メイド
「魔王レクス様。少々お時間よろしいでしょうか?」
アルトに新しい服を用意するために商業区に向かうと馬車を操る御者に呼び止められた。声に従い足を止めると、馬車の中から出てきたのはこの街で世話になっている商人のロバートだった。
「これはこれは。ちょうどあなたに会いに行こうとしていた所でしたが運がいい。今日はお出かけですかな?」
「そうなんです。アルトの顔が割れてしまったので変装用に新しく服を用意しようと思っていました。」
「なるほど。それでしたら我が商会でご用意しますぞ。どうぞ、馬車でご案内しましょう。」
「それは助かります!」
「ロバートさん!ありがとうございます!」
ロバートはレクスの横に立つ女性が誰なのかわからなかったが今の一言で全て察し、アルトの擬態能力に目を見張った。
「いやはや、アルトさんは実に見事に化けているようですな。おっと、その話はまた機会がある時にしましょう。実はレクス様にお渡ししたい物があるのですぞ。」
レクスとアルトが馬車に乗り込んだのを確認し、本題を切り出すとロバートはずっしりとした袋をレクスに渡した。
「中には金貨五十枚入っておりますので今後お役立てしてもらえれば幸いですぞ。」
「ちょっと待ってくれ、五十枚?ロバートさん、こんなに貰う訳にはいきませんよ。」
「何を言いますか!レクス様のお陰で我らはガッポガッポですからな!我が商会からの感謝の気持ちですので受け取って貰えないと困りますな!」
レクスはホッホッホとご機嫌に笑うロバートと金貨の入った袋を交互に見て諦めたように苦笑した。
「ご主人様、それってお金ですよね?貰ったらまずいのですか?」
「まずいことは無いが、一般的な三人家族の一月辺りの出費が凡そ金貨一枚って言われているんだ。」
「う〜ん、なるほど!よくわかりませんが沢山頂いたのですね!」
魔物のアルトには貨幣価値を理解するのはまだ難しいようだ。そう判断したレクスはアルトに金勘定をさせるのは控えようと心に決めた。
「もし足りなくなれば言って頂ければまた融通しますぞ。むしろ我が商会の物を利用して頂けると宣伝にもなりますので気に入ったものがあれば無償でお譲りしますぞ!」
ムフー!と鼻から息を吐き出し、この短い時間の中で商談をするロバートは商魂逞しい一人前の商人の姿に他ならなかった。
そんな話をしているとロバートが所有する店の一つに到着し、ロバートの案内で店の中をみて回るがレクスは女性の服に疎く、アルトに関してはそもそも学園の制服しか持っていないため善し悪しがまるでわからなかった。
「ご主人様、どんなものを選べば良いのか全く分かりません……」
「俺もそこまで詳しくないからどうするか。ロバートさん、オススメはありますか?」
「ふむ、常に付き従っている様子ですしヴィクトリア風の物を改造したこちらなどいかがですかな?」
何を言っているのか全く理解できない二人だったがロバートの言葉を合図に店員が二人の前にメイド服を持ってきた。襟とカフスは白く、それ以外の全体が黒のワンピースとフリルをあしらった白いエプロンドレスの組み合わせだ。エプロンドレスと同じく白いフリル付きのカチューシャもセットだと言う。
「ご主人様、メイドってなんですか?」
「簡単に言えば仕えてる相手の世話をする人物を指すんじゃないか?」
「わかりました!じゃあ私これがいいです!」
「お役に立ててなによりです。このまま着ていくなら奥で着替えることもできますぞ。」
ロバートは店員にアルトを案内させようとしたがアルトが断った。
「いえ、ここでメイド服を吸収して同じものを魔力で纏うので大丈夫です!」
そう言うとアルトは一度スライムの姿に戻り、店員から受け取ってから嬉しそうに抱きしめていたメイド服を体の中に吸収していった。そうしてメイド服を身体の中で溶かし切るとメイド服を着た変装用の姿のアルトがそこにいた。
「どうでしょう、似合っていますか?」
「まあ悪くないんじゃないか。」
「ありがとうございます!」
無事にアルトの新しい服を手に入れることに成功し、気を取り直して街を見て回ろうとレクスは考えていると店の中に新たに客が入ってきた。
「魔王レクスだな?お前に決闘を申し込む!」
せっかくの休日だったが、招かれざる客のせいで予定は大きく狂い出すことになるのだった。




