小言モードに入っちゃった。流石に頭が重い中聞いていられないし、さっさと要件言っちゃおう。


「その節は…その、すみません。それで、ちょっと、お話が」

「なんだよ。僕の話は聞けないってのかい。一応これでも君の雇い主だし、大人としての――」

「バイト、続けられなくなりました」


 その言葉に、店長の言葉が止まる。

 その沈黙に少しだけホッとする。―――それは彼が私のことを考えてくれている証拠だからだ。


「……言いたくないなら答えなくていいけど…。その、お父さんのことで何かあったのかい?」

「あ、それは大丈夫です!その、……別の理由で………」


 2028年の東京で、私の家族のことも、家出して上京していることも知っている、数少ない大人。

 それがこの店長だ。

 だからこそべきか、それなのにというべきか。

 色々アウトな私の状況を知ったうえで、彼は私を雇ってくれた。

 

「………そうか。……あー。あのね、常々言っているけど、そういうことはいきなり言うことではないんだ。前々から伝えてくれないと、周りに迷惑がかかる。最低限一か月前に言うのが常識だ。……ちゃんと相談してくれないと、困るんだ」


 店長はそう言って小言を続ける。

 嫌味で、ねちっこくて、やかましくて。

 嫌いな店長だった。私をまるで子供みたいに扱うから。

 私ひとりで生きていく、そんな気持ちを溶かそうとしてくるから。


「………その、大丈夫なのか?頼れる人は、いるんだろうね?」

「……はい、大丈夫です。ちゃんといます」


 だから私は嘘をつく。だって泣き言言ったってもう店長は私を助けることはできないから。

 その答えに、店長は思いっきりため息をついた。


「ほんとうにもう、君ってやつは……!いいか!いったん辞表は受け付けるけど、何かあったらちゃんと連絡するんだ!すぐ一人になろうとするな!」


 それに対して、私は少し涙を浮かべながら答える。


「はい…。また、きっとまた、連絡します。――今まで、ありがとうございました」


 それだけは、本心だった。



 はい。おしまい。

 あーー。本当に、最後まで嫌な店長だよ。おかげで泣いちゃったじゃんさ。


 まあ、とにかくこれで、現実世界側の心配についてはいったん考えなくて済んだかな。

 だから切り替えろ。私。

 いつか、ちゃんと店長に胸張って連絡できるようになるためにも、まずは、こちらの世界で生きていくことに集中だ。

お読みいただきありがとうございました。

動画を見ることで気持ちを立て直し、心機一転、現代の清算をいったん済ませた陽菜。

ここで高校という選択を捨てないのが、愚かしくも彼女らしい部分ですね。

そしてコンビニ店長、まさかの再登場です。ひそかに重要なキャラクターなのでまたどこかで出てきます。


さて、次回ですが、冴子との合流を果たした後、陽菜はある決断を下します。

「陽菜、負けないで」と思っていただけましたら、ブックマークや下部の【☆☆☆☆☆】(評価)で応援いただけると、とても嬉しいです!

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