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第83話 (怒)

「妻百合だ……」「妻百合初音だよ」「またなにか起きるぞ……」


 2年生の先輩方の教室に入った私を待ち構えていたのはそんなひそひそ声。居心地の悪さを感じながらも用心棒として連れてきた永谷園さんのリーゼントのおかげで事なきを得ます。


 こんにちは、妻百合初音です。

 今度かえるの王さまの演劇をする事になりました。よしなにお願いします。


 さて、ここはとある先輩の教室。

 私はヤンキーを引き連れつつ目的の先輩の待つ席まで外八文字で向かいます。


「…………つ、妻百合さん?」


 あんまり遅かったので向こうからやって来てくれました。


 彼女は羽場愛夏先輩。髪の毛が長過ぎて顔半分が貞子でおなじみですが、案外気さくで良い方です。

 この人は元『演劇部(予定)』のメンバーの一人です。『演劇部』の呪いを解明する為にメンバーに加わったらしい、現心霊研究部の部員です。


「おうおうおめぇ……ちょっと面貸せや」

「え?…妻百合さんこいつ誰?」

「背景の木です」



 一体いつになったら止むのでしょうかこの雨は。

 一級河川が増水で氾濫したというニュースを雑炊を反芻しながら眺めた昨今。私とヤンキーとハーフ貞子は校舎裏へ…


『演劇部』の怨霊、藤島さなえ成仏の為『演劇部』の舞台を完成させるのを目標に私達は動き出しました。

 目下問題となるのはメンバーです。

 主演(暫定)私に王子様(暫定)雨宮さんに背景の木(確定)永谷園さん。

 台本通りの舞台にするには役者が足りません。


「話ってのは、なに?」


 今学校中で疫病神扱いされている私の話をこうして聞いてくれるのは彼女くらいのもの…私は一度出した結論を撤廃する為恥を忍んで切り出しました。


「……舞台をやろうと思うのです」

「舞台?」


 私は在りし日の『演劇部』の台本を見せます。

 オカルトマニア、羽場先輩は興味津々にそれを手に取り内容を確認していました。

 私は追い打ちをかけます。


「私は『演劇部』の死んだ女生徒を目撃しました」

「んぇ!?」

「興味ありませんか?先輩」「あんだろ?(怒)」

「……目撃って…ど、どこで?」


 目線で指し示すのは半壊した体育館。彼女は瓦礫の放つ禍々しいオーラに目を輝かせていました。変態です。


「彼女を成仏させる為には舞台を完成させなければならないのです」「分かったか?(怒)」

「……この台本を?」

「はい……『演劇部』復活を目指していた私達には、その責任があると思うんです」


 詰め寄る私に対してそれでもオカルトマニアは不安を顕にして距離を置きます。

 この学校で起きてきた不審死を目の当たりにすれば当然です。


「……彼女を成仏させなければ、また更なる被害者が出るでしょう…次は、先輩のご友人…いえ、あなたかも……」「分かってんのか?(怒)」

「……(ごくり)」

「……『演劇部』の呪いを解いた英雄に、なりませんか?」

「え、えいゆう……っ」


 羽場先輩の心は少年でした。


「オカルトを極める者として……」

「…………配役は?」

「おめーは背景の雲だ(怒)」


 ********************


 一人目、ゲットしました。

 こうして桃太郎の如く仲間を増やしていく妻百合初音が次に目をつけたのはやはりこのお方…


「でさー?」「何そのオトコ、ウケる〜」「きんもっ!」「ほんとよねー(濃)」


 教室の前の廊下で談笑する華の女子中学生達の中にひとつ混じる濃厚な声…瞬間乙女の密談に紛れ込んだ異分子に少女達の視線が鋭くなりました。


「は?なに?」「お前なんだよ」「きんも」

「…………」

「何とか言えよ」「は?お前隣のクラスの加納?」「えっ待って!てかなんでスカート履いてんの?きんも!」

「………………」

「出てけよ」「ねぇみんな!このオカマがさー!」「きぃぃぃんもぉぉぉっ!!」


 三人目の仲間は女子生徒から蹴りを入れられるこの方、加納弘樹先輩。

 この方も元『演劇部(予定)』の仲間だったのですが、呪いに恐れをなして逃げられたお方…

 ちなみに彼が『演劇部(予定)』に入ったのは女装趣味が高じてとの事でした。女になりたいそうです。


 そんな彼は今日もスカートを履き、コ〇メ太夫みたいな化粧をした顔でしょぼくれ仲間外れでした。

 こんな見た事ない生き恥を晒しながらも夢を諦めない…今の私達には彼のメンタリティが必要です。


「加納先輩」

「……」


 すっかりいじけられた先輩はなんとも言えない顔で私達を見ました。羽場先輩は恐れをなして目も合わせられません。


「お時間いいですか?」




「……久しぶりじゃない…あたしに何か用?てかあなた、最近噂になってるわよ?呪いを振り撒く疫病神って……」

「加納!そんな言い方ないじゃん!!」

「いいんです、羽場先輩」


 どう見てもそっちが呪われてるでお馴染み加納先輩はどうにも女子の輪に入れないようで不機嫌そうでした。


「……加納先輩、襟足を伸ばしただけでは女の子にはなれません」

「……」

