少女の呟き
魔族とノルディアの休戦ラインに存在する非公式の交易所。
その日の夜、銀髪を靡かせた若い人間の女性に呼び出されたその魔族の男はすべてが終わってから少しだけ時間が過ぎたところで立ち上がると、笑みを浮かべて振り返る。
そこには少女が立っていた。
「……戻りましょうか」
その男グワラニーはその少女に声をかける。
少女はその言葉に小さく頷く。
そして、囁くようにこう呟いた。
「……ありがとうございます。グワラニー様」
少女はわかっていた。
これが自分に対するグワラニーの気遣いであることを。
そう。
自邸には常に魔術師が駐屯している。
だから、至急の呼び出しであればわざわざ自分を呼び出さずにすぐに移動できた。
しかも、深夜。
多少なりとも気が利く者なら遠慮する時間である。
それにもかかわらずグワラニーは自分を呼び出した。
そこで結構な時間を費やした。
もちろんグワラニーは「相手が相手です。それに見合うだけの力を持った者でないと困るのでお願いします」などと謝罪したが、それは単なる言い訳だ。
本当の理由は自分に変な心配をさせないため。
……言わなくてもわかります。
少女は手をつなぐ相手の顔を見ながら心の中でそう呟いた。
そこにその男から新たな言葉がやってくる。
「深夜に仕事させたコリチーバたちに何か食べさせなければなりません。一緒にどうですか?」
これでも男からの誘い。
むろん断る理由などデルフィンにはない。
「もちろん。喜んで」
それは少女の返答だった。




