ゴブリン
アルトがダンジョンから出ると目の前には広大な森が広がっていた。背の高い草に隠れて地面に顔を出す木の根も多くあり、足元がかなり悪い状態だ。
「ご主人様、ダンジョンの外は森になっています。」
『森か。視界が悪いだろうしスライムたちを広げて適宜索敵しながら進め。』
「かしこまりました!」
レクスの指示に従いアルトを中心にするように三重の円のようにスライム達を広げ、自分の周りにも数体スライムを配置し、突然襲われても対処できるようにした。慎重にしばらく進んでいると外側のスライムが交戦を始めたのをアルトは悟った。
「そちらですか!」
交戦を始めたスライムの元へ向かうと二体のスライムが襲われていた。肌は緑色で背が低く、醜い顔で棍棒を振り回す十数体の魔物を見つけた。
「ご主人様、相手はゴブリンです!」
レクスに報告しながらゴブリンの小さな群れに魔法を放つ。アルトに合わせて付き従うスライムたちもゴブリン目掛けて魔法で攻撃を行っていた。
突然の増援にギョッとしたゴブリン達は慌ててその場を走り去って行ったため其の多くを討ち取ることは出来なかった。
『ゴブリンか、厄介だな。』
「スライムの私が言うのはおかしいかもしれませんが、ゴブリンなんて脅威ではありませんよ。」
『確かにゴブリンは強い魔物では無いが場所が問題だ。なによりあいつらは数が多い。今交戦したゴブリンの数は何匹だ?』
「十は確実に超えていました。」
『となると状況はあまり良くない。今すぐその場から下がれ。』
アルトはレクスに絶対の信頼を寄せている。しかし、先程蹴散らしたゴブリン相手にここまで慎重になるレクスに対して疑問を抱いていた。
「先程も難なく追い払えました。このまま突き進めば楽勝ですよ?」
『いいから早く下がれ!恐らく交戦したのは相手の斥候だ。お前が前に出たおかげで主力の位置を敵に教えることになった。本隊がすぐに押し寄せてくるぞ!』
珍しく声を荒らげながら指示を出すレクスに渋々従って下がろうとしていると、アルトは無数の視線を感じた。次の瞬間、先程蹴散らした何倍ものゴブリンたちが波のように襲いかかってきた。
「くっ、囲まれました!」
戦闘力はアルトの周りにいるスライムの方が高いだろう。だが、ゴブリン達はその数で対抗してきた。スライム達は魔法で処理したゴブリンの何倍もの数に群がられて絶命していく。
『退路を開け!後方に魔法を集中させて包囲が薄くなったところを食い破って離脱しろ!』
「はい!」
短く返事をし、すぐにレクスの指示に従った。正面から押し寄せたゴブリンは横に展開して退路を塞ごうとしていたが、それはまだ完全では無いため付け入る隙はそこにあった。
魔法を後方に集中させ、なんとか包囲から抜け出して急いで下がるとゴブリン達は無理をして追ってくることはなく、後退に成功した。
『アルト、相手を侮るな。そこにいるのは野良のゴブリンではない。魔王に従うゴブリンは狡猾で格上の魔物を群れで襲う厄介な種族だ。』
「はい……申し訳ありませんでした……」
アルトの戦闘力は確かに高いが戦闘経験自体はかなり浅いため常に移り変わる状況に的確に対応することが難しかった。なにより主の指示を疑い、すぐに行動しなかったせいで危機に陥ったことが悔しくて仕方がなかった。
『こちらの索敵は機能しているか?』
「既に何匹か倒されて敵の位置は把握できていません……」
そう答えると念話越しに聞こえるレクスの溜息に震えた。ガリムがレクスに対して思い上がるなと言っていたが、レクスは全く油断はしていなく、むしろいい気になっていたのは自分だと気付かされたのだ。
『再度索敵を始めろ。同じミスはするなよ?』
「かしこまりました……」
先程の戦闘で数を減らしたスライムを新たに召喚し、索敵に向かわせる。その姿は親に叱られてしょんぼりする子供のようだった。
アルト頑張れ〜