「加納先輩の夢、私がお手伝いしてもよろしいでしょうか?」

「……妻百合さんの家で女子会するの?」

「しません」


 やめてください。


「誰もが目を輝かせる煌びやかな美女に…なりませんか?私と一緒に」

「……どういうこと?」

「妻百合さん?それはどんな奇跡が起きても…」「不可能だ。仮にタイでち〇こ切ったとしてもな…(怒)」


 私は加納先輩に台本を手渡します。

 彼…いえ、彼女(自称)はそれを一度手に取ってからすぐに何かを察したのでしょう。慌てて床に捨てようとします。

 ので、その手を上から台本ごとしっかりと押さえつけます。


「私達の舞台に出てください。『演劇部』の仲間として」

「あなた…正気なの?」

「言っていたではないですか…みんなから「可愛い」と言われたいと…私に任せてください」

「……え?」

「知り合いに役者が居ます。そのコネでプロのメイクさんがあなたを世界一可愛い美女に変身させますよ」


 多分雨宮さんが何とかしてくれますよ。


「……世界一」

「…ちょうど悪い魔女役が余ってるんです(ごにょごにょ)」


 ********************


 次。

 ここまで来ればもうあと一人しか居りません。

 私達は放課後を待ちその人を待ち構えます。

 雨が傘を跳ね制服をびちゃびちゃにし、永谷園さんがブチ切れ、羽場先輩と加納先輩がお帰りになられた頃……


「……来ました」「奴か?(怒)」


 なんかずっと怒ってる永谷園さんとターゲットを捕捉します。

 天然ものではない養殖ものと思われるパーマを湿気でしなっとされる優男が一人自分のつま先を凝視しながら校舎から出てこられました。


 私達は動きます。


「おいこら(怒)」

「なっ…なんだお前はっ!?……っ!?君は……」

「お待ちしておりました。出柄詩先輩」


 出柄詩一輝先輩。元『演劇部(予定)』最後のメンバーです。


「少しお時間いいですか?」

「いや、デートの時間が迫ってるから……」


 しかしかつて化学準備室で夢を語り合ったような気がする同志はよそよそしくお誘いを断りました。

 永谷園さんの出番です。


「面貸せや(怒)」

「悪いが俺はア〇パンマンじゃない」

「お時間は取らせません。来て頂かなければこちらの永谷園さんがお兄さんと彼女さんの元へお礼参り致します」

「彼女じゃない。彼女になる人とのデートだ」


 どっちでもいいです。


「今日こそちゃんと会えそうなんだ。邪魔をしないでくれ」

「ちゃんと会ってくれるか分からない人より、後輩のお話を聞いてください」

「断る。すまないけどね妻百合さん、俺は君とはもう仲良くできないんだ」

「……そんなに仲良くした記憶がありませんが…」

「おい!共に『演劇部(予定)』で--」


 そこまで言って彼はハッとした顔をして目を逸らします。この、顔だけなら『演劇部(予定)』メンバー最高品質の男を逃す訳にはいかないのです。


「その……『演劇部(予定)』の件で話があります」「とりあえず聞いてけや」


 余程この学校での私の評判は悪いと見えます。校舎前でこうして話してる私達を横目で見てくる生徒達の視線を先輩はえらく気にしている様子。

 しかし、そんな事に構ってる暇はありません。


「私達、劇をやるんです」

「なに!?正気か!?『演劇部(予定)』は解散だと羽場から聞いたぞ!?」

「事情が変わったんです」


 取り出した台本を見て彼の顔が引き攣りました。


「……そ、それは……」

「分かりますか?当時の『演劇部』の台本です。演目はカエルの王さま」「原作からさらにストーリーに重厚感を与えたスペクタクル超大作に仕上がってるぜ(怒)」

「……なんのつもりなんだ妻百合さん。君は自分が何をしようとしているのか分かっているのか?」

「……ええ、『演劇部』の呪いを終わらせるのです」


「馬鹿な…」と出柄詩先輩、出涸らしのような情けない表情で天を仰ぎます。しかし、天を仰いだところで仏様は助けてくれませんよ?

 そう、これは私達の責任……


「私達が彼女の意志を継ぐのです。ちょうど王子様の召使い役が残っております」「出ろ(怒)」

「……ありえない」


 出柄詩先輩、顔を青くしながら首を横に振ります。その明確な拒絶の反応は覚悟していました…やはり彼を落とすのが最も難しいようです。


「今学校で起きている事を知っているのか!?君は……死にたいのか!?」

「何度も言わせんじゃねぇ。それを終わらせる為にやってんだよこっちは(怒)俺なんか背景の木だぞ?(激怒)」

「……出柄詩先輩、仰ってましたよね?『演劇部(予定)』に入ったのは深い事情があると…」

「冗談じゃないっ!!」


 彼の怒号が曇天に響きます。

 傍から見ればカップルの修羅場…不本意極まりないですが……


 しかしこれ以上私と一緒に人の目のある所に居ると彼の今後の学校生活にも関わります。


「もう俺に関わらないでくれ……」


 先輩の突き放すような冷たい声を受けながら私は“一旦”は引き下がるのでした。

 彼の背中を無言で見つめたまま……

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