ナニカクジャラの夜のできごと
「彼女の力をどう見ましたか?アリスト」
最初の雄叫びによって襲撃開始に気づき、ベッドから這い出し、それでも身なりは完璧に整えて現れたフィーネの問いに、見張り台の上で結界の維持を務めながら、将来の脅威となる少女の力を目に焼き付けていたアリストの口から漏れ出したのは答えというより驚きと苦々しさが混ざり合った言葉と言ったものだった
「そうですね……」
「私のほぼ全力といえる結界を抜けたうえにあれだけの威力を持つ風魔法」
「魔力をあるのはわかっていましたが、扱いが難しい風の魔法をあれだけ自在に操れるというのは相当な才があると言わざるを得ませんね。彼女は風魔法に特別に相性がいいのかもしれませんが、そうではなく、どの魔法もあれと同じだけ扱えるということであれば……」
「魔力は同等でも才は私より上と言わざるを得ないでしょうね」
……アリストより上。つまり、治癒魔法を除けば私よりも上ということですか。
フィーネは呟き、敢えて自分と比較したアリストの小さな配慮に心の中で礼を言う。
薄く笑い、それから隣に立つ男を見やる。
「攻撃魔法や防御魔法は、治癒魔法ほどには土台となる知識と経験が影響することはないはずですが、なぜ彼女は習得が難しい風魔法をあれだけ自在に操れるのでしょうか?」
「それは……」
「おそらく有能な師についていたからでしょうね」
フィーネの問いに対して一瞬よりかなり長い時間をかけて考えた後、口を開き、自嘲するような笑みを伴ってアリストはその言葉を口にした。
アリストの苦みのある言葉はさらに続く。
「つまらぬ制約のため、私には師がつくことはなく、資料はあったものの、魔術師としての歩みはほぼ独学。フィーネに関しては私が師のようなもの」
「それに対して、彼女の師は魔術師長と呼ばれているあの老人。あの老人は自身に才はあるだけではなく、多くの弟子を持つ魔術師団の長。ということは、これまで魔術師団に蓄積された多くの知識がある。それを彼女に伝えた。あれは才と魔力がある彼女に老人が長い時をかけて集めた多くの知識を注ぎ込んだ結果ということになると思われます」
「なるほど」
……やはり教育というものが重要ということですね。
妙な表現ながら納得したフィーネは小さく頷く。
……アリストがそこまで言うような者が相手ということであれば……。
……マジャーラ軍の惨状も当然ですね。そして……。
……彼女の傍らにあの男がいる以上、仕事は完璧におこなわれる。
……ファーブたちの出番はないですね。




